死の国
戌亥
第1話
俺がここに来て何年たったか、もう覚えていない。
おそらく千年とかその辺だろうと思う。
今いるここは、『死の国』と呼ばれている。
死者の魂が集まる場所であり、生への執着や未練を解消する場所らしい。正直、よくわかってない。
『死の国』という名前の割に、陰鬱としてなくて愉快な場所が多い。
そして、この『国』には当然さまざまな『街』がある。
俺がいるのは『無法の街』。
大体ここに俺はいる。
他所では最近、アナーキーサーバーとか言われているらしい。
混沌としているが、自由ではある。
ルールは無いし、何をやってもいい。
ろくでなしが集まるのがこの『街』だ。
数分前に爆殺された俺は、喫茶店で食事をしている。
そして新入りらしいコイツに、ここがなんなのかを説明している。
「つまり、あの世ってことか?」と新入りは言う。
「そうだ」と俺は頷いた。
「ここは地獄か」
新入りが、外を見ながら言う。その目には絶望があった。
外では、弾丸やら爆弾やら、血やら肉やら、魔法やら荷電粒子やらが飛び交っている。
「確かに、言われてみれば地獄か?」
「こ、こんな……どうすれば……」
新入りは随分と動揺している。
別に、ここ『無法の街』は地獄の様な混沌だが、別の『街』ではこんな有様ではない。
「ここに来て死んだことはあるか?」
「は?……死んだからここにいるんだろ」
「……(一回も死なずにこの店に?)……まぁいい。
この『国』には他にも『街』がある。ここが嫌なら、別の『街』に行ったらどうだ?」
「……別の………?」
「ああ、『個人部屋』からいつでも行ける」
「個人部屋? ッ! あぁ?」
新入りは、驚きと共に顔を仰け反らせた。
目の前に板の様なものが突然現れたからだろう。
それがメニューとかウィンドウとかと呼ばれているのを聞いたことがある。
本人以外は見ることができない仕様で、情報を羅列した半透明の板の様な物。
俺はそのまま、パネルって呼んでる。
こいつは、この『国』の疑問に即座に答えてくれる便利なやつだ。
しかし、この『国』に来たばかりだと、この機能はなぜか大部分がオフの状態になっている。
ちゃっちゃと死んで、『個人部屋』でこの機能を知って再設定するか、誰かに教えてもらうしかない。
ちなみに俺は、この機能をオフにできるところはオフにしている。
と言うことを、さっき思い出した。
「ホログラム?」
「? あぁ、そう言う感じ、うん。(ホログラムってのが何なのか知らないけど、合わせておいたらいいだろ)」
「なんなんだこれ?」
「お助け機能、みたいな?」
「お助け……?」
「まあ、とにかく、『はい』を選んで色々調べくればいい」
俺がそう言うと、新入りは躊躇いながらも空中の何かを押して、この場から消える。
『個人部屋』に転移したのだ。
「新入りに乾杯。幸あれ」
そう言って、俺はシャンパン風マスカットソーダジュースを飲む。
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