第6話山口市内チャリンコデート

 温也が郷子との市内の名所を巡るプチデート、まずは朝早くに郷子は起きて、関西風お好み焼きの生地を作るところから始めて、キャベツをメインに野菜を細かく刻んで、小麦粉と混ぜて捏ねて、長芋をすりおろした後に胡椒と塩を適量に混ぜて、だしの素を追加。それからベーキングパウダーを入れて、さらに牛乳と混ぜ合わせて、小麦粉がだまにならないように生地を捏ねながら、最後に卵を入れて、水と小麦粉で生地の固さを微調整しながら、最後はホットプレートにサラダ油をひいて、お好み焼きの生地を投入して、バラ豚肉を上に乗せて、しっかりと両面に焼き色が着くまで焼いて、タッパーに食べやすいように切って入れて、マヨネーズとソースを小袋に取り分けて準備完了。

「ふーっ。焼けた~。二人で6枚。これくらいあれば足りるかなぁ。美味しいって食べてくれたら嬉しいんじゃけど💕」

そして、出かける時間までゆっくりと過ごす。温也に

「お好み焼きできた~💛」

とハートマーク付きのラインを送った。そう、お好み焼きは、5月3日に列車を写しに行くときのための試食も兼ねて、郷子が作ってみたのである。当の温也はと言うと、まだ夢の中であった。時間は午前7時。なかなか既読がつかないので、温也のラインに電話をかけてみる。

「ふぁ~い。もひもひ?」

「あっくんまだ寝てたの?昨夜何時に寝たのよ~」

「昨夜?日付が変わるころにはねたかなぁ?」

「いったいそんな遅くまで何してるんよ?夜更かしは体に毒だぞー」

「ふぇーい。今起きたじょ~」

「今日は9時ごろに出ようと思うけど大丈夫?」

「OK。用意するべぇ」

「用意するべぇって、酔っぱらいのオッサンじゃないんじゃから」

「ほんじゃまぁ、朝飯食ってくるべぇ~」

「全く本当にもう。うん、じゃあまた後でね」

温也が2階から降りてくると、他の3人はすでに起きていた。泉はどこかに出かけるのか、すでに5月の晴れた空を思わせるような、水色のワンピースに着替えていて、瑞穂と光もそれぞれ出勤の用意を済ませて、朝食のためにテーブルについていた。

「おぉ。泉~。ひろ君とデートかぁ?」

「ち、違うわよ。ひろ君だけじゃないもん。他のお友達も一緒に出かけるんやもん」

と言いつつ、少し顔が赤く染まっていた。

「そう言うお兄ちゃんはどうなんよ。郷子さんと出かけるんじゃないの?」

「俺は、今日は郷子に市内をチャリンコで案内してもらうの」

「二人きりでやろ?」

「ま、まぁ、そう言うことになる…かな?」

「じゃあお兄ちゃんも郷子さんとデートじゃん」

「まぁ、二人とも熱いことで。それよりサッサとごはん食べて頂戴。片付かんから」二人そろって

「ほーい」

と返事をして、朝食を食べながら

「お父さん、今度の5月3日にSL写しに行こうと思うんやけど、山口線に乗務したことある?」

「山口線かぁ。訓練で乗務したことはあるけど、まだ一人で運転したことはないなぁ。どこに写しに行くんや?」

「まぁ、篠目駅に行こうかと思うてるんやけどな。給水塔が残ってるやろ?どうかなぁって思うんやけどな」

「津和野に行く方を狙ってるんか?」

「そう」

「津和野に行く方は、駅に停車するために、絶気運転になってるやろうから、あまり煙は期待できんかもしれんぞ」

「まあ、それは仕方ないかなって。新山口に向いていく方は夕方遅くなるからね」

「まぁ、それやったら、篠目駅のホームの一番新山口に近いところで写して、停車中に給水塔と絡めて写した方が、絵になると思うよ」

「そっかぁ。ありがとう」

そのあと光は今日の乗務のために出勤していった。そして瑞穂もスーパーでのパートに出かけて行った。

 そして、朝9時。郷子の家のベルを鳴らして、郷子と一緒に自転車をこいで出かけた。

「あっくんおはよう。あっくんて結構寝坊助?」

「まぁ、そうかなぁ?」

「これから私が朝モーニングコールしてあげよっか?」

「大丈夫。遅刻しないように起きれます~」

「本当?じゃあ、これからまずどこ行こうか?ここからだと湯田の温泉街が近いから、温泉街にある中原中也記念館に行ってみる?」

「中原中也って言うと、詩で有名な人だよね?」

「そう、山口がうんだ、偉大な詩人よ」

「じゃあ、行ってみようか」

自転車こいで、椹野川を渡って、湯田温泉駅間近の山口線を高架橋で渡って、湯田の温泉街に入って、中原中也記念館の建物が見えてきて、学生証を受付で見せて入館。そこには、中原中也の足跡や、主な詩が展示されていた。中原中也が見つめた近代日本。そのころに思いをはせる二人であった。そして、31歳と言う短い生涯を終えたことも知った。

「俺が31歳の頃って、どんな大人になってんやろ?」

「まぁ、結婚して、子供が二人くらいいるんじゃない?」

「そうかなぁ?」

「あっくんはどんな大人になっていたい?」

「俺は、自分が愛した人とずーっと幸せに暮らしていきたいなって」

「そうなんじゃあ。私もあっくんとずーっと一緒にいたいなぁ」

「俺も」

そうして、どこに行こうかってことで、湯田温泉の駅のすぐ近くに併設されている足湯に向かった。ここは山口線を走る列車が間近に見られるということで、11時ごろに足湯に到着。幸いに空きスペースがあったので、持参したタオルを出して、靴と靴下を脱いで、ズボンのすそを少しまくり上げて、脚をつけると、暑くもなくぬるくもない、ちょうどいい湯加減が心地いい。ふと隣に座る郷子の足元を見てみると、透き通るような色白な足が見えた。その視線を感じた郷子が

「あぁ、あっくん今ちょっとスケベなこと考えてたでしょ?」

「へ?俺?まぁ、ちょっとご想像にお任せします~。それにしても郷子って色白できれいな肌してるよなぁ」

「おほめつかまつりましてありがとうございまーす。あっくんってエッチなことの想像力たくましいでしょ?」

「まぁねぇ。俺も一応男やからねぇ」

「あっくんのスケベ。変態・エッチ」

なんて冗談言いながら足湯に浸かっていると山口線の列車がいくつか発着しては用務客や観光客を降ろしていく。そして、ぬれた足を拭き上げて、お昼に食べるのにもちょうどいい時間になってきたので、近くの高田公園に行って、ベンチに座って、郷子が今朝作ったお好み焼きを出した。

「これ、今朝作ってみたんじゃけど、食べてみて」

そう言って、マヨネーズとソースも一緒に取り出して食べてみた。温也が一口口に運んで飲み込むまで、郷子はドキドキしながらじっと、彼の反応を見ていた。

「うん。うんまい。これめっちゃいけてるじゃん。これ、何枚でもいける」

「本当。よかった~」

「郷子、本当に料理美味いなぁ」

「さんきゅ。今朝早起きしたかいがあったわ」

二人ともお好み焼きをさ3枚ずつ平らげて、おなかいっぱいになったところで、少し休憩をはさんで、次は国宝瑠璃光寺に向かうことにした。ここからは自転車で20分ほどかかるが、4月の終わりの心地よい風が吹いて、気持ちいいサイクリング日和であった。途中、二人の間を猛烈な勢いで追い越す自転車と接触しかけて、郷子が

「もう何よあの自転車。危ないじゃん、バカじゃないん」

とかなりご立腹。

「まぁまぁ、あれはね、う〇こが漏れそうになってたんよ。ウーンもう駄目。うまれそう。漏れるーって。ああいうやつはね、モレモレマンって言ってやったらいい」

「モ?モレモレ?」

「そう、モレモレマン。そう思ったら腹も立たんやろ?せっかくのデートが腹立てたら台無しになるで」

「モレモレマンかぁ。なんか笑える」

「そう、あんな奴のために腹立てたらもったいない」

「まぁね。じゃあ、気を取り直していきますか。モレモレマンバイバーイ」

そして、瑠璃光寺五重塔に到着。ここでも何枚かスマホで二人の写真を写して、周辺を散策。ここの境内は桜の名所として知られていて、桜のシーズンは大勢の観光客でにぎわう。

