第5話「追放という名の旅立ち」
「ふぅ、まったく、相変わらず体力は孕んでても有るな……じゃあ鈴、後始末を頼む、バレないようにな」
皐雪が寝た事のを確認すると布団をかけ直し俺は布団を出た。そして待機していた鈴に向かって言った。
「はい、その、全てですか?」
後ろの惨状を見て言うが今さらだ。俺だって久しぶりで抑えが効かなかった。それに言い分だって有る。
「あいつを俺の部屋に通した責任くらい果たしてくれ、じゃあな」
「はい、若様ううん、行ってらっしゃいコウくん」
「ああ、鈴姉ちゃん、行ってきます」
家人になる前の近所のお姉さんに俺は別れを告げる。できれば世話になった人の花嫁姿くらい見たかったが仕方ない。
「こう、ちゃん……う~ん……」
「もう起きそうです、行って」
「ああ、じゃあな鈴……本当に、世話になった」
それだけ言って俺は最後に全裸で夢うつつの元許嫁を見て苦笑すると家を出る。もう二度と会えないだろうから、その間抜け面を目に焼き付けた。
◇
「ふぅ、はぁ……あと少し……」
俺は早朝の暗い間に村を出るために走っていた。文字通り自由への脱出だと思いながら全力だった。
「やあ、こうちゃん遅かったな?」
「……大介おじさん? なんで?」
下の町に続く出口に居たのは大介おじさんだった。
「バカ娘はどうだった?」
「お見通しですか」
「最後だからと聞かなくてね……本当にバカ娘だ」
どうやら俺たち二人の行動は揃って筒抜けだったらしい。やはり大介おじさんには敵わない。
「大丈夫です。無理はさせてません」
「はぁ、あのバカ娘が、さて、こうちゃん……これを受け取ってくれ」
お説教かと思ったら渡されたのは封筒だった。受け取った中に入っていたのは札束で六束は入っていた。たぶん一束100万だろう。
「これは……な、なんですか!?」
「何か有った時に使うんだ、万が一の学費分も込みさ」
たしかに出奔したら学費が止まる可能性は考慮していた。だけど向こうの友人やツテも有るから大丈夫だと俺は思っていた。
「そんな、もらえません、何より俺は!!」
「こうちゃん、いや鋼志郎、頼む受け取ってくれ。君を息子と呼びたかった何の力も無い男からのせめてもの餞別だ……頼む」
「大介おじ、いえ、父さん……」
頭を下げられ受け取らなかったら土下座しそうな勢いのおじさんを前に俺は封筒を返すタイミングも意味も見失ってしまった。何より一番世話になった人の願いを叶えたいと思った。
「ありがとう鋼志郎、お前は他人に優し過ぎる……もう少し自分に優しく他人に厳しく生きなさい、体には気を付けるんだぞ」
「はい!! 父さん!!」
そして俺は村から追放された。いや俺の本当の生き方を探すために脱出した。だからこれは追放なんかじゃない……旅立ちだ。
◇
――――二年後
「なんだと鋼志郎と連絡が付かないだと!?」
「はい、既に一ヶ月は音沙汰が……」
「まったく、どうなっておるのじゃ鋼一!!」
「すぐに使いを出します松様!!」
俺が行方知れずだと判明した時の実家の反応がこれだったらしい。それに岩古家も俺に村で何かさせるつもりだったようで上へ下への大騒ぎだったみたいだ。だが実は裏で俺は鉄雄と大介おじさんと密かに連絡を取っていた。
『って感じでよ、あと皐雪はお前が戻らないって聞いて泣いてたぞ? 何考えてんだか知らんが、どうせ頼ろうとしてたんだろ、ざまあみろ』
「そういう話を嬉々として伝えるな、ったく……こっちの方が複雑だ」
一応は幼馴染なんだから気にかけてやれと言うが鉄雄は絶対に許さねえと大笑いしていた。そういえば鉄雄と皐雪って仲悪かったな幼馴染なのに……。
「それより生まれた子は大丈夫なのか?」
『お前、自分を裏切った相手の子供まで心配すんな、アホか!!』
その通りだが気になってしまった。仕方ない俺は今でも
「……子供に罪は無い、そうだろ?」
『あのよぉ、お前はもう少しさ……ったく!!』
「ま、それでも……アイツを頼むぞ!!」
そう、例え俺の事が有っても俺はもう村の外の人間。故郷の人間同士がギクシャクする原因が俺だなんて嫌だった。せめて平穏に過ごして欲しかった。
『そうかよ、だけど……そんなお前だから今でも人望が残ってる。旅が終わったら少し会わないか村の外で』
「ああ、鋼鉄コンビは今も健在だ!! じゃあな!!」
そして俺は電話を切ると最初の目的地へ向かう。今の俺は大きい世界を知りたいと日本を出て世界を巡ってる旅の最中だった。
「次はフランスか、行こうか!!」
恩人で父と呼んで欲しいと言ってくれた人から渡された金と大学時代のコネだけが今の俺の武器で財産だ。こうして俺は自由への一歩を踏み出した。それから時は流れ14年後に俺の止まっていた物語は再び動き出す。
第一章「裏切りの故郷」編 (完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます