第9話「幼馴染の後悔」
それを聞いて余計に混乱した。何がどうなって先祖代々の土地を手放した? そんな事は岩古が許さないだろうし俺の理解は完全に追い付かない状況だ。
「結婚してから一年くらいで、あの人が酒浸りになってギャンブルばっかして土地とか勝手に担保に……しかも村の外の人間相手で……」
「勝手に? 何でそんな事が!? 不可能だろ?」
「あの人……地元のヤクザと付き合いが有って、それで……」
今日日ヤクザとは驚いた。事前調査で下の町には未だに反グレ連中の生き残りがいると報告が有ったが、まさか皐雪の元夫と関わりが有ったとは……調査が甘かった。もっと調査すべきだった。あの情報屋にも文句言っておこう。
「父さんが交渉して何とか土地は戻ったけど、その話がどこからか漏れて……最後は管理は任せられないって岩古家に取り上げられちゃった……」
「そんな事件を四年間で二十件近く起こして土地は全部が岩古へ、あの人……それで最後は酔っ払って田んぼに頭から突っ込んで窒息死したんです……笑えません?」
皐雪の話が終わると千雪ちゃんが言うが、その笑顔は歪んでいた。悲しみ、怒り、そして愉悦が入り混じって女子高生がするような顔じゃない。
◇
「なるほど……でも千雪ちゃん、亡くなった人間、それも父親のこと悪く言うのは感心しないな」
「っ!? なにも知らないオッサンの癖にっ……!!」
「あっ、千雪!! もう……ごめん、こうちゃん」
彼女が広間を飛び出し少しするとバタンとドアの音が遠くに聞こえた。年頃の女の子の扱いは難しい……なんてオッサン思考全開になっていた。そこで残った保護者に苦笑して言った。
「娘がグレるくらいにはピンチだな、さゆ?」
「分かってる、でも私じゃ何も出来なかった……去年まで父さんが頑張ってくれてたんだけど……でも父さんが自警団も解任されちゃって」
それ以来、自警団の協力も得られず数人の家人と家の人間だけで生活し村八分に近い状態に追い込まれていたらしい。
「今は誰が自警団を?」
「鉄っちゃんが代理」
鉄雄のやつ、そんな大事な話を俺に何もしなかった……あと皐雪がこんな風になってる件もだ。定期報告では皐雪に関して「問題は何も無い」と言っていた。とにかく後で詳しく聞く必要が有りそうだ。
「……さゆ、顔色が悪いが飯はどうした?」
「まだ、お昼から色々あり過ぎて」
「急いで来て正解か……まず飯だ。色々と買って来たから食おうぜ? あと千雪ちゃんも腹が空いてないか聞いて来い、それから後は……」
俺が車から飯を取って来ると言って立ち上がると皐雪は俺を見上げて言った。
「ねっ、ねえ!! こうちゃん……どうして、怒らないの?」
「ん? 何を……」
「わたし!! こうちゃん裏切って最後は捨てて!! 家こんな風にしちゃったんだよ!! それで、また、こうちゃんに頼ろうと……してるんだよ?」
そう言って涙目なのは昔と何も変わってない。本当にコイツは成長が無い……いっそ清々しいレベルでバカでどうしようもない……でもな。
「そうだな……で?」
「いや、だから……その、色々と……」
「そもそも、お前が困って俺に迷惑かけるのなんて小さい頃からずっとだろうが」
「え? いや……それは……そう、です」
こいつの尻ぬぐいは俺の使命みたいなもんだ。両家の親から言われ面倒を見ていたが途中からは日常だった。そして村を離れ世界を旅して分かったのは皐雪の隣でバカやってた時が一番楽しかったって事だ。
「だろ? 小学校の時に、おねしょ庇ったのは? 泳げないのを河原で特訓してやったのは? あと中学ん時の門限破りと神社の仕事のサボり、高校の屋上でヤった時の後始末、あと最後にお前を抱いた時と――――」
「ごめんなさい、私が全部、甘えてました……」
「お前は一回やらないと学習しないから、転ばないと痛みが分からないし泳げないから溺れるまで遊ぶ、あと浮気して失敗しないと現状が分からない、とかな?」
「うっ……はい、そのとーりです」
まあ俺は皐雪というバカな女を世界で一番分かってる。それに、こんなバカが俺は世界で一番好きなんだ……これが16年間も放浪し出した俺の結論だ。
「俺のやり方は覚えてるだろ?」
「過去は振り向かないで前だけ見て一直線……だよね?」
「そうだ……ま、あれだ面倒だし今回は許す!! 分かったな皐雪?」
「ごおぢぁああああああああん」
「ただいま、やっと戻れた……お前の隣に、さゆ……」
色々と皐雪も有ったようで大泣きした後に俺の買ってきたコンビニ飯を食うだけ食って今は俺に膝枕されている。そういえば毎回抱いた後はこんなだったと思い出す。俺はこいつに膝枕をしたがされた覚えは無い。
「やっぱり一人で全部食いやがった。ちゃんと別にしといて正解か……これは千雪ちゃんの分だ、早く呼んで来い」
「は~い!! 千雪~!!」
その後、連れて来た千雪ちゃんもお腹は空いてたようで完食すると一言「ありがとうございました」と言って立ち上がると俺の隣から離れない皐雪を見て溜息を付いた後に部屋に戻った。
◇
そして翌朝、俺は車の荷物を見ながら下着姿で寝ている皐雪を起こす。
「おい、さゆ?」
「な~にぃ? こうちゃん?」
「とりあえず色々と話し合いもするから服着ろ、家に戻るぞ」
「ん~、分かった~」
車を運転しながら思い出していた。毎朝起こして学校に連れて行くのも俺の役割だった。何なら俺の家から学校に行くことも多かった。
「おはようございます、鋼志郎さん、それと母さんも、朝からどこに?」
「おはよう千雪ちゃん、少し懐かしの故郷を案内してもらってたんだ」
「ふ~ん、そうですか……あと私、今日は高校行かなくて良いんですよね?」
まるで高校に行きたくないようなリアクションだ。確かに高校は割とダルかった。勉強は苦じゃなかったが教師連中がウザ過ぎた。休み時間中に皐雪とキスしてただけで怒鳴られたのを思い出す。
「さゆ、連絡しとけ、あと冬美さんも起こさないと……あとアイツも呼び出しだ」
「は~い、母さんは私が起こしてくるから少し待っててね!!」
それだけ言うと皐雪は足取りも軽く冬美さんを呼びに行った。少し前までプルプル震えてたのにもう元気そうだ。
「母さんに何を?」
「別に……強いていえば不安を取り除いてやっただけかな」
「それを誰も出来なかったから母さんは十年以上ずっと塞ぎ込んで……」
「亀の甲より年の功、あいつとの付き合いは俺の方が長いからな?」
これでも未だに皐雪との付き合いは三年分アドバンテージが俺には有る。年季が違うんだよ十年以上離れていてもな。
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