第26話「因縁の場所へ」
◇
「鋼志郎さん!! 岩古状が来ました!!」
翌朝、朝食をとっていると血相変えた千雪ちゃんが玄関から戻って来た。その手には新聞と黒い封筒が有った。
「ああ、来たか、それより今日の日経平均を……」
「こ、鋼志郎さん、岩古状ですよ、呼び出しですよ!!」
「大丈夫だよ千雪ちゃん、俺に任せてくれ」
俺の言葉にも不安な顔を隠せていない千雪ちゃんだが仕方ない。まず黒い封筒の岩古状というのは岩古家が特別な呼び出しをする時もので主に村の重大事を話し合う時の督促状のようなものと考えて欲しい。
「で、でも……」
「ま、任せてくれ……な?」
問題は、その村の重大事というのは概ね悪い事や、その対処のための懲罰動議だという話で千雪ちゃんは昔の自分の父親のクズ男の時から何度も目にしているから不安なのだと事前に皐雪から聞いていた……だから取りに行かせた。
「そうよ、こうちゃんに任せれば大丈夫よ!! こうちゃん、松坂牛ってこんなに美味しいんだね~!! もう昔のお肉に戻れないよ~」
「お? 食べたの初めてか? この間行ったスーパーHOJYOの肉の品質は安心していいぞ俺の知り合いが経営してるからな」
だが皐雪よ俺は忘れない。この間の買い物で一切の遠慮をしなくなった結果、お前が今食っている国産A5の肉をサラッと入れた事を……こいつにカードを渡したら危険だと俺は改めて実感した。
「で、でも……」
「そんな黒い封筒、こうすればいい」
目の前で中身を見ず俺はビリビリに破いた。そして玄関まで行き外に出ると破いた封筒をバラっと風に乗せ捨てた。
「こ、鋼志郎さん!?」
「大丈夫さ」
「で、でも見られてます……」
そう、この遠野家は常に見張られている。実家の母さんの息のかかった人間の監視は無くなったから可能性は岩古の密偵か村長の家つまり滝沢家の関係者だろう。だが関係無い。見たければ見せてやる。
「ああ、見せてるからね?」
「そんな、でも……」
「千雪ちゃん、こんな古臭いもんで、もう君を縛れないから安心するんだ」
だが千雪ちゃんの顔は不安そうだった。ま、村に裏切られ続け身も心もズタズタにされた子供ならこうなってしまう。だから俺が守ってみせる。そう誓って千雪ちゃんを抱き締めて家に戻った。
◇
「という訳で、あの封筒のために岩古本家のクソみたいな本殿に行って来ます」
「私はいいのかしら?」
「はい、冬美さんはここで待機を皐雪と千雪ちゃんを連れて行きます。護衛は昨日ご紹介した甲斐夫妻が来てくれます」
二人は千堂グループからの協力者だが基本的に俺の援護として来てくれている友人だ。とある事件で知り合いになった時のビジネスパートナーでも有る。それに家を留守にしたら何されるか分からない。
「こうちゃん、また着物~?」
「いや、私服で行こう千雪ちゃんは制服でな?」
「はい……」
二人は緊張しているが顔つきが全く違う。皐雪は余裕の笑顔で千雪ちゃんは明らかに不安そうに瞳が揺れていた。これは仕方ない俺への信頼度の違いだ。
「大丈夫よ~ちゆ? だって、こうちゃんが居るんだから!!」
「うん……そう、だね」
これ以上は言葉でどれだけ説明しても通じないし実際の力を見せなくてはいけない。そして表に車が停まりリオンと甲斐夫妻がやって来た。そのまま夫妻には待機してもらい俺はリオンの運転する車で岩古本殿へ向かう。
「じゃあリオン頼む」
「はい、社長……お二人とも少し揺れますのでお気を付け下さい、ここは道が悪い」
そう言って十分もしない内に岩古の社に到着し車から降りると相変わらず無駄に長い上り階段が俺達を出迎えた。よくある山の上に社が有る典型的な山寺いや山神社か? とにかく、このクソ長い階段を登らなくてはいけない。
「お? 鉄雄ぉ~!!」
「お~、鋼志郎!! 早くこ~い」
見ると既に半分くらいまで登っている鉄雄と月さらに村長夫妻の姿が見えた。遠目には分からないが鉄雄の母には睨まれた気がした。
「お~!! 分かった~!!」
そして四人で階段を登り切ると無駄にデカイ木造の社が威圧感たっぷりに俺達を出迎える。
「これが……中々と立派な社ですね社長」
「ああ、リオンそれに千雪ちゃんもしっかり見ておくんだ」
俺の言葉に千雪ちゃんが不思議そうに俺を見た。
「え?」
「もうじき見られなくなるからなぁ~!! あっはははは!!」
「あ、そっか、ここも無くなるんだ……思い出すよね」
そして当たり前のように同意する皐雪。ま、こいつの言ってる事は正しい。何やっても社は完全に破壊する予定だからだ。
「何をだ?」
俺が追放された時とでも言うのだろうか? だが、さすがは俺の女で言う事が俺の予想を超えていた。
◇
「うん、ほら高校の時こうちゃんとバレないで何回デキるかチャレンジしたでしょ? 結局は見つかって怒られたじゃん、岩神様の御所で~とか言われてさ」
「ああ、アレか結局、二時間ぶっ通しだったよな、いや~若かったな夏だったのに」
皐雪が神社の掃除が暇過ぎて俺を呼び出した結果、巫女服の皐雪をひん剝いて楽しんだ夏の思い出だ。あれは怒られたな、懐かしい夏のメモリアルってやつだ。
「そうそう、お互い汗まみれでさ、ほぼ裸で川まで逃げたよね~」
「ああ、その後、川辺で三回戦だったよな?」
「こうちゃんが秘密基地にブルーシート用意してたし準備万端だったよね?」
「しゃ、社長……」
そんな俺達の昔話にリオンは引いていた。やっぱり神社でシたのを引かれたのだろうか? 信心なんてクソくらえと考えてるリオンなら大丈夫だと思ったのだが……。
「そう言うなリオン、これから潰す相手だ気にするな」
「気にしますよ!! 千雪さんが聞いてるんですよ!!」
「「あっ……」」
言われて皐雪と二人で見ると千雪ちゃんの顔は真っ赤だった。し、しまった……決戦前の緊張をほぐそうとしていたら将来の義娘にヤベー話を聞かせてしまった!?
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