第3話

『無法の街』の西側には一軒の豪邸がある。

この街の住人なら誰もが忌み嫌う場所。

『装飾卿』と、そう呼ばれている変人が住んでいる。


何年かに一回、大勢が集まって『装飾卿』を襲撃することが、いつからか恒例になっている。

それは『装飾卿』にやられた者たちが抱くヘイトが尋常ではないからだ。

しかし、個人では敵わない。ならば集団で、という風に自然と人が集まるのだ。


そうして始まった襲撃は、レイドバトルとも呼ばれているが、大抵の場合は襲撃した側が負け、『装飾卿』が勝つのだ。

『装飾卿』が勝った場合、負けた側は悲惨である。

文字通り、装飾として屋敷に飾られるのだから。

生きたまま、意識を保ったまま、感覚を保ったまま、餓死するまで、何日も、何日も。



——



今日から『装飾卿』襲撃が始まる。

この襲撃は勝つか負けるまで何日も続く。

長くても大体は五日で決着する。

俺が知ってる限りではそれぐらいで終わる。


今回集まったのは総勢一万人。

少ない方だけども、やりようはあるし作戦はいつも通りだ。

作戦は単純。『屋敷』から認識されない場所に陣取り、そこから突撃して爆弾で自爆する、それだけ。

捕まったら元も子もないし、『装飾卿』の攻撃を回避するのは難しい。

だから自爆。自決って言う方が正しいかもしれないけど。

そうやって『装飾卿』までの道を作り、これを討つ。

討伐が無理でも嫌がらせはできるって寸法らしい。

これ考えたやつは性格悪いと思う。

この国は死んでも復活できるからって、それを前提にした作戦とか、合理的すぎてイカれてるよ。

今回参加した人たちは、『装飾卿』に捕まるまで延々と復活しては自爆突撃を繰り返す。

この作戦、頭悪いと思うけど、これが一番効くのは確からしい。


この『装飾卿』のタチの悪いところは、普段は引き篭もってる癖に、偶にふらっと中央に現れて何人も攫っていくこと。

そんなもんで、めちゃくちゃヘイトが高い。

だから定期的に『装飾卿』襲撃イベントがあって、『無法の街』住人の1%が参加する。

言ってしまえば、お祭りである。


さてさて、そんなこんなで襲撃開始まであと五秒と、パネルに表示されている。

四、三、二、一。


地響きの様な音とともに、一万人が一斉に動く。

『屋敷』は地味な見た目ではあるが、でかいうえに広い。

そして、『屋敷』そのものが、『装飾卿』の武器である。

塀がぐねぐねと脈動し、植物が成長するかのように歪み、やがて数多の触手や触腕に変化した。

それら触手触腕は、襲撃者たちに伸びていき、先端が花の様に開く。それは、獣の大口と変わらない。

開花した触手触腕は、襲撃者たちを飲み込んでいく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る