第7話

「こりゃ駄目だな。今回は退くよ」


作戦の練り直しだ、と言いながら『装飾卿』襲撃イベントに参加していた人々は『個人部屋』に転移して帰っていく。

精神的なダメージが大きかったのだろう。

誰もいなくなった岩場で、俺は尚も考え事をしていた。

普段なら、狙撃なり奇襲なりで殺されている程に隙を晒している。

しかし、俺は思考を止めるわけにはいかなかった。

『装飾卿』がやろうとしていることが、俺が懸念していることなら、いますぐ止めなければならない。

しかし、どうやって、このクレーターを作れるような戦力を持つ存在に肉薄するか。


「…………司教に会いに行くか」



『無法の街』から転移して、ここは『記録の街』。

『死の国』の、あらゆる存在や事象を記録することに喜びを感じている者たちが集まる場所。

さまざまな要因で、『魂の流れ』に合流することが極めて困難な者たちが、絶望の果てに集まっている。

そんな『記録の街』の中心地にある建物に、俺は居た。

その建物の中は役所のような造りで、珍しく人々が忙しなく動いている。

いつもは皆んな落ち着いていて静かだった。

ここの人たちは今、動揺しているのだろう。


「アイン様。やはり、いらっしゃいましたか」


俺にそう話しかけてくるのは、俺が会いにきた司教である。


「思った通りに忙しそうだ」

「それは当然でしょう。ありえないとされていたことが起きたのですから」

「うん。そういえば、俺たちがあの岩場を壊そうとして、どれほど経った?」

「ビームキャノンの件からですか? 一千年ほどは経っていますよ」

「千?」

「はい」


俺は愕然とした。

『死の国』に来て、千年たったくらいと思っていたが。

自分の時間感覚は随分とおかしくなっているらしい。


「ここに来て、千年たったくらいだと思ってた。なあ、俺が何年ここに居るか、わかるか?」

「いえ、正確なところは存じませんが、一万年よりは長いことは確かです」

「そんなに…………いや、違う。世間話しに来たんじゃなかった」

「えぇ、理解しています。しかし、私も、動揺しておりまして」

「そりゃそうだ」

「では本題に、いえ、まずはこちらへ」


そう言って、司教は俺を個室に案内する。

案内された個室は、狭いがちょうどいい感じで、机一つと椅子が二つあるだけだった。

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