第4話サッカー観戦
温也が山口第一中学校に転校してからおよそ1週間。山口の生活にもだいぶ慣れてきて、吹奏楽部にも入って音出しをしたり、曲を演奏したりして、前の大阪での中学校と同じレベルくらいまで感覚を取り戻してきていた。
そんな4月12日の金曜日、部活を終えて温也と郷子は一緒に帰った。藍も部活が終わって帰るところで、バレーの練習で汗だくになった様子で、汗にまみれたバレー部のユニを持って帰って洗濯するのだという。
「藍ちゃんはバレーの大会出れそうなん?」
「うん、何とかレギュラーに入れてもらえそう」
「そっかぁ。藍ちゃん練習頑張ってるもんね」
「藍ちゃんはどのポジションがやりやすいとかあるの?」
「うーん、特に今はどのポジションがいいとか考えてないかなぁ。とにかく与えられたポジションで頑張るしかないって感じ」
「そうなんや。頑張って」
そんな会話をしながら藍と別れて、二人でいろいろ話しながら帰宅。そして迎えた4月14日。郷子は朝早くから焼きサンドをつく行っていた。ジャガイモを茹でて、ニンジンや玉ねぎを細かく刻んで炒めて、チーズを混ぜて、マヨネーズと胡椒と塩と酢で味付け。歩くと少し汗ばむくらいの陽気になるということで、塩と酢をきかせた味付けとなった。最後にゆで卵をみそこしと麺棒を使って押し出しながら、あとはレンジで焼き色がつけて、パンに塗ってトースターで焼き目が着くまで焼いた後は、サランラップにくるんで、ジップロックに入れてふたをしたら出来上がり。あとはお茶を用意すれば準備万端である。焼きサンドは小一時間くらいで完成し、朝10時ごろに父親の望と一緒に温也の家に向かい、ベルを鳴らす。
ピンポーン。
ガチャリと玄関が開いて、温也が顔を出す。
「あっくんおはよー」
「温也君おはよう。今日はよろしくね」
「郷子さんおはよう。お父さんおはようございます。こちらこそよろしくお願いいたします」
3人そろってミラスタに向かって歩き出した。途中郷子が小声で
「なんで「郷子さん」なのよ。郷子って呼んでって言ったじゃん」
「だって、お父さんの前で、いきなり「郷子」って呼ばれんわ。二人きりで会うときやったら「郷子」って呼ぶけど」
「うんも~。意外とあっくんて律儀なんじゃねぇ」
「これからもっと親しくなったら、お父さんとかお母さんの前でも郷子って呼ぶけど」
「わかった~」
少し郷子はふくれっ面をしながらそういった。途中椹野川を渡って、さらに山口線の踏切を渡って、少し歩くとミラスタのメインスタンドが見えてきた。やはりレノファのユニフォームを着た人たちがミラスタに向かって歩いて行っている。途中レノサポさんと挨拶を交わしながら、3人でぺちゃくちゃ話しながらのんびり歩いてきたので40分ほどでミラスタに到着。観戦チケットを買って試合開始までスタジアム周辺を散策。ちなみにチケットは望が払ってくれた。スタジアム周辺には朝田古墳群と言う遺跡があって、車も停められるようになっているほか、ちょっとした休憩スペースもあるため、少し早い昼食を3人で食べる。
「あっくん、どんな?美味しい?」
「うん。めっちゃうめぇー。最高じゃん。めっちゃうめぇー」
「そう?よかった~。口に合わなかったらどうしようかって、ちょっと心配してたんじゃあ」
「いや、マジでおいしいよ。サンキュー」
「温也君、美味しそうに食べるんじゃねぇ。」
「そりゃそうですよ。郷子さんの作った料理最高~💛」
「郷子よかったじゃん。将来は郷子の旦那さんになるかもしれん人の胃袋がっちりつかんだみたいじゃねぇ😀」
郷子は顔を真っ赤にしながら
「もう、お父さん、からかわないでよ」
「いやいや。郷子さんとなら夫婦になってもいいかも~」
「ブッ。あっくんまで…」
そんな話をしながら昼食を食べ終わり、スターティングメンバーが発表されて、キックオフの時間が近づいてきた。二人は天気も良かったためバックスタンド側に陣取り、試合開始を待っていた。そして14時ちょっとすぎにキックオフのホイッスルが鳴らされて、試合開始。対戦相手はザスパ群馬。いきなりコーナーキックのチャンスをつかんで、見事先制する。先制は郷子の大ファンである河村孝介選手。先制点を挙げて郷子のボルテージは爆上がり。河村選手を追う目がハートになっていた。さらに後半に入って同じく河村選手が追加点を挙げて、郷子は温也や父親である望もそっちのけで喜んでいた。温也はなぜ河村選手の大ファンになったか?は聞きそびれてしまって、
