第11話「若者とコミュニケーションを取ろう」


 鉄雄たちを一度帰した後に遠野家の人間だけで今後の話し合いになった。ちなみに千雪ちゃんは泣き出して部屋に戻ったから今は大人だけだ。


「やっぱ年頃の子の頭を撫でるのはダメかぁ……」


 思わず秘書の咲ちゃんの『セクハラです!!』を思い出す。またやってしまったか……なんて、なろう系主人公の気分だ。


「たぶん違うから、こうちゃん……でもまさか千雪も?」


「さゆ? どうした?」


「こうちゃん、16年で鈍感系になったの?」


 隣で少しご機嫌斜めな皐雪を適当にあしらいながら俺は車から降ろした荷物の中の一つを開けて封筒を取り出した。


「なに言ってんだか……それより返す物が有ったんです冬美さん」


「何かしら?」


「俺が村を出て行く時に大介おじさんが渡してくれたお金をお返しします」


 今の俺には大した額では無いが、このタイミングで返した方が良いと思う。おそらく今の遠野の家に現金はほとんど無いからだ。


「これを、あの人が?」


「はい、このお金には助けられましたので、本当は生きてる内に返したいと何度も言ったのですが……受け取ってもらえなかったので」


「でも、いえ……ありがとう鋼志郎くん……私を責めないの?」


 俺を権力闘争に利用した自覚は有るようで殊勝だが、どこまで本気か分からない。皐雪はまだしも、この人は信用できないし一定の距離は保つべきだ。


「それは大介おじさんの、恩人をちゃんと送った後で……話をしましょう」


「そう、じゃあ、これはありがたく頂くわ、もっともお金は有ってもね」


「ええ、なので、まあ色々と動かすのでご安心下さい」


 俺がニヤリと笑うと皐雪はポカーンとしているが冬美さんは溜息を付いた後に了承してくれた。


「分かったわ、遠野の家をあなたに託します……好きにしてちょうだい」


「はい、断られても最初からその気ですので」


 予定とは違ったが問題無い。むしろ大幅にスケジュールが早まった。本来なら鉄雄の力を借りて俺は実家を乗っ取り最後に遠野家を潰す気だった。それが弱ってるとはいえ最終目標を確保できたし皐雪も手に入れられた。


「聞いて良いかしら? 何でここまで?」


「言わなければ分かりませんか?」


 俺は言いながらチラリと隣の幼馴染を見て言った。


「分からないわ、ウチの娘が?」


 そう言って隣の皐雪を見て言う冬美さんに俺は堂々と言い切った。


「はい、会って再確認しましたので、では後はお任せ下さい、行くぞさゆ」


「こうちゃん、私のこと好き過ぎ~って……いひゃい、いひゃいよぉ~」


 調子に乗るから頬っぺたを引っ張って連れて行く。昔からしていた躾の一つだ。これから更に厳しめで再教育予定だ。こいつは目を離したら何しでかすか分からないし一生傍に置いておくと決めた。


「お前は反省しろ調子乗ってると今朝みたいに、足腰立たなくすんぞ?」


 そして俺は問題の一つである千雪ちゃんと話をするために皐雪と部屋へ向かった。




「いいかな、千雪ちゃん?」


『……ふぁ……ひゃ、ひゃい!!』


 ノックすると驚いた声がドアの向こうから聞こえた。まだ泣いていたのか、それとも泣き疲れて寝ていたのかもしれない。


「あ~、これヤってたね、千雪」


「なに言ってんだお前? 千雪ちゃん、調子が悪いなら後で話を……」


 ドタバタ音がしたかと思うと急に静かになりドアが少しだけ開く。そこから顔だけ覗かせた千雪ちゃんの顔は真っ赤だった。


「ど、どうぞ、鋼志郎さん」


「ああ、失礼するね」


 オッサン呼びじゃなくて感動した。どうやらドタバタしていたのは部屋を片付けていたからで窓も全開にし芳香剤まで撒いて歓迎してくれているみたいだ。皐雪と違って気が使える良い子だ。


「うんうん……やっぱ私の娘だね~」


「お前はさっきから何を言ってんだか、さて千雪ちゃん……さっきはごめん、いきなり頭を撫でられたらそりゃ驚くよな、すまなかった」


「べ、別に……」


 やはり小さい頃の皐雪みたいで可愛い。話に聞く寝取り男と隣の幼馴染の子供とは思えないな……天使みたいだ。


「ありがとう許してくれて」


「むしろ嫌じゃ……なかったんで……」


 しかも俺を気遣ってくる優しさ。ああ……そうか分かった大介おじさんの血が隔世遺伝してるんだ。良い子に育ってくれて嬉しいよ俺。


「これお互いフィルターかかってるね~」


「お前は黙ってろ」


 スコンといつものように軽く小突くと千雪ちゃんがビクっとしていたがすぐに不思議そうな顔をしていた。


「もうポコポコ叩くのやめてよ~、痛いよぉ~♪」


「なら頭をグリグリくっ付けんな……変わらないなお前は……」


「母さん? 怖く、ないの?」


 そうだ迂闊だった……昔の感覚でポンポン叩いていたが千雪ちゃんにしてみれば母親を殴るクズ野郎だ。若者の感覚的に軽いタッチは論外で言動すらセクハラ&パワハラになるのに皐雪を確保し油断していた。


「だって、こうちゃんだし、手加減してくれるの分かってるし」


「でも、あの人に殴られた時に……男、怖いって……」


 その言葉に皐雪は俺の知らない達観したような顔で「そうだったね」と陰のある笑みを見せたが俺はイラっとした。だから抱き寄せていた。


「きゃっ!? こうちゃん……甘やかさないでオシオキにならないから~♪」


「さゆ、その話は後でな。さて千雪ちゃん……少し話をしたいんだ、いいかな?」


「むっ……何をですか?」


 皐雪を見て少しムッとしたのは警戒心を強めてしまったからか? よく考えたら自分の母親をいきなり抱き寄せる男なんて危険人物だ。反省し慎重に行こう。


「言いたくないなら言わなくていい。今の村の状況は少し分かったから、良ければ個人的なことを話したい」


「個人的な、こと……ですか?」


「そうだ、なんでも良いから話をしたい。俺は君とも仲良くなりたいんだ」


「わっ、私も!! 仲良く、なりたい……です!!」


 こうなりゃストレートに本心を話すしかない。何より先ほどまでの話で不信感を持たれてるのだから今の俺には信頼回復が急務だ。


「やっぱり私の娘だ……厄介な……」


「だから皐雪、お前はさっきから何を言ってんだ?」

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