「ここさぁ、郷子のお母さんの名前が桜って言うんやろ?名前にちなんでここに来年の桜のシーズンは両方の家族で一緒に花見しにこんか?」

「それめっちゃいいじゃん」

この瑠璃光寺は大内氏ゆかりの寺で、京都の街並みを模した大内文化が花開いたときの建物で、歴史好きにはたまらない観光スポットとなっている。その歴史的建造物を見ながら庭園を散策して、喉も乾いてきたので、持参した麦茶をぐいっと飲んで、14時ごろに瑠璃光寺を後にして、一の坂川沿いを散策してみることにした。県立図書館に自転車を止めて、川沿いを二人でゆっくりと歩く。温也の方から、そっと手を重ねて、二人手をつないで歩いたのであるが、温也からのちょっとしたサプライズにちょっと驚いてドキドキしながらも、郷子もそっと温也の手を握り返して、二人で歩いていると、醤油ソフトなるものを見つけて、二人で食べてみることに。老舗の醤油屋さんの蔵があって、そこで作られているソフトクリームなのだそう。ソフトクリームの甘さと、醤油がほんのりかおる、美味しいソフトクリームであった。さらにここはお洒落な喫茶店などもあって、5月の終わりから6月初めにかけては、蛍の乱舞も見られるという。今度は蛍が舞う季節にまた来たいなって二人で話していた。

 そして、ここも桜の名所として知られていて、ここも来年の桜の季節に来てみようっと思った二人であった。

 やがて、時間は16時になろうとしていた。そろそろ帰るかって話になって、自転車を止めた県立図書館まで行って、自転車をたくさんこいだのでもう一回足湯に浸かって帰ろうっていうことになって、湯田温泉駅すぐ近くの足湯に浸かって、疲れをいやして、17時過ぎに家に帰った二人。

 瑞穂と泉も帰ってきていて、夕食の準備に取り掛かっていた。

「お兄ちゃんおかえり。今日はどんなやった?」

「どんなやったって、ごく普通にデートしてたけど?」

「ふーんそうかぁ」

「泉の方こそどうやったんや?ひろ君とデートできたんか?」

「だから違うって。私たちはまぁ、ひろ君の家には行ったけど、ひろ君とか、他のクラスの子と一緒にゲームしてたの」

「そうなんやぁ。まぁ、いいんじゃね。それじゃあ、俺風呂洗って来るわ。」

「あ、ついでに洗濯物取り込んでくれたら助かる」

「わかった~」

やがて光も帰ってきて、その日はとんかつを食べた。

「温也。今日はどうやったんか?付き合いするのはいいけど、絶対に彼女を泣かせるようなことはしたらあかんで。付き合うってことは、重い責任も伴うからな。彼女のこと、大切にせなあかんで」

「うんわかってる。絶対に郷子を泣かせるようなことはせんから」

「それならいいんやけどな。泉も、自分のことを大切にしてくれる男と付き合わんとだめやぞ」

「大丈夫。学校のクラスの皆はいい人ばかりやからね」

「それなら安心したわ」

「そう言えば、もうすぐ福知山線の脱線事故のあった日やろ?お父さんの職場では慰霊のことをなんかするん?」

「多分当日は、新山口の事務所で黙とうをささげるんじゃないかな」

「この日は絶対に忘れてはいけん事やからね」



 一方の郷子の家。望も桜も仕事が休みで、二人でちょっとしたドライブに出かけて、楽しんだようである。

「今日は温也君とどこを見て回ったん?」

「今日はね、中原中也記念館と、湯田温泉駅のすぐ近くの足湯と、瑠璃光寺と一の坂川観て回ったんよ。あっくんも喜んでたわ」

「郷子が作ったお好み焼きはなんて?」

「めっちゃおいしいって。お母さんに仕込んでもらって本当によかったよ。ありがとうね」

「いやいや。温也君が喜んでくれてよかったじゃない」

「まぁ、これからもちゃんとした付き合いをしていきなさい。お父さんは彼との付き合いは反対しないし、応援してるから」

「私も。ただ、親に心配かけるようなことだけはしないようにね」

「はーい」

夕食を済ませて、桜と食器の片づけを済ませて、自分の部屋へ。今日、初めて男子と手をつないだことで、郷子の胸は、まだ少しドキドキしていた。恋人としてきちんと温也が自分のことを大切に思ってくれていると思うと、嬉しくて嬉しくて、今にも大きな声で

「自分は今、幸せなんだ~」

と叫びたくなるような気持であった。それから思い出し笑いしてしまうのが、彼が言った

「モレモレマン」

と言う言葉。彼が作った言葉なんだろうけど、今度そう言いう場面に出くわしたら、私も思いっきりそんな危ない運転してる奴に

「モレモレマン」

とでっかい声で言ってやろう。そう思った郷子であった。それから温也とラインのやり取りをして、日曜日は何しようかなぁ。そう考えていたらいつの間にか眠っていた郷子であった。温也は郷子からの返事が来なくなったので、ラインに

「お休み💕」

とラインを送って眠りについた。

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