第7話「二度目の帰郷」


「ふぅ……帰るしかないか」


「社長……」


「あ~、リオン悪いが……」


「こちらはお任せを、それと例の準備も万事抜かりなく」


 本当に優秀な部下だ。言う前に動いてくれている。これなら後を任せても安心だ。


「ああ、それと通常業務だが……」


「それは私達にお任せ下さい社長!!」


 社長室にノックも無しに入って来たのはリオン以外の秘書達だ。ドアの前で立ち聞きしていたらしい。


「咲ちゃん、それに皆も趣味が悪いな」


「すみません……でも、こういう時は助け合いですよ、社長!!」


「最高にいい女に見えて来た、結婚しない?」


 思わず照れくさくて俺は軽口を叩くが咲ちゃんは笑いながら俺を睨んで言った。


「言う相手が違いますよね?」


「はいはい、フラれた~、じゃあ皆、会社を頼む!!」


「社長!! 二番の車に最低限の装備は入ってます!! 後から必ず俺も合流しますので、それまで頑張って下さい!!」


 リオンの言葉に頷くと俺は駐車場まで走って車に乗り込んだ。飛ばせば五時間弱だろう。俺はガソリンのメーターを確認するとアクセルを踏み込んだ。



――――社長室


「咲さん、どうせなら付いて行けば良かったのでは? 社長は恐らく……」


「洋野くん、私なんて最初から眼中に無いのよ……社長は」


「あの人、割と惚れっぽいですし女好きですが?」


「ええ、でも二人で飲んでる時に幼馴染昔の女の話ばっかする男は論外」


 そんな事を咲ちゃんを始め他の秘書の子達がリオンに愚痴っていたのを後で聞いた。酔うと口が軽くなるの昔からだがモテない理由が分かった。




「はぁ、何とか日付が変わる前に着いたか……」


 俺は村の下の町まで休憩無しのノンストップで来たが疲れた。もう歳だと苦笑しながら夜中にコンビニが開いていて驚いた。


「こんな田舎なのに24時間やってんだな……」


「オキャクサン、しつれ~ね~」


 俺は割とノンデリと言われる事が多い。海外では普通にウケたんだが最近の日本ではダメみたいだ。帰国して七年目だが未だ感覚は慣れん。


「ああ、悪い……田舎に来るのが久しぶりなんだ許してくれ」


「ナメテンナ、おっさん」


 そういえば片言だと見れば店員さんのネームはちょうとなっていた。たぶん中国人だ。最近は増えたからな外国人のコンビニ店員も。


「ごめんごめん、これ、お会計お願いね」


「ハイヨ~、こんなニ買うノカ……ダリーな」


 会計を済ますと外は真っ暗だった。食べ物は多めに買い込んだし車にも非常食も積んでるから問題は無い。数年前に道は整備されたと聞いているが万が一のために普段使いできるオフロード車で俺はやって来た。


「へえ、道が出来てる……だが獣道か、あぜ道だろ、こりゃ……」


 砂利道だし木や草を少し伐採した程度の道を見て田舎っぷりは健在で追放前と大差は無い。そのまま軽快に進むと看板が有ったが無視して進んだ。


「前は自分の足だったから時間かかったが、車だと五分くらいか」


 入口から村を見ると思った以上に明るい。明かりが増えているが蛾もビッシリだ。そんな中で一軒の屋敷に明かりが付いていた。そこは何度も遊びに行った元許嫁の家だ。俺は覚悟を決めて玄関前に車を横付けした。


「お、おい、どこの者だ、こんな時間に、しかもこんな時に何を……えっ?」


「悪いな未造さん、俺の車じゃ置き場所無いだろ?」


 車の運転席の窓サイド・ウィンドウを開けて顔を出すと相手は見知った人間だった。


「ああ、ああああ!? 鋼志郎坊ちゃん!!」


「久しぶり元気だった?」


 小さい頃、大介おじさんの次くらい遊んでもらった遠野家の家人の未造さんだ。自警団では大介さんの腹心の部下だった。


「お久しぶりでございます、お、お嬢様ああああああ!!」


 車の誘導してもらいたかったのに……そう思って車から降りたら視界の端を何かが通り過ぎた。気になって目で負うと、そこに居たのは制服姿の少女だった。


「え? あっ……お前、は?」


「この車、大きいね……おじさんの?」


 そして振り返った顔を見て俺は今日一の驚きで固まった。制服は下の町の高校のものだ。俺も卒業生だから知っている。だが問題はそこじゃない。


「さゆ……お前……どうして?」


「あっ、もしかして……こうちゃんさん?」


 不思議そうに俺を見つめる顔は、あの日に別れた幼馴染だ。懐かしさと様々な感情が織り交ざるが一番最初に出たのは疑問だった。


「皐雪、なのか?」


 俺の口から出た疑問に対し皐雪は一瞬だけ俺を見た後に何か納得したような顔をすると再び口を開いた。


「あっ、そういうこと……では失礼します」


「待て!! おい!!」


 昔のままの幼馴染に困惑する。そして迷った俺は屋敷に入って行った少女を追いかけ屋敷の玄関をくぐった。あれは皐雪、俺の幼馴染……だと思う。だが同時に有り得ない光景だから俺は呟いた。


「何で、さゆが……昔のままなんだ?」

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