第16話「イジメの現場?」


「あの時そんなこと考えてたのか……」


「凄いギリギリだった、こうちゃんがプロポーズしてくれるまで黙ってた」


 家に戻ると暇そうにしていた皐雪を助手席に乗せドライブしながら俺の居ない今までの話を聞いていた。


「なら頑張ったご褒美に千雪ちゃんの帰りまで、どこかデートで行きたいとこ有るか? 仕方ないから連れて行ってやる」


「じゃあホテルで!!」


「少しは時間帯を考えろ!! 真昼間だ!!」


「だって~、こうちゃんとの赤ちゃん欲しいし、急がないとほぼ無理だよ~」


 二人揃って35だし高齢出産もいいところだ。だが俺はそこまで悲観的にはなっていなかった。


「頑張れば大丈夫だろ……お前とは相変わらず体の相性、完璧だったからな……」


「体の相性良くても子供は別物!! だから回数!!」


 溜息を付きながら俺はカーナビで手近なホテルを探す。2キロ先にちょうどいい感じのが見つかった。


「分かったよ……ちょうど近くにお城が有る、行くぞ」


「さっすが、こうちゃん!!」


 その後しっかり三時間ご休憩してランチまでしてから俺達は千雪ちゃんの帰りを車の中で待つ事になった。




「あ、千雪だ、呼んで来るね」


「ストップ、少し待て……さゆ」


 ドアを開け千雪ちゃんを迎えに行こうとした皐雪を俺は止めた。少し泳がせ見極めたい。


「何で?」


「コンサルティング関係の知人の話なんだが……」


「そのコンセントの親戚みたいな人が何なの、こうちゃん?」


「その人は社内イジメの調査をしていてな、パワハラ、セクハラの調査だ。本来は社内で解決すべき問題だが経営者が困り果てて相談されたらしい」


 結局は覆面調査し一週間で蹴りが付いたが分かったのは何とも子供じみたイジメだったそうだ。だが問題はそこでは無い。


「ふ~ん、で?」


 たぶん半分も意味が分かって無いだろうなコイツとか思いながら話を続ける。


「千雪ちゃん、その被害者と同じ動きをしてる……だから気になった」


「でも、あの子って大人しいけど、しっかりしてるし大丈夫だと思うけど」


 確かに皐雪に比べ千雪ちゃんはしっかりしている。だけど本心を素直に出すかと言えばしないだろうしまだ子供だ。ならば直接見て現場を抑える方が早い。


「俺の杞憂ならいいんだが……んっ?」


「こうちゃん!! うちの娘が囲まれてる~!!」


「ああ、行くぞ!!」




『ザザッ――――本当にしつこいですね……』


『遠野ってさ~自覚有る?』


 感度は良好だ電波もしっかりしている。お守りは機能しているらしい。あの中身はもちろん盗聴器だ。酷くなったら隠しカメラも付ける予定で、元々は皐雪の家に設置する予定だった。


『何がですか?』


 聞いている間も囲まれている千雪ちゃんは男女数名に路地裏に連れて行かれている。俺は後ろを見るが皐雪もキチンと付いて来ていたのを確認し走った。


『男を誘うエロい女って自覚よ、この子のカレシ、あんたに誘惑されたって言ってんの慰謝料寄こしなさい、もしくは土下座しな!!』


 たしかに皐雪の娘ならセクシーだ。実際は可愛いくていい子なのだが……。


『理解できません……入学当初からしつこいですね』


『はっ、ヘンタイ女が!! パパ活しまくってんでしょ、今朝も車でオッサンに送ってもらってさ!!』


 ここまで来れば大丈夫。俺は耳のインカムを切って現場に殴りこむ。そういえば皐雪と二人で高校時代は良く殴り込みをしたと思い出しながら路地裏のゴミ箱を蹴り飛ばして乱入した。


「なっ、何なんだよ、あんた達はっ!?」


「父親だが? なあ皐雪?」


「そして私は千雪のお母さんです!!」


 相手は女子二人と男子一人……話の内容から千雪ちゃんが気に食わないらしい。そして何度目かの接触か。思った以上にイジメが進行してないのは幸いだ。


「母さん、それに……こう――――「千雪? も来たぞ」


「おとう、さん……?」


 咄嗟に名前を言いそうになった言葉に被せて俺は助け舟を出す。皐雪と違って頭の回転は速いから大丈夫なはずだ。


「は? 親とか、マジキモいんですけど」


「キモくても親だ、それで? うちの娘が何かしたか?」


 皐雪が今にも飛び掛かりそうだから抑えながら三人を見た。真ん中のリーダー格の少女以外は怯えている……完全にガキだ扱い易いな。


「おい、有紗まずいって……」


「親バレはヤバいって~」


「今後うちの娘に手を出さないなら見逃すが、どうする?」


 俺が言うと後ろのカップルは目線を合わせた後に頷き合って言った。


「「ずいまぜぇん!! 失礼しまあああああす!!」」


 清々しい逃げっぷりだ。これは許さざるを得ない。そして残ったのは有紗と呼ばれた少女だけだった。


「君はどうする?」


「くっ……このままじゃ終わらせない、次は覚悟し――――」


 俺が言うと歯ぎしりした後に彼女も逃げようとした。だが既に動いていた皐雪が取り押さえていた。


「まず謝ろっか?」


「え? な、何で私は逃がしてくれないのっ!?」


 逃がす訳には行かないに決まってるイジメは基本的に頭を潰すのが確実だ。そうすれば後は烏合の衆で組織的な動きに戻るまで時間は稼げる。


「お前は謝ってないだろ?」


「えっ、だって……」


「捨て台詞吐いて逃げられる程、俺も皐雪も甘くねえぞガキ……」


 こう見えても俺達は昔から武闘派だ。歳は食ったが今の動きを見る限り皐雪もさび付いて無いようだし、まだまだ若い者には負けん。


「二人とも、もういいから!!」


「ちゆ!! 何言ってるの、いじめられてたんでしょ?」


「二人とも落ち着いてトラブルが有っただけ、金ヶ崎さん……もう関わらないで下さい、ほら行って、ね?」


 主犯格の女は解放されると最後に睨んだ後に逃げてしまった。一件落着かと思いきや今度は千雪ちゃんが俺達を睨んでいた。

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