第22話「復讐についてのお話」


 静寂が部屋を支配した。珍しく今回は戦略も金の力も何も無い。有るのは純粋な思いと感情をぶつけただけの出たとこ勝負だ。


「信用できないわ……」


「母さん……」


 皐雪も無言で俯いている。やはり勝算が無い勝負だった。思いだけでは何も出来ないと思い知らされた……かに思えた。


「なので今後は鈴を二人の目付にします!! 文句は有りませんね!?」


「えっ?」


 母さんの言葉に俺は面食らった。見ると目に涙を浮かべ口元は笑っていた。


「皐雪!!」


「は、はいぃ!!」


「私は、鋼志郎の子を、孫を抱きたいのです……できますね?」


 そして今度は皐雪にブッ込んできた。母さんが吹っ切れた結果とんでもない言葉を口にしたせいで俺は混乱した。


「えっ?」


「できるかできないか聞いています!!」


「します!! できます!! なんなら妊活もバッチリしてます!!」


「……孫が出来なければ次は永遠に、有りませんからね?」


 そして皐雪よ正直過ぎだろ。それから話はトントン拍子に決まっていった。ほとんど母さんの主導だった。




「で、では改めて今後の話をしよう……沙喜子頼む」


 そして父さんはすっかり母さんの言いなりで形無しだ。たぶん家の中で序列が最下位になった可能性すら有る。ちなみに下の町のキャバクラのシンディーちゃんの件もバレていた。婦人会のネットワークの方が上だったよ。


「まず鋼志郎それに皐雪、鈴も今は家族が有りますし下の町なので週に三回ほどしか来れません、なので残りの四日はこの家に花嫁修業に来なさい」


「はい……えっと、それで何するんですか?」


「妻としてあるべき品性と常識をもう一度叩き込んで二度と愚かな事が出来ないよう性根を叩き直します!!」


「え? お、お手柔らかにぃ~」


 皐雪は顔を青くしながら週四で俺の母にしごかれるのが確定した。そして母は次に俺に質問して来た。


「それで鋼志郎、あなた今のお仕事は?」


「ファンドと海外の投資先の関連事業全般とグループ企業の事業補佐かな……」


 今は座ってるだけで金が溢れて来るとか言えない。何か怒られそうな気がした。


「半分以上なに言ってるか分からないわ……」


 それ以前だった……母さんは今はキリっとしているが義務教育終了後は花嫁修業し父に嫁いだ典型的な昭和な嫁で主な情報源は新聞とテレビだ。それに閉鎖的な村にいたことも相まって知識には乏しかった。


「あ、お義母様、こうちゃん今は社長さんです。会社七つ持ってるそうです」


「あらそうなの、ならそう言いなさい鋼志郎」


 どう説明するか悩んでいた俺だが適応力の高い皐雪と母のお陰で難を逃れた。そんな中で驚いていたのは月だった。


「うっわ先輩が社長とか本当ですか?」


「下の町にも二つ持ってる矢巾商事とⅠ・Wコーポレーションって会社だ」


「え? I・Wって五年前に出来た下の町の大型ショッピングモールの!?」


 会社自体は六年前に創設してこの町に馴染ませた。だが大事業の方が有名か……三年前に突如できたショッピングモール。採算はそこまで取れてないが目的は囮だったし問題無い。


「そこの代表取締役でもある……パンフ見れば名前も載ってるぞ?」


 そう言って見せると堂々と名前が載っている。もちろん餌の一つだったのだが誰も村の人間には気付かれなかった……ちょっと悲しい。


「あ、このスーパーって昨日、行ったとこだ!!」


「そこが入ってるモール全体が俺の会社の持ち物だ……ここら辺に商業施設が無かったから不便だし作ったんだ、それに……俺の計画にも必要でな」


 そんな話をしながら場が落ち着いたのを見て本題である復讐計画に話題を移した。


「そういえば計画が有るとしか聞いてないな」


「まあ鉄雄にはそこまでしか話して無いからな」


 村の中では皐雪にだけ全容を一部を千雪ちゃんや冬美さんにも話していた。


「それって村をぶっ壊す話でしょ?」


「えっ!?」


「……どういうことだよ鋼志郎!!」


 間違ってないし本当のことだが皐雪以外の全員には刺激が強過ぎた。




「なんだと、そんな話聞いておらんぞ!?」


「本当ですか、あなた?」


 開口一番、俺の話に疑問を提示したのは父だった。そして母はすっかり詰問態勢で父が必死に知らんと言ってるのは面白かった。


「まあ落ち着いてくれ皆、まず村一帯が再開発地区から毎年なぜか除外されてたのは知ってるか? それも岩古の力だったんだ」


 実は、この岩古村は昔から再開発地区として山も切り崩すし住宅街や老人ホームの用地などの計画やダム建設まで色々な計画が出て、その度に中止されていた謎の土地だった。もちろん、それを妨害していたのが岩古家だった。


「あ~、聞いたことある岩神様のお力ですよねコウ先輩?」


 月の言葉に頷くが実際は岩神様なんて力も何も無い御神体で祭られているだけのデカイ岩だ。だが迷信を盾に今まで歴代の市議達が面倒だからと先送りしスルーしていた。しかし状況が最近になって大きく変わった。


「らしいな、だが今までの市議と町議が二年前の選挙でどっちも入れ替えで新しくなったの知ってるか?」


「そうなの? 生きるのに必死で知らなかったよ、こうちゃん」


「そうだったのか……苦労をかけたな、さゆ」


 そう言って説明しようとする俺を止めたのは冬美さんだった。先ほどから静かで忘れていたが俺達の話を聞いていたようだ。


「違うでしょ皐雪、あなた新聞読まないからでしょ?」


「……冬美さん今後は読ませて下さい、てか読ませます」


「え~」


 不満顔の皐雪は後でどうにかするにして話を戻す。


「つまり今、岩古家の力は著しく弱まっている……本当は来年戻る予定だったが……でも不測の事態が起こった以上は計画を早めた」


「それで鋼志郎……村は、どうなる?」


「父さん、もちろん潰すさ……それが俺の復讐だからな」

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