第13話「それぞれの因縁」
◇
――――数時間前
「だからうちの母さんと、こうちゃんのお父さんって昔ラブラブだったんだよ」
「……そういう話、俺は聞きとうなかった」
つまり血筋的にも俺は皐雪に惚れる
「運命だね~、やっぱりポッと出の真実の愛なんかより幼馴染だよね~」
「お前が言うな……ったく、今夜も躾けて鳴かすぞ」
「うん、昔みたいに……激しくオシオキして、こうちゃん……」
そう言って頭を強めに掴むと皐雪は目を潤ませていた。言い忘れていたがこいつはドが付くエムだ。その原因は高校時代、毎晩のように俺が仕込んだせいだったりするが千雪ちゃんには絶対に秘密だ。
「ごほん!! あの、二人とも、良いですか?」
「ああ、すまない千雪ちゃん、悪かった……それで何かな?」
つい雰囲気に流され昔のように抱きそうになったが千雪ちゃんの前だ教育に悪い。それこそ父さんや冬美さんの二の舞だ。
「つまり鋼志郎さんは、お婆ちゃんと山田家当主の関係を利用するんですか?」
「ああ、そうなるね……」
「いいんですか? 実家……ですよね?」
ここで過去の恨みとか言うのは危険だ。彼女の父親に対する不信感は根深い。俺の将来を考えた時の事を考える必要が大いに有る。
「千雪ちゃん、繋がりは大事だと思う。だけどそれは血筋とか古くからの知り合いだから大事にすべきって話じゃないんだと俺は思う」
「えっと……つまり?」
「大事にする理由は大事にしたいからです!!」
俺が言うと千雪ちゃんはポカーンと母親と同じ顔をしていたが隣で当の母親は大爆笑していた。
「こうちゃんそれ……進〇郎構文だし、おじさん全開だね~」
「おじさん関係ねえから、バカにしてるが小難しい理屈より分かりやすいし俺が皐雪が大事なのも千雪ちゃんを大事にしたいのも結局そこだ。理屈じゃないんだよ」
「うん、分かったよ!!わたし今回の村潰しを全力で手伝うね!! 岩古村をぶっ壊す!! 容赦無き村改革だっ!!」
「わ、私も、頑張り……ます?」
皐雪は気合全開で千雪ちゃんはゴニョゴニョして顔を真っ赤にしている。そんな二人を見ながら俺は作戦前の準備を進めた。
◇
そして現在、勝利は目前だ。
「望みは……何だ?」
「復讐だ……ま、父さんは
「……いいえ、むしろ鋼一さんの子供だから」
確かに俺も皐雪の娘だから千雪ちゃんが可愛いし、だから余計に分からない。
「では何で皐雪の後押しを? 当時あなたは積極的でした」
俺が村に居ない間に進んでいた婚約破棄と岩古の陰謀、最初はこの人に話していたと皐雪から聞きたが、その時から疑問は深まっていた。理由が分からない。
「私の個人的な、憂さ晴らし……だったわ」
「憂さ晴らし?」
そこでの冬美さんの話は稚拙だが根の深い問題を語り出した。
「私は政略結婚が憎かった……本当は鋼一さんと結ばれたかったから」
「母さん!? まさかっ!?」
「冬美、お前……まだ」
今の話で父が沈痛な面持ちをするが中々に罪作りだな父さんも……。
「いいえ、もう過去ですから、それに夫は私を大事にしてくれた……でも因習で別れさせられた私は娘には自由恋愛させたかった。それだけだったの」
「冬美……なんてことを……そんな事のために岩古を利用したのか!?」
その告白を聞きながら俺は納得した。あの追放劇は冬美さんなりの村への復讐だった……だが地味な上にショボい。本人は娘に賛同しただけで村の普段のやり方なら外の人間と別れさせ子も堕ろせと言われるのが通例だ。
「ええ……そうなるわ、これが私の本心よ鋼志郎くん」
それが岩古家が予想外の動きをし取り返しがつかなかくなったという話か……分かってみると陰謀など存在せず、つまらない真相だ。
「ふぅ、分かりました。今回は二人のために許します冬美さん。あと父さんは俺のために働けよ、異論は一切認めない!!」
「だ、だが、やはり……岩古を裏切るのは……」
「なら山田家も没落するか? 俺が潰すか岩古が潰すかの違いだぞ?」
どの道、俺の乱入で岩古からの疑惑は消えない。遠野の家を実質的に支配しているのは俺だ。こうなると残りの二つ、滝沢は鉄雄が俺と繋がっていたのがバレたら大変で山田家も父が来てしまった時点でアウトだ。
「そ、それは……」
だが一押しが足りないようだ。ならばトドメを刺す。
「村の予算の残りはどれだけ残ってる?」
「そ、それは……言えん!!」
「あと四年、多くて五年持つかどうかです若様!!」
言い淀む父に代わって俺の問に答えたのは沈黙を守っていた付き人の定幸だった。
「お前、なぜそれを!?」
「若様がお戻りなった時のために会計係は懐柔済みです……旦那様」
これは予想外だった。実はここから先は全部アドリブで次の
「くっ……裏切ったか定幸ぃ!!」
「私が今、情報を漏らしたので岩古への裏切りは確実です……若様!!」
「そうか定幸……それは誰の指示だ?」
「大介さんに五年前から……いつか来るべき日のためにと……」
そうか、最後の最後まであの人に本当に世話になりっぱなしだ。俺は涙が出そうになったが今は泣けない。まだ序章だ……だから俺は笑って言った。
「そうか、おじさんが……よくやってくれた定幸」
「はい、若様いえ我が主、鋼志郎様……ご帰還をお待ちしておりました」
こうして実質クーデターで父を下し従わせた俺は幼馴染の実家に続いて実家の支配権も獲得した。これで二つの家が俺の支配下となった。
◇
「こうなったら山田の家名は残してくれ鋼志郎、岩古を裏切るのだ……た、頼む」
「心配すんな黙って俺の言葉に頷いてればいい、これから先もな?」
土下座する父の頭を踏みつけ見下ろしながら言うのは気分が良いと同時に虚しくなった。この程度の男に警戒し恐れていたという俺自身の小ささにだ。
「では、最初に何に頷けばいい?」
「俺が遠野の次の当主になることだ」
足をどけ俺が言うと父を始め多くの人間が驚いていた。この場で唯一驚かなかったのは皐雪だけだ。こいつには全て昨日抱いた時に話したからだ。
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