閑話その1「最低な父と母そして私」
◇
「なるほど……そうか、宗太……他にも何か有るか俺が許す、話せ!!」
「じゃあ僕もいいですか若様!?」
「ああ、頼む、だがまず名前を教えてくれ」
私は目の前の光景を見て驚き過ぎて口を開けないでいた。私達の家を目の敵にしていた人達は目の前のおじさんの言葉一つで協力的になったからだ。何を言っても話しても無視された小さい頃の私の扱いと違って何でも話していた。
「それに若様、あいつは!!」
「なるほど……そうか、ふむ……」
でも余計に私の心は苦しくなった。今、話しているのは最低な私たち家族の話だ。その中心は私の父で故人の遠野
◇
――――十年前
これは私、遠野 千雪が小学校に上がってすぐの話、その前から私の父は変だと思っていた。それと母も少し人とはズレている。だけど一番異常なのは父だ。
「こんな飯食えるか!!」
「じゃあ食べないで、さっさと仕事っ――――きゃあ!?」
朝のいつもの光景だ。父が何か文句を言って母が抵抗する。黙ってれば叩かれなくて済むのに母は黙ってられない性格で毎朝叩かれた。こんな光景が続けば、お爺ちゃんが許さないと思うだろうが事情が有る。
「パパやめて」
「うるさい!! 黙ってろ!!」
「ちゆ、割り込まないで、いいから早く学校に!!」
私がこの遠野屋敷に住むようになったのは父が死んでからで、それまでは三軒隣の一軒家に三人で住んでいた。だから家庭内での不和やDVそして私への虐待は父の死後に分かった。そう、私は父に虐待を受けていた。
「うん……もう、けんかしないで……パパ、ママぁ」
そう言うと私は父にビンタされ母さんが怒って反撃して怒鳴る。そんな朝の光景を物心付く頃から私は見て育った。母さんは私を守っていたようだけど私は蚊帳の外で疎外感を感じていた。
「ちゆちゃん、顔ど~したの?」
「赤いよ~?」
「ころんだ~」
そう言えと母から言われていた。これ以上の醜聞を広めたくないのと実家に知られたくなかったんだと思う。そして家に父が居ない時は天国だった。母は頼りないが優しかったし大事にしてくれたのは感謝している。
「ママ、どこだろ?」
でも、その日は少し違った。母の声は聞こえるけど見当たらなかったからだ。
『んっ……こうちゃ、ふぅ……会いたいよぉ……』
母の声を辿るとトイレだった。私は気になってドアにソッと近付いた。中からは母の聞いた事のない声が響いていた。
『こおちゃん、私……会いたい、いっ……ふぅ……』
当時は何をしているのか分からなかった。だから私がドアをノックをすると母は慌ててトイレから出て来て変な顔してると笑ったものだ。
◇
「私、もうダメかも……こうちゃん……助けて……」
「ねえ、ママ、こ~ちゃんって誰?」
「えっ!? あ、それは……」
ある日、父が昼から競馬に行くために母の金庫から無理やりお金を奪って行った日に私は泣いてる母に尋ねていた。
「だぁれ?」
「ママの……大事な人、よ」
「私は~?」
「もちろん、ちゆが一番大事よ!! でもね……ううん何でもない」
それから私は母が喜ぶから謎の『こうちゃん』の話を何度か聞かせてとお願いした。その時だけは母さんは笑顔になって機嫌がいい時は写真も見せてくれた。でも、ある日、父に見つかってしまった。
「またかよ、どいつもこいつも、この村は!! 若様って……俺が、俺がそんなに悪いのか!!」
「止めて、ちゆも見てるんだから、あなた!!ねえ、もう止めて!!」
「うるさい、うるさい……うるさああああい!! 何でだよ……俺は認められたんじゃなかったのか!! 何であいつを、会った事も無い奴が俺より上なんだ!!」
後で知ったが父は村で鋼志郎さんと常に比べられていたらしい。だから意趣返しに鋼志郎さんの知り合いの女性を襲った。でもなぜ父が悪いことをしても許されたのかは謎だった。
「ごめんなさい、もう、許して……」
「ママ!? もうやめてパパ!!」
そして、父が死ぬ前日……私とママは殴られた。母も何回も殴られて堪えたようで部屋に籠って一人で泣いていた。そしてドアの向こうで母は私を放置して、例のこうちゃんを思って自分を慰め泣き続けた。私も泣いているのに私に見向きもしないで、その人に助けを求めて一人だけ現実逃避した。
『こうちゃ、ん……会いたいよ、私を……叱りに来て、よぉ……なんでも、するから、あの人とじゃ幸せになれない……よぉ……こ~ちゃん……』
「ママ……助けてよ……誰か、助けて……」
父は逆恨みで村に迷惑をかけ家族を傷付けるクズ、母は現実逃避のため父以外の男に懸想する弱い人。そして私は父親なんて消えてくれと願った最低な娘だった。そんな最低な自分が私は大嫌いだ。
◇
――――現在
「そうか、なるほど……なら、まず謝罪しよう皆に、あと説教だ!!」
「こ~ちゃん?」
「さゆ、お前も頑張ったんだろうが酷過ぎる……何でここまで放置した? 鉄雄や皆も助けてやれ、村の仲間だろうが……俺の事は気にするなと何度も言ったよな電話で……だが何より!!」
そう言って、こうちゃんこと山田鋼志郎さんは私を見て言った。
「え? 私も?」
私も何か言われるのかとビクビクして鋼志郎さんを見た。
「何よりも!! こんな人生お先真っ暗みたいな顔になるまで女子高生を大人が追い詰めて、お前ら全員反省しやがれ!!」
ドクンと心が震えた。まるで今の私の心の中を見られたみたいになって怖くなって恥ずかしくて、でも理解されたような不思議な感覚が体を支配する。
「あっ、私……」
「ごめんな千雪ちゃん、こっからはオッサンに任せろ必ず守ってやるからな、だから子供が泣く時間はもう終わりだ!!」
ポンと頭を撫でられた瞬間、涙が溢れた。初めて私を守ってくれる人が目の前に現れた事が嬉しくて私は泣いていた。
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