第2話

この『国』には、色んな『街』がある。

例えば、飲食店だけの街、遊戯場だけの街、決闘場だけの街、賭博場だけの街、果ては娼館だけの街、などがある。

もっといろいろとあるけど、俺がよく行くのはこれぐらいだ。

しかし、残念なことに、俺にはこの無秩序で野蛮な『無法の街』があっているらしい。

ろくでなしとは自覚したくなかったけどね。


この『街』には、ルールは存在しない。

だからか、ここにいる人々は延々と殺し合いをしている。

ヴァルハラみたいだと、他所では例えられているらしい。

ヴァルハラを俺は知らないけど。

殺されても『個人部屋』で即座に復活するので、容赦しないし、遠慮しない。

誰も彼もが好き勝手に振る舞っている。

この街では、それが常識でそうすることに尽力している。

それが嫌なら他の街へ行けと、誰もが言うだろう。

ここはそういう混沌としたところである。


そういうところなので、たまに頓珍漢なことをする奴がいる。

この暴力上等の『無法の街』で店を構えているやつらだ。

武器屋、喫茶店、リサイクルショップ。

この三店。

正直、いろいろおかしいと思う。

だって普通に経営できてる。

何度も何度も襲撃されてるのに。

おかしいだろ。

店ができたての頃、すぐに壊されるだろう無くなるだろうと誰もが思っていた。

しかし、店に居着いた奴らがやたら強い。

防衛力がずば抜けていた。

しかも、そもそも各店の店長が信じられないほど強い。

異能とか武器とか、単純なフィジカルとか。

さすが、こんなところで店やろうとした変人、敵わないね。

何度か戦いを挑んだけど瞬殺だった。

今では良い休息場になっている。

憩いの場だ。俺もよく利用する。


今いるここは、喫茶店。

コーヒーや紅茶、他にも色々あって全部美味い。

さっきまで俺はボコボコにして、ボコボコにされて、疲れたのでここで、ぼーっとしている。


「ンだと!?」

「アァッ?!」


ぼーっとしていると、喧嘩が始まった。

よくあることだが、ここでは喧嘩などの戦闘行為はタブーでしてはいけない。

二人が殴り合っていると、二人の頭部が、球状の紺色の何かに飲み込まれ、そのすぐ後に全身が消えた。

これは、喫茶店マスターの力。生前からある異能らしい。

今のはワープか圧縮で、頭を潰されたんだろう。

正直、異能のことはよくわからんし、考えるだけ無駄だと思ってる。


「ハムカツサンドとコーヒーです」


人型のお手伝いロボットが、俺が注文したものを机に置き厨房へと帰っていく。

ここのマスターはおっかないが、料理は美味い。

だからこそ、なぜこんなところで店をやっているのかわからん。


「美味い」


料理は絶品で、ついつい言葉が出てしまうほどだった。


店の外ではいつものように、バラバラになった人が宙を舞い、爆炎が人々を呑み込む。

凄惨な場面、しかし、みんな楽しそうに暴れている。


「平和だ」


この『街』ではこれが日常である。

そして、この『街』に入り浸る奴はみんなイカれてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る