第27話「始まった村破壊」


「べ、別に母さんと鋼志郎さんがそういう仲なのは今さらですし……」


「いや……子供に聞かせるのはマズいよな、ゴメン千雪ちゃん悪かったよ」


「どうせまだ子供……ですから、そうですね!!」


 余計に怒らせてしまった。思春期の娘は難しい皐雪と違って繊細だ。母親はアレだけど娘の方は立派な乙女なんだ。


「千雪ちゃん? とにかくごめんな?」


「う~ん、これは千雪……やっぱり……」


 皐雪の言葉にも気付かず謝っていると後ろから俺の両親と定幸がやって来た。どうやら三家の全てが呼び出しを受けていたようだ。そして俺達も呼ばれ本殿内に入る。


「その、洋野さんは私と別室で」


「なるほど、それも、しきたりですか?」


「はい、では若様、旦那様も行ってらっしゃいませ」


 定幸に案内されリオンも離れると俺はいよいよ因縁の敵と対峙する。あの時とは違う。今は隣に皐雪が俺の女とその大事な娘がいる。つまりだ……。


「負けられないし、負ける気も無いって話だ!!」


 俺が気合を入れて宣言すると父は苦笑を母は頷いて俺は四人を引き連れ堂々とドアを開け放った。さあ俺の本当の復讐の始まりだ覚悟しやがれ岩古家。


「ただいま帰りました~!! 山田鋼志郎だ!! 久しぶりだな老害ども!!」


 だから宣戦布告は派手に、そしてカッコよく決めないといけないよな?




「なっ、なななななな、今なんと!?」


「あ? 耳まで遠くなったかしゅうの婆さん、あれ? 松の婆さんいねえの?」


 俺の挨拶に答えたのは岩古柊、月の祖母で岩古三役と呼ばれる岩古家の重鎮で、その三役は松を頂点に三姉妹で行っている。だが今ここにいるのは一人だけだ。


「なっ、こ、鋼志郎おまえ、岩古のそれも年長者になんという口を!!」


「いちいちキレるな血圧上がって、す~ぐ、くたばるぞババア」


 ちなみに先ほどから場は騒然としているが鉄雄の隣の月だけは笑いを必死に噛み殺していた。自分の祖母なのに笑っていいのか?


「鋼志郎さん!! あなた、岩古三役の柊様になんて口を!!」


 そして次に騒ぎ出したのが鉄雄の母の滝沢 夢この人は直系の人間だ。もう一人の三役の岩古カイの娘。つまり鉄雄の祖母も三役で滝沢の家が三家の中では一番血が濃い。ちなみに肝心の松のババアに今は子は居ない。


「失礼、ご老体を慮ったのですが……どうも、お久しぶりです滝沢の夢さん?」


「くっ!? あ、あなたっ!!」


「夢、落ち着きなさい、鋼志郎……あんな事が有ったとはいえ目上の者には一定の敬意を払うよう小さい頃に言ったのを忘れたか?」


 コンプレックスである今は岩古で無いことを指摘したらすぐに村長である旦那に泣きつくとは……鉄雄に睨まれるが無視だ無視。そして月はまたしても隠れて小さくガッツポーズしていた。あいつ身内嫌いなのか?


「はい、忘れました」


「「なっ!?」」


 そして俺の返答はノーだ。確かに村長には追放時に庇ってもらった。だけどそれがどうした? こんな村にしたのは目の前の大人達だ。俺も今は同じ大人……なら遠慮は無しだ。


「なんせ、外の世界では年上のジジイとババアを食い物にしてのし上がったんで」


「くっ、そこまで……お前は……」


 復讐のために集めた金と耐えた年月を全部賭けて俺はここに来た。そして俺の財はほとんどがマネーゲームで年寄り連中から奪った地位や権力が元手だ。


「止めんか!! そこまでじゃ、鋼志郎!!」


 そして大本命が現れた。年は取ったようだが俺を睨みつける目は相変わらずで何名もの巫女を連れ岩古 松が現れた。




「これはこれは……失礼しました」


「ふんっ!! これ以上、貴様の好きにはさせんぞ村の破壊者め!!」


「あれ? もうご存知で?」


 意外と鋭いな、そうかバレたかと俺は思ったがすぐに思い違いだと気付いた。次の松のババアの言葉でだ。


「ふむ、当然であろう、お前の村に対する秩序の破壊や風紀を乱す行為!! 密偵から聞いておるわ、岩古総代を、岩古の頂点を舐めるでないわ!!」


「あ~、そっちか、違う違う、物理の方だよ? お婆ちゃん?」


「ぶつ……り?」


 気付いて無いらしい。やはり俺は買い被り過ぎたようだ。まあ当然だろう。俺がここまで大々的に囮として目立っていたんだからな。


「ま、松さまああああああ!!」


「何事じゃ!! 騒々しい、今は大事な動議中じゃ!!」


 タイミングよく騒いで入室して来たのは岩古家の人間だ。見覚えの有る巫女だが誰だっただろうか?


「で、ですが!!」


「後にせよ!! ケイ!!」


 慶? ああ、あの子の名前か……という事は鉄雄と月の姪だ資料で呼んだ。月の姉の子供だろうが何か下っ端巫女って感じだ。若いからかも知れないがな。


「松様に奏上します、西の岩古分社が!! 破壊されました!!」


 だが、その慶を押しのけ別な巫女が入って来た。それは慶によく似た女で思い出した。こいつは姉の方だ。名前は確か……。


「なっ!? それは真かショウよ!!」


 そうだ祥だ。資料を改めて読み返す必要が有りそうだ。そんな事を考えながら相手が完全に後手なのがよく分かった。


「もう西壊れたのか?ま、三時間前には現場に入ったって報告有ったしな」


「なっ……まさか、鋼志郎、き、貴様!!」


「遅過ぎんだよババア、でも西だけか気付いたのは」


 実は今回のターゲットは一つじゃない。だが、こんな手は何度も使えないから速さを求める。昔の偉い人も言った拙速を尊ぶとね?


「なっ、まさか、まさか!?」


「松様!! 南の分社と森の祠が何者かに!?」


「松様……東の祭殿とやぐらも謎の工事業者に」


 そして続けざまに巫女が報告をして来る。既に工事は朝の時点で始まっている。気付くのが遅過ぎるんだよ。

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