第11話 二人目の来客(?)
追放代行サービス。
厄介なパーティーメンバーを追い出したいのに、ルールに阻まれたり、直接脱退を告げるのが怖かったり、脱退の手続きが面倒だったり、追放に踏み切れないパーティー。
彼らに代わって追放に関するあらゆる作業を請け負う仕事だ。
画期的な新事業。これはきっと繁盛するぞ。
そんな期待を抱いたのが一週間前。
現在。
俺は死んだ目で今にも社長椅子からずり落ちそうになっていた。
「暇だ……」
事務所開設から一週間。
最初の客カイン以降、客足はぱたりと止まっていた。
「なぜだ。なぜ依頼がこない」
「事務所の場所が悪いんじゃないの?」
お昼時の主婦みたいにソファに横になっているクックが間の抜けた声で答える。
「場所ねえ」
俺は社長デスクの後ろにある窓に目を向ける。そこにはホームレスのたまり場になっていそうなボロい廃ビルが建っていた。景観はお世辞にも良くない。
「中心街からちょっと離れたスラム街に隣接する地区。しかも大通りから誰も通らないような細道に入らないとたどり着けない二等立地。誰も気づかないわよ」
「仕方ないだろ。家賃安かったんだから」
「経費削減につられて収入ナシ。商才ゼロね」
「うるせえなあ。そんなこと言うなら宣伝の一つや二つしてこいよ」
「いやよ面倒臭い。というかユージ、この前チラシ配り行ってなかったっけ?」
「ああ。冒険者協会の前でな」
デカデカとした文字で『追放代行サービス』と書かれた手作りのチラシを百枚ほど配ってきた。もちろん王都で評判の悪いクックは連れて行かなかった。
「ビルの前にも看板を置いたし、できることはやったと思うんだけど」
「じゃあもう気長に待つしかないわね」
そう言って欠伸をする悠長なメイド。まるで役に立たない。コイツを雇ったのは失敗だったか?
ちなみに、クックと同棲して一か月がたつけど、当然ながら夜の営みみたいなことには発展していないぞ。
さすがに歳の差が二十近く離れている。手を出すには罪悪感が強い。
一緒の部屋で布団を横に並べて寝ているけど、あえてクックとは逆の方に顔を向いて寝るくらいには徹底している。
少なくとも向こうから誘ってこない限りは何もしないつもりだ。逆に言うと……ゲフンゲフン。これ以上はやめておこう。
とにかく。現状は男女というよりも上司と部下という関係だ。
いや違うか。どちらかというと父と娘って感じか。だって……、
「そんなことよりゲームしましょうよ」
クックが目を爛々とさせる。
「また?」
暇の極致に陥った俺たち。とはいえいつ来るかわからない客のために事務所を開けるわけにはいかない。
事務所に缶詰にされた俺たちの娯楽はトランプ。
神経衰弱、戦争、スピード。二人用のゲームを遊びつくした。
「今日こそ負けないんだから」
「そんなムキになるなよ」
たとえゲームだとしても嫌われ者特効は腐らない。神経衰弱では記憶力が、スピードでは俊敏な動きと瞬間的な判断力が高まり、ここまで全戦全勝だ。
プライドの高いクックは負けたまま終わるのは許せないのだろう。毎日のように勝負を仕掛けてくる。
まあいいけどさ。自信満々な態度で挑むくせに、負けが確定した途端に肩を震わせて涙目を浮かべる姿が可愛いから。
「よし、やるか。どうせ誰も来ないし」
ソファに対座したときだった。
外から魔導車の音が聞こえた。
「ん?」
窓から見下ろすと、ビルの前に黒いセダンが一台停まっていた。
「まさか来客か?」
三階建てのビル。一階は空きテナントで、三階はカインの部屋だったけど、パーティー転籍を機に引っ越したため不在。つまりウチしか用はないはず。
俺とクックは顔を見合わせて、
「準備! ポジションに着け!」
「ええ!」
クックはトランプを片付け、すぐに出迎えられるように扉の横で待機。俺はスーツの皺を伸ばしていかにも偉そうな姿勢で社長椅子に座る。
黙って扉の外に意識を向ける。硬そうな革靴の底がレンガの階段を叩く音が聞こえる。
やっとだ! 待ちに待った二件目の来客だ!
大きくなる靴音が扉の前で止まり、そして扉が開かれた。
「邪魔するぜ」
クールな低音ボイスとともに現れた男は、一目見ただけで印象に残る容姿をしていた。
紫のアップバンクの髪に無精ひげ。そして両目を覆う赤いレンズのサングラスはSF映画に出てきそうな横長のサイバーサングラス。首より上は目立つ一方で、紫のシャツに黒いベストという比較的フォーマルな服装。
背も平均的日本男児の俺よりも十センチ以上高いし、その割に体型はすらっとしているし。
日焼けした肌も相まって、三十代のイケイケ兄ちゃんって感じだ。平凡なおっさんの俺とは違うオーラがある。
何かヤクザっぽくて怖い……。
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