第28話「過去の栄光、今の実力」


「おやおや~、どうしました、ま・つ・さ・まぁ~?」


「何をしたのか分かっているのか貴様ぁ!! 出合え出合え!!」


 昔、俺を追放した時と同じようにババアはキレた。そして昔と同じように神社の戦力である配下の岩古戦人せんじん衆を呼び出していた。


「バカな男、松様に逆らうから……昔と同じように……え?」


 岩古の巫女や鉄雄の母親が騒いでいるが次の瞬間には黙らされる事になる。それを俺は確信していた。そして目の前で現実となった。


「がはっ……」


「ば、かな……我らが……負け、る?」


 障子戸が開き出て来たのは血まみれの男二人で倒れ込んだ。そして後から二人を踏み付けて悠々と入室して来たのは俺の秘書だった。




「おつかれリオン、どうだった?」


「雑魚でしたよ社長、本当にこんなのに負けたんですか? 貴方ほどの方が?」


「言い訳になるんだが……昔の俺は制約が有ったし弱ってたからな」


 そして十六年前に俺を拘束したオッサンを笑顔で踏み付けた。十年前だとオッサン達も若かったのも有るが純粋に俺は縛られていた。


「……お、のれ――――ぐぁっ!?」


「ま~だ俺の喋るターンは終わってねえんだよ岩野のオッサン、そっちは上田だったか? もう時代遅れなんだよジジイ!! おらっ!!」


 そして倒れた壮年の二人を踏み付け蹴り上げる。リオンが弱らせてくれたから俺はトドメ係だ。昔のお礼もタップリしないといけないからな。


「ぐっ、やっ……うぅっ」


「社長、それ以上はスーツが汚れますので、雑魚狩りはらしくないですよ?」


「そうだな……つい故郷に戻ると童心に帰ってイキっちまうんだ……よっ!!」


「ぐぁっ!?」


 最後にもう一度踏み付け気絶させると俺は満足してスーツを確認する。今日のは一張羅のスーツだ。わざわざリオンに俺の部屋から持って来るように頼んだ物でイタリアの高級ブランドの物だ。


「で? 松さまぁ? あと何人くらいご用意が?」


 護衛の二人を気絶させると俺は振り返り言った。ああ最高に気持ち良いな復讐ってやつはさ。


「…………あ、後は社や本殿に五十人の猛者がおるわ愚か者め!!」


 嘘だな……多く見積もっても数は知れている。この二人は十六年前にも俺を抑えた奴らで当時の最高戦力。あの当時と村の出生率を加味しても二十人が関の山だ。何より岩古は女性主導で男はあくまで守りのみ、だから物理的な戦力は少ない。


「お~、怖い怖い何人が現役かお聞きしたいですね……では始めましょうか?」


「ぐっ、貴様、部外者を岩古の中央殿へ上げただけでも村への冒涜、にも関わらずその不遜な態度……もはや許すべからず!! そこに直れぇ!!」


「その通り、鋼志郎よ、姉様の言葉に従うのだ!!」


 そこで松の婆さんの横に並んだのは岩古三役の最後の一人、次女の岩古 カイ。先ほどからうるさい滝沢 夢の母親つまり鉄雄の祖母だ。


「せっかく話し合いに来たのに釣れないじゃないですか~?」


「岩古の先祖代々の土地、それも重要な四方の守りを破壊する愚かな行為が許されるわけなかろうが!! まずは謝罪じゃ!!」


 そして月の祖母の柊も並ぶと俺に対して岩古三役が並び立った。昔の俺なら膝を付いただろうが今の俺は違う。洗脳も因習も、そして伝統とかいう下らない制約は今や俺には通用しない。




「あ~はいはい、ごめんなさぁ~い、これで良いか?」


「きっさまぁ!!」


 煽れば煽るだけ反応するから楽しくなるが今は現状把握だ。向こうは俺の行動に対し反応が出来ていない。だが混乱しているのは当然だ。それに今も囮として俺は動いている最中だ。


「話が長いんだよ、タイムイズマネー時は金なりだ、用件を聞くから話せよ」


「その態度ぉ!! 直らんかぁ!! かぁあああああつ!!」


 岩古松の言葉で周囲は静まり返る。皐雪や千雪ちゃんもビクっとして固まっていて父や母それに村長や他の巫女たちも頭を下げたり平伏していた。だが俺とリオンは平然としていた。


「はいはい、目線合わすから早く用件言ってね、お婆ちゃん? 朝ご飯はもう食べたでしょ? カルシウム不足かな?」


「なっ、なぜ……喝が、効かんだと!?」


 ここで遂に松のババアの怒りの態度が崩れ驚愕していた。さらに他の巫女連中も驚きで固まっていた。まさか村の中で自分の叱りの声が効かない相手が出るとは思わなかったのだろう。


「大声で怒鳴るだけの老人なんて世界で多く見ました、まさか今ので終わりなんですか社長?」


「ああ、実際こういうので縛ってたから俺は負けたんだリオン。知ってるか? 幼少期から洗脳受けてると条件反射で従っちまうんだよ」


「宗教による洗脳あとは虐待それにDVと原理は同じですね?」


 リオンの言う通り村の実態はこれだ。伝統とは名ばかりの洗脳教育で植え付けられた思想と恐怖政治による支配で村民の動きを封じていたに過ぎない。


「その通り、それを伝統だとか誇りなんて言って、ごまかしてるのが目の前のロートル共だ、分かったか?」


「ええ、社長が毛嫌いする理由が分かりました」


「ええい、だとしても!! 貴様の行った岩古の土地への冒涜は許されん!!」


 だがその言葉を聞いて俺はニヤリと笑った。


「は? さっきから岩古の土地とか言ってるけど、あそこは遠野の土地だろ?」


「カッカッカッ!! 愚か者め、あの土地は既に我らの物!! お前の母、沙喜子の奏上により我らが支配しているのだ!! ぬかったな鋼志郎!!」


 勝利を確信したような松の言葉に岩古の巫女たちは喝采を上げていた。だが何を言ってるんだと俺は飽きれ果てた。


「ふ~ん、で? 登記したの?」


「はっ?」


 目の前の老人一行と巫女達が全員固まった。

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