第5話

触手触腕がさらに五本、高所に伸びていく。

開いた花が睨むように、襲撃者たちに向く。

花の中心が光れば、照らされた者は焼け、焼けた者を介錯し、後方で蘇生させる。

この繰り返しではあるが、着実に襲撃者たちは前へと進んでいた。

この場に残っているのは、五千人を下回っていた。

蘇生組が復帰するのは、まだ先だろう。



『屋敷』の中心の部屋で、『装飾卿』は外へと視線を向ける。


「……『フラワースネーク』では、防ぎきれんか。『砲型』は、拡散では防御が容易か」


そう呟き『砲型フラワースネーク』を五本、手動で操作する。

今までの『砲型』は、生け捕りを考えた拡散攻撃だったが、それを収束攻撃に変える。

高所に伸びていた五本を、低所に、襲撃者たちの腰ぐらいの高さに持ってくる。



「なんだ……?」


襲撃者たちは動揺する。

高所からバカスカ撃ってきた触手触腕が、姿勢を低くしたのだ。

攻撃を躱すためではない。破損してもすぐに修復していた。

故に考えられるのは、新しい攻撃の予備動作である。

しかし、どのようなものか全くわからない。


『砲型フラワースネーク』たちの花に、光が灯る、と同時に、花が左右に揺れた。

それだけで、約一千人が胴体を両断された。


「マジか……」


誰かの虚しい声が静かに響いた。



「おぉ、収束はなかなかだな」


『装飾卿』は満足げに呟く。試射は、上々。

次は足首を狙って、より低い位置から射撃させる。

しかし。


「呪力不足?…………調子に乗って撃たせ過ぎたか?」


しかし、ストックは十分だったはず。

インテリアや備蓄していたインゴットもまだまだある。

呪力が不足するなどあり得るのか?


「………………しまった」


『装飾卿』は呆然と呟いた。


「侵入を許したか」



机や椅子、壺やポット、棚や燭台。

それらを壊して周る。

俺にはどれが『生きて』いるのかわからない。

だもんで、適当に壊す。

『生きて』いれば消えるし、そうじゃなければ普通のインテリアだったということだ。

俺が『屋敷』に侵入して、約一分がたった。

壊したインテリアの約八割は消えず、破片がそこら辺に散らばっているので、『装飾卿』には本当に申し訳ないと思う。

ちなみにどうやって『屋敷』に侵入したかと言えば、単純で、特技の『誰にも見つからない』をしながら最短で突っ込んだだけ。

敷地に入った瞬間に、呪術系ジャミング装置を起動、そして、適当にインテリアを壊してるってわけ。

ジャミング装置のおかげで、俺が『屋敷』にいることはまだバレていない。

この『生きたインテリア』やどこかにある『生きたインゴット』が、『装飾卿』の力を増幅している。

誰かが言っていた、『先にバッファーを斃した方が、後が楽』、を実践しているところ。

とはいえ、もうバレたらしい。

木のような見た目の壁が、ぐにゃぐにゃと蠕動している。

壁だけではなく、部屋全体が、床や天井も蠢いている。

そして、無数の眼が現れ——


「ヤバッ!!」


俺は即座に、爆弾を噛み砕いた。

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