第4話「醜い権力争い」


「ああ、だから今回の騒動の真の目的は岩古の支配力を弱めないためだ」


「正気か? 俺の親は納得していたが大介おじさんとお前の親父さんは反対してたし、二家の当主を敵に回す意味が有るのか?」


 岩古村は歴史が長いだけで古臭い時代に取り残された村だ。また外の世界から放置され自治も半自由で意味も無い因習にまみれている。最低限、国に属しているという程度の集落だ。


「最近は三家が従順じゃないから釘を刺したかったようだと親父が言ってた」


「でもそんな理由で婚約破棄? 理解できない」


 そして岩古家は支配こそが村のためと信じて疑わない。そのため古くから伝わる因習と占いの力で権力を振るい御神体の岩神様を祭っている。


「俺もだ……だが、どんな理由でも皐雪がバカしたのは事実だろ」


「まあ、あいつバカだから……じゃあ結論から言うと、あの御神体岩の塊とババアのせいで俺は皐雪と別れさせられたんだな?」


 俺が言うと、それだけじゃないと親友は続けた。




「そんで次は俺の母親だ」


「夢さんか……」


「ああ、岩古の本殿に帰りたいんだと、だから俺が活躍してお前の家を追い落とせってさ……ほんと最悪だ」


「こっわ……それマジ?」


 息子にそんなことさせようとしてたのか。昔はお菓子とかくれた良い人だったんだけど変わるもんだな。そら皐雪も孕むか……なんか泣きたくなって来た。


「皐雪の母親の冬美さんも似たり寄ったりだ、お前ん家が今代の岩古の血が一番薄かったけど皐雪がお前と結婚したら遠野の優位性が下がる、そんなとこだろ」


「巫女の血筋か……そんなバカみたいな事で……」


「あとはババアに忠誠心を見せたいんだろうよ、あの人は分家だし」


 つまり俺を使って大人達がアピール合戦してるのか……本当にクソだ。


「そういえば冬美さんって前からそうだった……名前もコンプだったし」


「分家だから名前が二文字ってアレか?」


 実は岩古は直系三家以外に分家が三つ有る。そこから更に別れた分家の分家が俺の山田家や他の二家だ。村の政のために俺達の家に岩古から嫁を入れる因習が古くから存在している。


「ああ、だから、お前の母親とも仲が悪いんだろ?」


「今回はお前を潰すために協力してたけどな」


 直系も分家も俺と言う共通の敵を前に協力した訳だ。俺はそもそも二人を敵とすら思って無かった。親友の母と義母の予定だった人。とにかく現状は良く理解した。


「ありがとな、親友」


「まだ、そう呼んでくれるのか俺を?」


「当然だろ?」


 俺達は握手を交わすと玄関で別れた。その夜は父と言い合いになり翌日には岩古家の総本山、岩古神社へ呼び出しが決まった。




「――――以上じゃ、鋼志郎よ言いたいことは有るか?」


「ございません……」

(いつか潰してやるババア)


「ふむ、殊勝になったのぉ……頭を冷やせば理解すると信じておったぞ」


 翌朝から俺は謝罪から始まり岩古家で聞き取りをされた。今は頭も冷えたし失う物は何も無いから対応も余裕だ。けど腹立つババアだ。


「感謝致します……松さま」


 視界の隅にチラチラ皐雪が映るがアイツも呼び出しを受けていたようだ。しかも目が合うとポンと腹を叩いて笑うからぶん殴りたくなって来た。あれで悪意が欠片も無いなんだからタチが悪い。


「お前の処分じゃが……大学卒業まで村への立ち入り禁止だ」


「つまり二年間の追放なのでしょうか?」


「そうなるのぉ」


 二年間の追放って制限付きなの面白いな。だが二年後には帰れると……でも皐雪が俺以外の男と幸せな所を見るは死んでもごめんだ。決めた、もう帰らない。


「……いつまでに村を出ればよろしいのでしょうか?」


「しばらく帰れんのだ一週間は滞在を許そう」


「重ね重ね、ご温情、痛み入ります」

(さっさと、くたばれバ~カ)


 俺はそのまま早足に出ると後ろから皐雪の声がしたが完全無視だ。昨日の話をもう忘れたかと俺は頭が痛くなってきた。そのまま家に戻ると俺は準備を始めた。


「若様、その……」


「鈴、皆には週明けと言ったが明日の朝一に発つ、戻りは……分からない」


「それは卒業後では?」


「たぶん戻らないと思う……」


「それを旦那様や奥様……それと、皐雪さん……には?」


「言うわけ無いだろ、さゆに昨日言われて気付いた……俺も自由になる」


 あいつは俺との関係よりも恋を選んだ。なら俺だって好きに生きたい。もう村や皐雪のためじゃなく自分のために自由に生きる。


「そんな!? 若様が戻らなかったら村は!?」


「誰かが上手くやる…… それこそ皐雪の旦那とかな? 俺の代わりなんだからな?」


 それだけ言うと俺は明日のために早めに寝る。そして夜中に不意に目を覚ました。




「あ、おはよ、こうちゃん」


「お前ど~やって、その腹で!! ここまで来た、あと服を着ろ服を」


 起きたら隣に下着姿の幼馴染がいた。ドアの外に気配が有るから見ると戸が閉められる直前に鈴が見えた。手引きしたのは鈴みたいで俺は元許嫁を睨んだ。


「何してんだ、アホ!!」


「えっと、夜這い?」


「ばぁ~か!! 妊婦がすんな!!」


 何気にコイツから来るのは初めてだ。今まではコイツの部屋に俺が行く事ばかりだった。


「だって、こうちゃん明日、出てくんでしょ?」


「婆さんが来週までは居てもいいって言ってたろ?」


「でも、こうちゃんは明日行く、違う? それも朝早く」


 お見通しだったようで幼馴染とは厄介だ。心が読まれているみたいだ。


「ああ、そうだよ……誰に聞いた?」


「誰にも聞いてないよ、勘かな」


「それで?」


「最後にもう一度ごめんなさい、したくて……ごめん、なさい」


 泣くぐらいなら浮気すんなって話だ。本当に腹立つ。そう思いながら俺は皐雪を既に心の中で許していた。つくづく甘くて自分が嫌になる。


「もう済んだ事だ、腹の子に悪いだろ?」


「うん……それと、でも……」


「決めたんだろ? なら頑張れ。俺はもう過去だ。だから過去は振り向かないで前だけ見て一直線だ……いいな?」


「それって、こうちゃんの……」


 俺の言葉にコクリと頷くと俺は頭をポンポンと撫でる。小さい頃からこうすると落ち着くと言っていたが今回はダメだったようで仕方なく俺は皐雪を抱き寄せた。

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