「なんかすごい熱の入りようやなぁ」
と思っていた。そして、最終的には4‐0で勝利して、郷子は大満足の試合内容だったようで、試合が終わった後に行われる選手のあいさつの後、インタビューもすべて聞いて帰ったのであるが、帰る道中もテンションが高く、落ち着いたのが家に着いてからであった。
その家に帰ったのが17時過ぎ。次第に黄昏ていく風景を眺めながら、郷子は温也の言った
「郷子さんとなら夫婦になってもいいかも」
と言う言葉の真意を確かめてみたくなった。
「ねぇねぇ。あっくんが言ったさっきの言葉、信じてもいいの?」
「うん。俺ねぇ。山口に引っ越しして来て、まだ何もわかっていない俺に、一番最初にやさしく声をかけてくれたのが嬉しかったんや。だから、郷子と付き合えたらいいなって思うてたんや。まぁ、まだ中学生やから、これから受験があるし、他にもいろいろあると思うねんけど、俺たち付き合ってみん?」
「あっくんがそう思ってくれてたの嬉しい。これからもよろしくね」
「それにしても郷子のお父さん、なかなか面白い人やなぁ」
「そうなんよ~。いっつもあんな感じ。まぁ、面白いけぇいいんじゃけどね」
そう言って二人はそれぞれの家に入った。こうして温也と郷子の一回目のスポーツ観戦は終わった。
郷子と望が家に入って、桜が今日、郷子と温也の二人を見てどんな感じだったか聞いていた。
「お父さん、郷子と温也君、どんな感じじゃった?」
「あぁ、彼はすごく誠実そうな感じで、好青年じゃったよ。あれなら次からは二人で行かせてもいいんじゃないか?」
「そう。それならよかった。真面目そうじゃもんね。郷子はどう思ったん?」
「私?私はあっくんと一緒に居られて楽しかったよ。学校でもすごい真面目じゃし、吹奏楽もめっちゃうまいんよ。私がスキルを教えてもらわんといけんくらい」
「それならよかった。まぁ、真面目に付き合いなさいよ」
「はーい」
一方温也の方も、瑞穂が温也に郷子とのことを聞いていた。
「温也、今日はどんなやったん?」
「うん、郷子さんと楽しくサッカー観戦したよ。郷子さんの大ファンの選手が2ゴール決めてめっちゃ喜んでたわ。料理もうまいみたいやしね。今日焼きサンド作ってきてくれたんやけど、めっちゃおいしかったわ」
「そう。よかったね。大事な人になるかもしれんのやから、大切にしなさいよ」
「わかってるって」
「今日はお父さん遅いから、3人で早めに夕食済ませちゃいましょ。泉を呼んできて」
「OK」
階段を上って泉の部屋の前まで来て
「おーい。泉~。夕飯食べるって」
「わかった。お兄ちゃん、今日のデートどんなやったん?」
「今日?別に特に変わったことなんてねーし」
「うそうそ~。郷子さんとチューとかしたんじゃない?」
「郷子のお父さんもおる前でそんなことできるか~」
「まぁ、郷子だって~。もう恋人じゃん😊」
「だから兄貴をからかうなってーの」
「あぁ~お兄ちゃん、顔が赤くなってる~」
「こらー二人とも何してんの。早く降りてきなさいよ」
「はーい」
夕食を済ませて、入浴も済ませて自室でのんびり過ごしていると、郷子からラインが入った。
「今日はお疲れさま。また今度サッカー観に行こうね。今度はあっくんの好きなことにつきってもいい?」
「いいよ~。今度のゴールデンウィークに電車写しに行こうと思うんやけど、一緒に行こうか」
「うん。楽しみ。そっかぁ、あっくん電車好きって言ってたもんねぇ。どこか電車に乗って一緒に行こうね」
「うん。また計画立てておくわ」
「ほーい。それじゃあまた明日学校で会おうな。お休み~」
「うんお休み~」
こうして、日曜日の夜は更けていった。
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