第25話「伝承と村の謎」


「そ、それは……」


「顧問弁護士の先生の話です。心配なさらなくても社長はあなた一筋ですからご心配なく、常に貴女の写真を持ち歩いていた程です」


 フォローに入った秘書がフォローをしてない件について異議を申し立てたい。そんなストーカーみたいな事がバレたら引かれるだろ。


「なぁ~んだ、こうちゃん、でも私みたいに浮気しちゃダメだぞ?」


 プニっと俺の頬を人差し指でチョンと触って来た女にカチンと来た。本当にコイツは数分前のことすら忘れるのは相変わらずで体に教え込まなきゃダメらしい。


「お前は本当に一度しめる必要が有るな……悪いがリオンは先に例の件を頼む、俺は少しやることができた」


「……分かりました。では、後はお任せ下さい社長」


 それに頷くと俺は皐雪の腕を掴んで言った。


「母さん、少し奥の離を借りたいんだけど、いい?」


「ふぅ……離の鍵よ、帰りに家の者に渡しなさい」


「こ、こうちゃん?」


 母さんが呆れた顔をして鍵を渡してくれた。そして皐雪を逃げないように強引に抱き寄せる。


「ありがと母さん、行くぞ……夜までにキッチリ躾けてやる皐雪」


「こうちゃん、冗談、今の冗談だから~!!」


 その後、皐雪の悲鳴は途中から嬌声に変わり真昼間の村中に盛大に響き渡った。




「ううっ……もう、こうちゃんのとこしか嫁に行けないよ、月ぃ~」


「自業自得ですよ。むしろ早く嫁に行って下さい今度こそ」


「本当に反省しねえのな、お前……」


 皐雪は鉄雄と月夫婦に陳情に行くが二人は完全に俺の味方だった。


「心配すんな今度は逃がさず責任は取る、じゃあ集まってもらった訳だけだが改めて計画を話す。あと村の外から来た協力者には村についての因習などを説明したい」


 今回集まったのは滝沢の夫婦、そして俺の父、あとは甲斐夫婦とリオンも参加してもらった。血冬ちゃんや冬美さんは既に寝ているし俺の母は夜は出歩かない村の因習で来れない決まりだ。


「因習……ですか社長?」


「ああ、夜道の女は襲われ妖怪に食われるそうだ」


 もはや因習というより昔話レベルだが実は村の掟にも直結している。だが都会だろうが女性の一人歩きは危ないし掟の作られた原因もそんなものに違いない。


「あれ? じゃあ月さんは夜に出て問題無いの?」


「ああ、月は岩古の元巫女だからな」


 真莉愛さんの疑問だが岩古家が特別というより岩古の中でも特別な巫女の血筋だけが魔を退けられるという伝承から来ているらしい。


「それだが俺達は理解出来てない。詳しく説明を求めたいんだが」


「そうだよな零音たちも……それと皐雪も忘れてそうだから一から説明する」


「ちょっと、こうちゃん!! 私だって半分くらい覚えてるよ!!」


 それに何も言わずフッと鼻で笑うとムッとしている。皐雪は昔からこういう風にバカだし昼間も可愛がり過ぎてタガが外れていた。


「じゃあ、ここは父さんから話を、俺も聞いたのは父さんからだし」


「分かった。では岩古村の伝承と、そこから生まれた因習について話そう」


 父さんの話は村の興りから始まった。そもそも岩古村は江戸時代の中頃の世も泰平となった時代の政権つまり幕府によって霊場を干拓する工事が発端だった。


「その時に岩神様が祀られたそうだ……そして多くの奇跡を起こした」


 そもそも幕府が何で霊場にしようとしたかまで話は遡る。幕府は岩古村になる前の土地に陰陽師が危険な兆候を見つけ鎮めようとした。その兆候こそが岩神様だった。だが派遣された陰陽師は全滅したそうだ。そして幕府と対立した。その時に岩神様と共に戦った一族こそが岩古家の初代と言われている。


「岩神様は大いなる雷と炎で幕府の軍勢を薙ぎ払った」


「んなバカな……」


「いや、恐らく初代の岩古家が何らかの仕掛けを使って追い払ったんだ」


 リオンの言葉に補足すると父はゴホンと俺を睨んだが無視だ。とにかく当時の人間から見れば神通力のような御業たぶん何らかのトリックを使い幕府の軍勢を撃退したのだろう。


「そして一帯の集落を併合し岩神様を祭る人々が岩古家を頂点とした村を作り幕府が認可した。それが岩古村……その後は歴史の表舞台に現れず本日まで至る」


「なるほど……」


 それに零音や真莉愛さんが聞き入っていたが村の人間としては耳にタコが出来るくらいに聞かされた話だから眠くてしょうがない。


今日こんにちに至るまでの因習は私より月さんの方が詳しいだろう」


「そっか、月は岩古家の元巫女だもんね」


「だから私も呼ばれたんですか……では村の外の人にも分かりやすく因習を説明します……ま、端的に言うと岩古の俺様ルールなんです」


 そして今度は月が口を開いた。岩古本家の人間の話だから父よりも詳細に分かりやすく話してくれた。




「なるほど……岩古の巫女とは祭壇の間に入れる女性を指す言葉で主に岩古の女性を指すと……」


「はい、岩古の巫女であり岩古家当主が岩古 松。私の祖母の姉で大伯母です。それで、この写真の松様の両サイドにいる片割れが祖母のしゅうです」


 リオンの質問に答えながら月が指差して言ったのは岩古家の中心人物の岩古三姉妹だ。そう、この年寄り三人が俺の敵だ。


「ほんと今見ても腹立つババアだな、よくも皐雪の浮気を公認しやがったな!!」


「あ~、キレるのそこなんだコウ先輩、皐雪先輩は本当に許してるんだ……」


 当然だ。人の女をかっさらう権利をクズに与えたのは普通に万死に値する。人の人生ぶっ壊して脳破壊もされたんだ絶対に許さねえ。


「ゴホン、話を戻すが古い伝承とそれにまつわる因習が岩古村には多々存在する。その力でもって村を調和と抑圧で支配しているのだ……村のために」


 そう言って父は話を締めくくった。


「今も変わらず昔からずっと続く因習か……反吐が出る」


「確かに社長には似合いませんね、村や組織のためとか今までやって来た事の正反対ですからね?」


 リオンにそう言われて俺は不意に過去を思い出していた。

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