第12話「まずは実家を黙らせます」
それから30分ほど三人で話した。皐雪が隣で色々とうるさかったが千雪ちゃんと上手く話し合いが出来て一安心だ。
「あと早ければ今日の午後から結構うるさくなると思うから謝っておく……さゆ、準備するから手伝え」
「は~い、お任せあれ!!」
ジャージに着替えて来ると言って先に部屋に戻った皐雪はやる気満々だ。
「私も何か……お手伝いしたい、です!!」
「千雪ちゃん……ありがとう、じゃあ俺の荷物整理を手伝ってくれ、さゆ……お母さんと二人でお願いするから動きやすい恰好でね」
「はい!!」
元気いっぱいに答える千雪ちゃんを見て少しは信頼はしてもらえたとかと内心で安堵しつつ俺は関係各所に連絡し裏で俺の計画もスタートさせた。
◇
『おい!! 出て来いバカ者が!!』
『鋼一様、お待ち下さい』
『ええい!! 黙らんか!! なぜ私に挨拶せんのだ!! 鋼志郎!!』
それは予想通りだった。乱暴にドアを叩く音に俺は部屋を出た。既に未造さんが対応しているが皐雪と千雪ちゃんが不安そうに俺を見ている。
「こっからが俺の見せ場だぜ、レディ達?」
「こうちゃん、そういうキャラになったの? なんかダサ~い」
秘書連中と同じこと言いやがって……前に英国で会ったキザな友人のマネしただけなのに……俺だって傷付くぞ。
「私は、カッコいいと思います……鋼志郎さん!!」
「千雪ちゃんは可愛いな!! じゃあ行って来るよ」
真っ赤になった千雪ちゃんに励まされた俺はガラッとドアを開けると予想通りのメンツが居た。まずは山田家の当主で俺の父、山田 鋼一そして父の側近と懐かしい顔もいた。
「若様!!」
「よ、
俺の元お付きで家人だった住田 定幸だ。少し老けたが相変わらずのようで安心した。だが俺に無視された父はキレた。
「きっさま!! 鋼志郎、連絡もよこさず何をしていた!?」
「あ? 色々と準備だよ。まあ上がって、さゆ、お茶の用意を頼む」
「は~い、皆さんもどうぞ上がって下さい」
そう言って俺は踵を返し二人を先に行かせる。大事なのは二人の安全だ。正直それ以外はどうでもいいから割と楽だ。守る対象が少ないのは簡単でいい。
「鋼志郎……お前……」
「話すからさ、早く上がってくれ、な?」
父と側近それに定幸だけを家に上げると残り数十人は全員を帰させた。俺の言葉に父が嫌々ながらも従った結果だ。
「……久しぶりだな冬美、息災だったか」
「え、ええ……お久しぶりです鋼一さん」
最初は年長者同士だ。それを邪魔する野暮はしないのは理由が有る。俺は皐雪を見てコクリと頷いたから目で合図する。さて作戦開始だ。
「まずは父さん……昨晩、戻りました」
「ならば!! まず当家に挨拶であろう!! もしくは岩古に!!」
「行くわけねえだろ、バ~カ!!」
「なっ、何を言っているのだ!! 鋼志郎!!」
ニヤニヤ笑いながら言うと父は完全に頭に血が上ったらしい。この程度でキレるのが村の渉外担当とは聞いて呆れる。それとも相手が俺だから油断してるのか? だとしたら実に愚かだよ……父さん?
◇
「ただの冗談だ、マジになるなよ父さん?」
「ぐっ、では……滝沢の息子を私より先に呼んだのはなぜだっ!?」
「あいつとは家を出てからも何度も連絡を取り合ってたからな」
「え? こうちゃん、それ初耳なんだけど?」
隣に座っている皐雪が惚けた顔で言うが、これは仕込みだ。既に父が来る前に指示は出していた。その更に隣の千雪ちゃんは不思議そうに俺を見ている。事前の打ち合わせ通り事態が推移しているからだ。
「黙っておくよう頼んだからな。あと大介おじさんとも連絡を取ってた……もちろん村には秘密にな?」
「「なっ!?」」
今度は父と冬美さんが驚く番だ。
「くっ、鋼志郎きっ様ぁ!! 狙いは、何だ!?」
「さあ? 俺の目的はもうほぼ達成されたようなもんでな、後はオマケ程度でお父様に是非ご協力してもらいたいのさ」
「バカ者が!! 協力など誰がするか!!」
どうやら父を過大評価していた。そもそも下の町での工作にも気づいていない時点でダメダメだ。しょせん村だけで世界を知らない世間知らずだ。もう詰みなんだよ。
「協力して頂けないと?」
「当然だ!! むしろ貴様が私と岩古家に対し許しを請い跪くのだバカ者が!!」
それに視野も狭い。自分がいつまでも強く立場も上だと勘違いしている。知ってるか父さん? 渉外で一番有効で強いカードそれは……。
「そうだな、なら今の話を全て岩古の家に報告しろ」
脅迫だ……脅して黙らせる。それが一番効果が有るカードだ。
「それは、鋼志郎くん、あなた!?」
「そうです冬美さん、遠野の当主が追放された男と裏で繋がっていて、次期村長の滝沢の嫡男まで俺を庇っていた意味、お分かりですね? これって、立派な村への裏切り行為では? ねえ?」
「だっ、だからどうした!! そんなこと俺はっ――――」
「お父様ぁ? 私は
そう、先に実家以外と会談したのは意味が有る。一番は皐雪の無事の確認だったが同時に俺が遠野家そして滝沢家と協力関係を結ぼうとしていると勘違いさせるのが狙いだ。
「そ、それは!?」
「渉外担当は外と繋がることが他の村の人間より多い。それで息子である俺の動きを見過ごしたと? どう思います冬美さん?」
そこで俺は幼馴染の母を見て言った。せっかく役割を与えたんだ上手く動いてくれよ……お義母さま?
「……松様なら、あなたを使い鋼一さんが岩古に謀反をと考える……かしら?」
「はい正解~。さすが昔、俺の追放に加担した人だ。分かってらっしゃる」
あのババアなら父を真っ先に疑うはずだ。だから最初に滝沢の人間つまり鉄雄を遠野家に呼び出した。最初から父と繋がってるから実家以外の二家の取り込み中だと岩古家に匂わせるのが狙いだ。
「ホイホイここに来た時点で俺の勝ちなんだ、どうする父さん? 今なら土下座だけで許してやるよ優しいだろ?」
「ま、まだだ!! 松様なら、いや何か策が……」
「もう諦めましょう鋼一さん……天罰です。もしかしたら夫の、あの人の最後の意志なのかもしれない……」
そう言って父を納得させた冬美さんを見て思った。ああ、やっぱりなんだと……俺は皐雪を見るとニヤリと笑っていた。今回はコイツのお手柄だ。
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