追放代行サービス 〜スキル『嫌われ者特効』を手に入れたので、あなたのパーティーの厄介者を追放します~
中田原ミリーチョ
第1話 異世界召喚即追放された件について
「はあ!? なんじゃそりゃ!」
異世界に召喚された俺が鑑定士に保有スキルを告げられたときの反応だ。
『嫌われ者特効』
これが俺のスキルらしい。
効果は不明だが、少なくとも異世界を席巻するチートスキルではないことだけはわかった。
俺を召喚し、わざわざスキル鑑定士の家まで連れてきた魔術師も、期待外れのスキルに苛立ちをあらわにする。
「くそ。ハズレ異世界人かよ。異世界召喚って滅茶苦茶金かかるんだぞ! どうしてくれるんだ」
そんなこと言われましても。
「お前をパーティーに加えて夢のSランクパーティーを目指そうと思ったが、もういい! 追放だ!」
「ええ……」
異世界に来て一分足らずで加入した覚えすらないパーティーから追放されたんですけど。追放RTAなら優勝できるな、これ。
こうして俺、
金なし宿なし仲間なし。
あるのは意味不明な謎スキルだけ。
はあ。最悪のスタートだ。
前の世界では派遣だし童貞だし大した趣味もないしで、四十歳を目前にして人生に絶望していたから未練はないけどさ。せっかく異世界に来たのにこの仕打ちはないだろ。せめて美少女女神を案内人につけてくれてもいいじゃないか。
なんて愚痴ったところで何も変わらないわけで。
「切り替え切り替え。せっかく異世界に来たんだからやれるだけやってみよう。精一杯生きるんだ」
まずは目標を立てることに。
「最優先は寝床の確保だな。異世界で野宿なんてしたら野盗やらモンスターやらに殺されてしまうかもしれない」
幸い現在地は王都と呼ばれる場所。道は石畳で整備され、建物はレンガ造りでオシャレ。大通りの沿道には露店が並んでいる。
これだけ賑やかな街なら、夜になる前には仕事にありつけるだろう。金さえあれば宿屋に泊まれる。あるいは住み込みで働かせてもらう手段もある。
「よーし。さっそく行動開始だ」
意を決して大通りに突入した。
それから一時間後。
俺は近くの噴水広場の小さな段差に座り込んでいた。
ワイシャツ姿も相まって、さながら職を失い昼間の公園のベンチで項垂れる中年リーマンのよう。
「やべえ。ぜんっぜん相手にされねえ」
当然と言われれば当然なんだけど、身分も素性も分からない怪しいオッサンがいきなり「働かせてくれ」と押しかけても相手にされるわけがない。経歴やスキルがないと門前払いなのは異世界も一緒ってことだ。せめてもう少し若ければ変わったんだろうが。
このままでは無職のまま夜に突入する。危険な野宿。仮に朝を迎えられたとしても、今度は食糧問題が付きまとう。野垂れ死ぬのは時間の問題だ。
こんなことなら日本で毎日を浪費していたほうがよっぽどましだった。
「はぁ~~~~~~」
腹の底に溜まっていた不安と鬱憤が、噴水の音に負けないくらいのくそデカ溜息となって漏れ出た。
そのときだった。
「はぁ~~~~~~」
同じくらいのため息が近くから聞こえてきた。
まさか窮地に立たされた俺と同じくらいの悩みを抱える人物が近くにいるのか?
運命を感じた俺はため息の主を探す。
すると、ちょうど円状の広場の噴水を挟んだ反対側に、同じく座り込んで項垂れている青年を見つけた。
「どうしたんだ?」
何かのきっかけになればと思い声をかけた。
特にこれといった特徴のない青年がうつろな顔を上げてこちらを見る。
「ああ、ちょっと最近ノイローゼ気味でして」
「話でも聞こうか?」
恩を売って人脈作り。そんな軽い気持ちで隣に座る。
青年は小さな声で語り始めた。
「実は僕、冒険者なんです」
たしかに青年は布製の防具を身に着けているし、腰にも剣を差している。いかにも平凡な剣士って感じの身なり。
「冒険者というと、モンスターを駆除したり、ダンジョンに潜ったり?」
「はい。冒険者協会に張り出された依頼を受けて、成功すれば報酬が手に入ります。Fランクの冒険者だとその日暮らしになりますが、高ランクになると豪勢な暮らしを送れるようになります」
「ちなみにキミのランクは?」
「……F」
「あ……」
「ちょっと! なんですかその最底辺を憐れむような目は! 大丈夫です! パーティーでしっかり稼いでますから」
「仲間がいるのか」
「はい。特に最近加入したSランク冒険者の女性槍術士のおかげで、高難度ミッションを楽々こなしています。生活もウハウハですよ」
Sランク? たぶんだけど最高ランクだよな? なんでそんな強者がFランクがいるような底辺パーティーに入ったんだ?
そんな疑問の眼差しを感じ取った青年は気まずそうに眼を逸らして、
「その女がちょっと訳ありでして」
「訳あり?」
「一言でいうと傲岸不遜。とんでもなく偉そうな奴なんです。言葉や態度がいちいち鼻につくっていうか。王都の嫌われ者として有名ですよ。外見は絶世の美女なのに、中身は生ゴミ以下です」
「そ・ん・な・に!」
「しかも実力は超一流だから口答えすることもできません。彼女の実力を買って勧誘したパーティーは数知れず、しかしそのすべてが一か月と持たずに崩壊したとは都市伝説ではなく現実の話です。ついたあだ名がパーティークラッシャー」
最悪だな……。
「で、キミのパーティーもその崩壊の最中にあると」
「はい……」
力なくうなずく青年。
「はあ。楽して最強の仲間を手に入れようとしたのが間違いだった。事故物件に手を出さなければよかった。おかげで弱くとも和気あいあいとしていた雰囲気が一変してギスギス。リーダーである僕に責任を押し付けて、今や解散の危機ですよ」
なるほどな。それで昼間の広場で失意に暮れていたというわけか。
「でもよ、わざわざ解散しなくても、その女を追放すればいいじゃないか。リーダーなんだし、それくらいの権限はあるだろ?」
追放モノを愛読している俺は軽い気持ちで提案した。
すると青年は「それが出来たらどれほどいいか」とため息交じりに呟いて、
「残念ながらすべての冒険者は冒険者基準法に守られています。脱退させるには本人の同意なしには不可能です。一体どんな無法世界を想像したらそんな提案ができるんです? 常識って知ってます?」
「なんで俺が責められてるの?」
ラノベ脳で悪かったな。
でも俺最初に追放されたけど……ってあれは正式加入前だからいいのか。
「だったら『脱退してください』ってお願いするとか」
「しましたよ。そしたら「ヤダ」の二文字で断られました。それ以降はなにを言っても無駄だと悟り、諦めています」
「でもなんで居座るんだ? Sランク様がFランクと組んでも得しないだろうに」
「冒険者規定でソロよりもパーティーのほうが税優遇されるんです。どのパーティーにも馴染めない彼女はうちでやっていくしかないんでしょう」
事情を説明し終えた青年がまたため息をつく。
「はあ。このまま活動を続ければ仲間との溝が深まるばかり。僕のメンタルも地の底。なにもかも終しまいだ」
ひどく落ち込んでいる青年を横にして申し訳ないのだが、俺はチャンスだと思った。
(これは使える。一か八か、やってみよう)
俺は青年の肩に手を置いて、慈悲の手を差し伸べる牧師のように優しい声色で交渉を持ちかけた。
「その厄介者、俺が力づくで追い出してやろうか?」
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