第21話

シノが現れてから、随分経つ。

ここは変化がないため、時間の経過がわからない。一年か、百年か。

アインは遥か昔に、時間感覚を失っている。

過去か現在か、という大雑把な記憶の分け方をしていた。

すでに、無為に時間を浪費することに苦痛を感じなくなっていた。

過去に感じていた焦りはなく、しかし、諦めたわけではない。真の死を迎えるか、生き返るか。

シノが現れて、好機だとアインは考えている。だが、今は出来ることはない。まだ何もしない。

何のためにシノがここへ訪れたのか、わかっていないのだから。


物が随分と増えた。

一軒家に始まり、紙やペンなどの道具類、インゴットなどの資材、などなど意味があるのかわからない物が散乱していた。

「片付けたらどうだ」とアインが言うと。

「…。ま、まあいいではないですか」と何やら焦ったようにシノは誤魔化した。

アインはそんなシノを見て、あまり言及してほしくないらしいと察した。

「あぁ、そういえば、わたしが何をしているか、何をしたいのか、説明していませんでしたね」

唐突に、シノはそう言った。

それに、アインは黙って耳を傾ける。

「わたしは数十回、死没と誕生を経験しています」

そうして語り始めたことを要約すれば、後がない、という話だった。

「わたしは元々『治癒師』でした。魔術により、傷病を治し癒す。その究極たる不死の術が完成目前で、わたしは死にました。原因は不明です。

そして気がつけば、子どもになっていました。不死を完成させられる、そう喜びましたが、世界が違いました。魔術が使えず、そもそも、その世界には魔術は無かったのです。何も出来ず、ただ頭の中で不死の術を想い描くだけ。そうして、その世界での一般的な人生を送り死にました。そして、また別の世界の子どもに。

これはわたしの求めた不死なのではと考えていました。

そんなことを何度も繰り返し、ふと、なぜ生き返るのだろう、と極めて単純なことに思い至りました。結論から言えば、未練です。

未練が魂と記憶という情報との結びつきを強固にし、システムによる情報の除去を阻害する。

そして、生き死にを繰り返す。

それを続ければ魂と体のパワーバランスが崩れ、魂だけで存在できるようになります。

魂だけになった果ては、リソースを貪るだけの醜い化け物になっていしまうのです。

不死を探求し、その果てがこれです。

わたしは、こうなりたくない。しかし、猶予がない」

シノは不死を探求した。擬似的ではあるが不死となった。

その果てが、醜い化け物。

シノはかつてないほどに、忌避していた死を求めている。

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死の国 戌亥 @abc123abc123abc123

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