第14話「非常識一族と鋼志郎の決意」


「なっ!? お前、正気か!?」


「ああ、まず大介おじさんの葬儀だ……そこで斎主として俺が出れば村に証明したようなもんだ、その後に皐雪と結婚する」


「お前の狙いは最初から……皐雪か」


「ああ、第一目標はそれだった……さゆ? 結婚すんぞ、いいな?」


 しかし俺の言葉に対し皐雪は不満顔で言った。


「こうちゃ~ん、そう言うのロマンチックに言ってくれないと、だから浮気されちゃうんだぞ? 反省してね?」


「ほう、そ~か……じゃあ今夜好きなだけ言ってやる……よっ!!」


 平気で地雷を踏み抜いた女に俺は昔のようにアイアンクローした。言っても分からない奴には直接しつけをするのが一番だ。


「痛っ!! こうちゃんの愛が少し気持ちいいけど痛いから~!! 娘の前は堪忍して~!! や~め~て~!!」


「なぁ~に、いっちょ前に母親みたいなこと言ってんだ!! 今夜は寝かせないから覚悟しとけ皐雪!! もう容赦しねえぞ!!」


 その後、千雪ちゃんの視線が痛かったので許してやる事にした。さらに再度、鉄雄も呼び出し今後の作戦を細かく話し合った。


「問題は財源だ……実は融資側とは交渉中で……今年の祭の予算も厳しくてな」


「それなら問題無い父さん、その交渉中の二社は俺の会社だ」


「「「はっ?」」」


 全員が驚いていたが俺は村を滅ぼすために十年以上前から動いていた。ファンドで金を作ったのも社長やってるのも全ては村を滅ぼすためだ。


「そんな前からお前……」


「当たり前だ、俺は後ろは振り向かない主義だが皐雪だけは例外だ……」


 復讐するためにコツコツ用意した会社や金、それをある日ふと確かめたら既に岩古村を滅ぼすには余裕でキャリーオーバーしていた。だから会社を大きくするのを優先し村の方は半分趣味で後はタイミングだった。


「この執念が怖いんだよ鋼志郎は!!」


 そう言うと鉄雄が叫び父や定幸も頷いていた。執念というより俺はやりたい事をやってるだけで酷い言われ様だ。


「じゃあ、こうちゃんって今は社長さん?」


「ああ、一応は七つ会社を持ってる」


 今回のダミー会社以外にも俺が社長としては二つ、残りは株主として実質的に支配しているのが三つ。他にも最近は千堂グループから委託された事業が忙しいからもう一つか二つくらい作ろうと考えている。


「じゃあ私って社長夫人!?」


「まだ結婚してないから浮気幼馴染だぞ? ざまぁされるから立場を弁えろ?」


「こうちゃんの愛が厳しいよ~」


「社長夫人になりたいならもう浮気すんなよ?」


「は~い」


 そして再び父や鉄雄と話し合い岩古への対応も含め俺の指示通りに動くよう話した。だが最後に黙って見ていた千雪ちゃんが口を開いた。


「そ、そのぉ、鋼志郎さん……いいですか?」


「何だい千雪ちゃん?」


「私が言うのも変ですけど、母の浮気を許すのはどうかと……」


 その一言で場が一瞬で凍り付いた。




 千雪ちゃんの言葉は至極真っ当だ。皐雪と例の寝取り男から常識人が生まれるなんて大介おじさんの教育は完璧だと俺は確信した。


「で、ですが千雪さん、お二人は前からこうでした、ですよね旦那様?」


 しかし村の掟にドップリな俺の元付き人の定幸はすぐフォローに入る。しかも父に話を振りやがった。


「うむ、二人揃って破天荒だったからな……」


「ええ……そうですね」


 遠い目をする父と、それに同意する冬美さん。どうやら俺達は親から破天荒だと思われていたらしい。


「こいつら重いようで軽くて、でも行動力と絆は軽いようで激重、常に一緒に暴れ回るからフォローするこっちが大変だった」


 それは悪かったなと鉄雄に言って皐雪も苦笑していると千雪ちゃんは絶句していた。そして禁断の一言を放ってしまった。


「じゃあ、母さん……何で浮気したの?」


 千雪ちゃんのトドメの一言で完全に空気が死んだ。周りの人間は無言で皐雪すらフリーズした。この正論に大人達は何も言えなかった。


「そ、それは……あはは……」


「何で鋼志郎さんを裏切ってまで、あの人にって疑問が……」


 完全に自分の父親をあの人扱いだ……クズとはいえ父親への扱いはマズい気もするが仕方ない。DV&虐待しまくりのクズ野郎だったらしいし、だが今は話題をそらしたい。空気が重過ぎる。


「千雪ちゃん、それは……また今度で……」


「ちゆ、それは……母さんがバカだったからよ」


「さゆ、お前……」


「ぜ~んぶ私が悪かったの……浮気したのも、こうちゃん傷付けたのも私。寂しくなって不安になって、ちょ~っとカッコいい言葉に舞い上がったバカな母さんがいけないの……はい、この話はおしまい!!」


 その言葉で大人たちは一斉に逃げた。そら清々しい勢いで逃げ出しやがった。父や鉄雄を始めとした男衆は「用事が」と言って猛ダッシュし、冬美さんは一瞬で自室に引っ込んでいた。


「ズルいですね大人って……そう思いません?」


「人間ってのはズルを覚えながら大人になって行くもんだよ……千雪ちゃん」


「そうよ、だから千雪はズルしてもいいけど本当に好きな人を見つけたのなら絶対に裏切ったり逃げたりしちゃダメ、これ、お母さんの経験談」


 そして後日この言葉がフラグになっていたとは誰も思ってなかった。言った皐雪すら思ってなかったのだ。




「で? お前なんで今夜も来たんだ? あれ冗談だぞ?」


「ごぉぢぁああああん、やっぱり娘に言われたのは辛いよ~」


「あ~、それか、よしよし頑張った頑張った、ちゃんと母親やってんな?」


 俺は単純に嬉しかった。三十越えてもコイツはガキのままで俺に甘えに来たからだ。俺の前だけでは昔のままでも文句は言わないし誰にも言わせない。


「うん、わたし、頑張ったから今夜もいっぱい寝取って~」


「仕方ないな……あと言い方……相手が居ないからノーゲームだ……ま、今日のご褒美だ。さゆ、よく頑張った」


 そのまま抱き寄せると今日は優しくキスをする。初日は少し激しく抱き過ぎたから反省はしていた。


「こおちゃんが優し過ぎると不気味だよ~」


「お前な……俺だって気にしてたんだぞ、お前が取られた理由わけをさ」


「えっ?」


「当たり前過ぎて、あんま言ってなかった……昔から今日までずっと好きだ、もう離さないからどこにも行くなよ皐雪……」


 何度も体を重ねた俺と皐雪だが愛を言葉にしたのは少なく告白した時くらいだ。だから軽薄な言葉一つで簡単に壊され奪われた。口にしないと伝わらない時も有るのに俺は驕っていた。深い絆も大事な愛も言葉にしないと見えない時も有るから。


「うん……でも、こんなオバサンになっちゃったのに良いの?」


「お前が良いんだよ俺もオッサンだ……それに身を固めるならお前だけだ」

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