第2話 ワース村と諸国

 ワース村の歴史は古い。

 ゴート王国に存在するこの村は、王国建国時にすでに存在していた。

 辺境だったが、村は王国の五分の一の広さを誇っていた。何故そんな広さなのかと言えば、村の西側は魔王領である魔獣の森と言われる危険地帯との境界を覆っていただからだった。

 簡単に言えばワース村は王国にとって魔獣を王国に入れないための砦のような地域だった。

 村の西端の丘に鎮座する侯爵の居城は、魔獣を防御する拠点と考えられていた。

 その城にある侯爵の私室の西側の窓からは、広大な魔獣の森を眺めることができる。そして晴れた日には、その向こうに広がる海がうっすらと見えた。


 王国のあるキュラ大陸の西側の約三分の一は鬱蒼とした森におおわれた魔獣領で東側には北にゴート王国があり、南にラナ共和国がある。

 ラナ共和国側の西側は侯爵領ワース村と接しており、過去に戦争があったが、今は平和だった。

 国境守備の兵はいるものの、買い物などの用事がある時は国境を越えてワース村にやってくる。

 それというのも、共和国側の町が守備兵の駐屯地から遠いからである。

 侯爵の存在に関しては、共和国は歴史的な経緯もあり、最大限の敬意をはらいながらも招かれない限り訪問する者はなかった。

 しかし、王国同様、魔獣を遠ざけてくれる存在として重要な存在なのである。

 そのため、毎年、ラナ共和国ではゴート王国に対してある申し入れをしている。

 それは対魔獣に関する保障金の支払いに関してだった。


 共和国にしてみれば、無償で魔獣から守ってもらっているのは問題であるという議論が毎年あるからだった。

 これに関しては同様のことが毎年王国でも起こる。

 ワース村は王国領ではあるが、ヴェルド侯爵領として他の貴族の領地と扱いが違っていた。これはある出来事で別に定められたからである。

 なので共和国同様、王国も共和国とはまた別の申し入れを侯爵に対して行っていた。


 侯爵にとってこの共和国の保障金と王国の申し入れは、冬を知らせる風物詩でしかなく、いずれも無用と返答していた。そうしたものを受け入れれば、何かの義務が生じることにもなる。

 それが侯爵には面倒なものでしかなかった。

 とはいっても申し入れがあることで、侯爵は自分の地位と両国との関係の確認にはなるので、必要なものとは思っていた。

 万が一両国が争うことがあっても、侯爵領が安泰である証になるからである。


 ワース村の村長は、これらのやり取りをジュールから聞いて知っていたので、侯爵が王国や共和国から何も受け取らないことを尊敬していた。

 村民も侯爵の無欲さを貴族の鏡だと言って、自分たちの領主を誇りに思っていた。

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