第30話「楽しい分断工作」
「な……なんですって?」
「皐雪をイジメて可愛がっていいのは俺だけなんだよ!!」
俺の気迫に目の前の女は尻餅をついていた。人の女にケチ付けやがって、女でも容赦しねえ覚悟しろ。
「母さん、愛されてるね……いいな……」
「う~ん……昔から俺様な所も有ったから、こうちゃん独占欲強かったし……ま、私もそこが好きなんだけどね~♪」
などと浮気した幼馴染が言っているが今さらだ。俺がリオンに視線を動かすとさり気なく二人を守る位置に動いた。
「くっ、何でそんな女が……」
「下がりなさい花、俗世にまみれ変わってしまいましたね……あなたも」
「岩古……雪さん、お久しぶりですね」
「岩古に楯突くとは、都会の間違った空気で増長したのね鋼志郎くん」
そして出て来たのが岩古 雪、目の前の花それと月の母親で次代の岩古総代つまり松のババアの後継者でガッチガチの岩古信者だ。
「増長? 何を?」
「そのような俗世の法など岩古には効かない!! 私達は強く生きて来た!!」
「そうじゃ、よく言ったぞ雪よ!!」
う~ん……やっぱバカだコイツら。いや閉じられた世界過ぎて常識が通じないのだろう。隣のリオンも呆れている。だが悲しいかな村の普通がこれだった。山奥のしかも隔絶した場所では権力者が白と言えば黒でも白になるという世界だ。
「あっそ、ではこれより反岩古同盟である二家と分家および関係の家は独自に動く……つまり、宣戦布告だ岩古 松!!」
「だまらっしゃい!! この村でこれ以上好きにはさせん!!」
こうして最初の岩古家との対決は向こうサイドを盛大に混乱させることに成功した。奇襲と電撃戦は得意分野で上々の成果だ。しかしこれから先は文字通り戦だ。その最初の舞台は恐らく……。
◇
「父さんの神葬祭の後?」
「ああ、大介おじさんの遺体が帰って来るタイミング次第だが……十中八九あいつらは仕掛けてくるだろう」
その夜、情事を終えた布団の中でピロートーク中に明日以降の動きを考えていた俺は皐雪に話をしていた。
「そっか……あのさ、こうちゃん千雪のことなんだけど……」
「千雪ちゃん? 何か気になるのか?」
俺の将来の可愛い娘に何の問題が? むしろ問題は母親のお前の方だと思ったが口には出さなかった。意外とコイツは傷付くからな。
「うん、いや私の気のせいかもだけど……」
皐雪が珍しく真剣に悩んでいる声で俺は考えた。そこで思い当たったのは先日の一件、千雪ちゃんが放課後にからまれていた件だ。
「もしかして、この間の学校帰りの件か?」
「えっ? あ、それも有ったか……」
じゃあ違うのかと聞こうとしたが限界だった。昼に大立ち回りをした後に皐雪の相手を二回はキツかった……俺も歳を取ったもんだと思い意識を手放しかけていた。
「なんか、ちゆがこうちゃんを狙ってる気が……あ、もう寝てる」
意識を失う直前そんなことを皐雪が言ったような気がした。だが俺はこの時の言葉を翌朝にはすっかり忘れていた。これを思い出すは最悪の場面でなのだが、それは少し先の話だ。
◇
「というわけで最初は実家の周囲にテコ入れだ。遠野はそもそも人が少ないから工作のしようが無いからな」
「工作って何するんですか鋼志郎さん?」
「いい質問だ千雪ちゃん、まず岩古村で一番重要な資源は何だと思う?」
翌日から行動を開始した俺達は実家の山田家にいた。千雪ちゃんを学校に迎えに行った帰りで母さんにしごかれている皐雪のお迎えも兼ねている。だが未だ母さんの地獄の修業が終わらないから待機している。
「えっと食料……ですか?」
「悪くない答えだ、リオン?」
そこで俺はリオンを見て言った。着眼点は悪くない。やはり皐雪と違って頭の出来が良い。
「千雪さん、この村での食料は金銭に変えられるレベルで貴重だと私も思います。ですが私見では二番目かと……」
「なら、一番は?」
「一番は人です。人的資源がこの村では一番重要です。外では機械などでオートメーション化されている事の多くが、この村では人力で行われています」
だからここから先は人の奪い合い。以前にも二割や三割と言ったのは三家に付き従う家の比率でもある。この岩古村は表向き三家を頂点としているが村の人間は子供の頃から誰が真の支配者なのかを刷り込まれている。例の洗脳の話だ。
「は、はあ……」
「岩古家の支配は三家を動かし俗世や村の細かい問題を対処させ自分達は社での祭事や神事を行う……なるほど一見すると分担されているが実は違う」
その実は三つの階級に分け簡易的な身分制度で村を支配していたのだ。自分達を頂点とし、その下に三家を置き更に三家によって村民を統制するといった具合だ。
「でも何で岩古は自分達で
「それに関しては分からない。面倒だったのかも知れないし、もしかしたら因習や伝統で決まったのかもしれない……正直なとこ理由は不明だ。だけど、それをシステムとして受け継いでいるんだ」
だから今の岩古は何も考えず先祖の残した方法で村を支配してるに過ぎない。これも奴らの言う所の伝統だろう。
「なるほど……」
「ま、原因なんて分からなくても困らないさ、大事なのは今の岩古の力の削り方だ。まずは物理で一発、見ただろ千雪ちゃんも?」
以前、月に言ったここも外にするとは文字通り外と同じ環境にして岩古の支配を形骸化させる事を意味する。実際いくら洗脳や村の中では強くても外から来た圧倒的な力の前には何も出来ていないのが現状だ。
「はい、鋼志郎さんカッコよかったです!!」
「ありがとう。今回は千雪ちゃんと何より皐雪のために頑張ったからな~」
「はい……そう、ですね」
一瞬だけ千雪ちゃんの顔が暗くなった気がしたがすぐ笑顔になった。昔の皐雪とそっくりで今でもたまにドキッとする時が有るくらいには可愛い。
「それで社長?」
「おっと、そうだった……だから千雪ちゃん今度は人心を集めるんだ、方法は……金と権力そして何よりもサービスの充実だ」
「サービス?」
「そう、その上でチョロい奴から分断する。そのための今回はテストだ」
俺が今からやるのは人間同士の醜い争いの演出だ。それを村の各所で誘発させる楽しい楽しい分断工作。俺達に付いた方がいかに素晴らしいか、それを盛大にアピールする……それだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます