第15話「とりあえず金の力ぶっぱで!!」
そして翌朝、俺は優雅に朝風呂だ。昔と同じままで勝手知ったる人ん家の風呂は助かった。ちなみに皐雪は部屋でまだ寝ている。
「あ~、サッパリした」
「おはようございます鋼志郎さん」
広間に戻ると千雪ちゃんが一人で朝食を食べていた。制服を着ているから今日は登校するようだ。
「おはよう千雪ちゃん、今日から学校?」
「はい、お婆ちゃんが家も乗っ取られて落ち着いたから、もう行きなさいって」
何も間違って無いけど言い方が……事実だけどさ。でも仕方ない。この三日間で無茶やったからな。
「なら送るよ面倒だろ下まで降りるのもさ」
「え、でも……」
「俺も下の町で人と会う約束が有るんだ、大丈夫だよ」
遅れて起きて来た皐雪に千雪ちゃんを車で送ると言うと二つ返事で許可をもらい高校まで送り届ける事が決まった。
◇
「……今まで徒歩?」
「はい、免許を持ってたのお爺ちゃんだけだったので……村の中なら皆は自由に乗るんですけどね……」
やはり治外法権、さすが俺の故郷だ法律なんて誰も守ってない秘境だ。
「さゆは……無理か、あいつ路上で落ちそうだな……あ、それなら……」
「あの人は免許以前に運転できなかったです。子分にさせてました」
「子分? そんなのが? さゆは何を?」
「その……殴って黙らせてました……」
俺の皐雪を一時とはいえ妻にしていたのに殴るとか……縛って鞭とかなら昔やったしアイツも悦んでたが……人の事は言えないのが腹立つな。
「……嫌な事を聞いたね……朝からごめんね」
「いえ、もう十年前ですから、それに……」
「それに?」
ガコンと最後に少し揺れて下の町に着いた。これで遠回りしても5分で懐かしの母校に到着するのが確定した。
「今なら鋼志郎さん……守って……くれますよね?」
「ああ、もちろんだ」
その不安そうな横顔を見て分かった。やはり何か有る……もしかしたら用意していた物が無駄にならないかも知れない。
「そう、ですよね……母さん助けてくれましたし」
「まあね、そうだ千雪ちゃん、これ」
「えっと、お守り……ですか?」
用意したのはお守りだ。問題は中身がバレないことだが、そこはゴリ押しして持たせるしか無い。
「学業お守り、村の奴らにバレないようポケットにでも入れておいて」
「お守りにしては大きいし、何かゴツゴツしてる気が……」
「都会のお守りは大きいんだよ」
半分納得してない顔してるが千雪ちゃんはブレザーのポケットに入れた。あそこなら問題無いだろう。彼女を見送ると俺は車を目的地へ向けた。そこは、この町の拠点の一つでもある
◇
「社長!! お待ちしてました」
「ああ、久しぶり……みんな変わりないようで安心した」
社員達に挨拶しながら町に馴染んでいるのを改めて確認する。ここの人員は全員が都会で引き抜き五年かけて町に潜ませた精鋭達だ。
「いえいえ全て社長の指示通りですし、やっと俺達も動けると思うとワクワクしてます。ではこちらへ先方は既にお待ちです」
この会社を実質的に動かしている矢巾さんに言われ俺は応接室に入った。さすがに客を待たせ過ぎたし早く入れという事だろう。
「やあ、待たせたな……父さん」
「気にするな、あの娘を送っていたのか?」
客とは父だ。ここには何回か来ていて矢巾さんと面談もしていた……俺の指示通りにね。そして今日来るよう言った。
「ああ、さゆに似て可愛いから、つい……」
「お前は変わらんな……」
「それより融資について話し合いを始めよう山田さん?」
変わった事も有るさ父さん。例えば身内にも一切容赦はしない事とかだ。正直、昨日の時点で第一段階は成功したも同然だが念には念を入れたい。
「まず昨日の側近の口は?」
「ああ、あやつには年頃の娘がいる……それで黙らせた」
「……じゃあ定幸兄さんの口は?」
「定幸? あれはお前の腹心だろ?」
父が驚いた顔をしているが甘いと失笑する。裏切った人間は見張ってないと必ず裏切るものだ仲の良さなんて関係無い。
「……誰が裏切るかわからないから担保が欲しい、家族構成は?」
「う、うむ……子が二人、高校生と中学生の息子と娘だ」
調べて無かったが定幸には子が二人……なら人質には出来るな。万が一の誘拐者リストに入れてリオンに指示を出しておこう。
「分かった、それで信用するよ」
「鋼志郎お前……そこまで」
「大丈夫さ、俺に従う限り悪いようにはしないから」
「そうか、では融資の件だが……明日か?」
父さんの言葉に頷くと俺は親孝行とサプライズを実行した。
「いや今日中だ。融資額は今までの三倍……それと父さんに小遣いもな?」
「使途不明金でも入れ岩古の信頼をさらに落とすのが狙いか?」
弱味を増やし動きを出来なくするのも一つだ。だけど今回は違う。同じ男としてのささやかなプレゼントだ。
「違うさ、クラブ・サイレンスのシンディーちゃんの接待費さ」
「ぐっ……お前、それもっ!?」
という訳で父さんの懇意にしてるキャバ嬢シンディーちゃん(源氏名)については調べは付いている。村の予算の一部を使い込んでいたようで雇った小生意気な情報屋が見つけて発覚した事実だ。
「今後は接待費も俺が出す父さん、一応聞くが知らない弟や妹いないよな?」
「おらん……そういう関係ではない」
「あの村だとストレス溜まるよな? 今後は俺が遊びの金も出すさ、あと定幸と父さんの側近達には別途でこれだけ出す、何かと物入りだろ皆?」
俺はスマホで七桁の金額を提示した。それに父は驚いていたが俺の今の資産からしたら
「う、うむ……なるほど……その点も言い含めておく」
裏切者が出たら厄介だが金を握らされていた事実が判明すれば役に立つ。岩古の家が疑念を持つくらいにはなるし裏切ってなければ村を金で縛れる。
「あと明日は皐雪たちを連れてそっち行くから、この金で豪勢に頼むな」
そう言って俺は更に札束を二つ出し父の前に置いた。
「っ!? こんなに……では岩古本家への対応は?」
「まだ秘密……ただ父さんは俺の情報が向こうに漏れるよう手配してくれ」
「分かった。なら口の軽い者を何人か家に入れておく」
「人選は任せる、余った金はお好きにどうぞ」
せいぜい寿司取ったり近所の料理屋か飲み屋に頼むくらいで半分以上は余るだろう。むしろこの金で今日は遊んでもらいたい。父さんの弱味も増えるからな。
「ああ、分かった……それとシンディーの件だが」
「大丈夫、人質にはしないよ」
人質は生きているから価値が有る。危害を加えたりしたら交渉の材料にも俺の盾にも出来ない。だが父の反応は少し違った。
「いや、お前は指名するな、あいつは金持ちに凄く弱い」
「お、おう……なんか大変だな父さんも……」
少しだけ父さんに同情した俺は無言で札束を一つ増やした。その日、父さんは町で埃をかぶっていたドンペリを二本入れ朝帰りしたと後から聞いた。
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