第8話
俺と司教は椅子に座り、本題に入る。
「『装飾卿』について、分かっていることを教えてほしい」
俺がそう言うと、司教は懐から手帳を取り出した。
「この手帳には、私が知ったこと、忘れたこと、その全てが記録されています」
記憶したものを記録する手帳。
つまり、『死の国』のほとんどのことがこの手帳には記録されていると言うことだ。
司教は永くこの『国』にいる。
そして、多くのことを研究してきた人物だ。
この『国』のこと、◾️のこと、そして、この『国』の人々のこと。
最も知識を持っているのは司教であり、他には存在しないだろう。
「残念ながら、書かれていることはそう多くはありません。
享年二十三歳。生前は、いえ、生前もインテリアなどを作成し、それを売買して生計を立てていたようです。
二十歳までは人気だったようですが、だんだんと売れ行きが悪くなり、そして心を病み、餓死。
アイリーンという恋人がいたようですが、二十二歳の時に愛想を尽かされた。
書かれていることはこれぐらいです」
「なるほど。わからん。判断の材料にしずらいなぁ」
「でしょうね。この『国』の人々の情報を集める方法は『図書館』で探すか、直接聞くしかありません。そして、『図書館』には個人についてそれほど多くの情報があるわけではない」
「『装飾卿』の目的が何なのか、そもそも有るのかどうかもわからないが、一旦、一番可能性が高い『自分の世界に帰ること』と仮定しよう。奴にできると思うか」
『自分の世界に帰る』という考えは、この『国』に来た多くの者が抱き、不可能だと諦める。
もし、これが可能だとしても、実行させるわけにはいかない。
まあ、俺たちが何かする必要はないし、これはただのお節介ではあるが。
「可能でしょう。時間は膨大に掛かるでしょうが、我々にとってそれは、有って無いようなものです。
そして、問題はそれ以前のことです。あの『岩場』を破壊できたということは、この『国』に破壊できないものはないということ」
「つまり、『装飾卿』はこの『国』を滅ぼせる」
「はい。そうなれば、■が意識を向けてしまうかもしれません」
「内々で済めば良いが、『自分の世界』に帰ってからそうなれば悲惨だ。規模がどれほどかわからない」
「えぇ…………では、『装飾卿』にどのような目的があるかは不明ですが、とにかく妨害する方向で良いでしょうか」
「ああ。今できることはそれぐらいしかないしな」
そうして会話は終わり、『装飾卿』について司教はさらなる調査を、俺は牽制兼監視をすることになった。
まあ、やることはいつもと変わらない。
俺はいつも通りに過ごせばいいだけだ。
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