第3話「別れ、そして疑惑」
◇
「だよね……」
「座敷牢じゃないのか……」
「母さんにお願いして、こうちゃんの家に運んでもらったよ」
松様いやババアを怒らせたのに俺は監禁されてない。これは驚いたが目の前の裏切者が助けてくれたようだ。
「で? どう言い訳するんだ? その腹は?」
「する気は無いよ……私が、こうちゃんを裏切って先輩と付き合ってデキちゃったって話……その、ごめんなさい」
「はぁ、理由を話せ……」
すまなそうにはしているが分かった。これは百パー復縁は無い。何か事情が有ると思ったが何も無かった。有ったのは浮気したという確定情報で泣きたい気分だ。
「雰囲気と……あと、恋しちゃったから、かな?」
「恋? 俺はずっとお前が……」
「う~ん、でもそれは恋じゃなくて別な何かだと思う。こうちゃんとは義務だったから……だから先輩に恋したんだよ」
許嫁という面が有るからと納得してしまう俺も居た。この二年間は隣に皐雪がいない状況に俺も重荷が無くなって伸び伸びしていたのは事実だ。たしかに互いに19年間縛り合ってたとも言えるだろう。
「その義務で縛られたくなくて、本当の恋を知ったから孕んだのか?」
「あはは、うん……さすが、こうちゃん分かるんだ」
「幼馴染だからな、バカか……ったく、そこまで破棄したかったんだな?」
「うん、こうちゃん……本当にごめんなさい、本当の恋したんだ私」
こいつは空気が読めないしアホだが決めたら突き進む根性だけは有る。だから皐雪の軌道修正は俺の役目だった。つまり俺が隣に居ないからタガが外れ突き進み自分の気持ちに気付いたのだろう。
「ああ、分かった。完全に芽は無いか……だが事前に謝罪の挨拶くらいしろ」
「ごめん……母さんが他の家に後れを取るからって……」
一応は謝罪しようと朝から駅で待っていたらしいが俺の父と大介さんら家の者達に連れ帰られ先ほどまで軟禁状態だったそうだ。
「分かった、さゆ、いや遠野皐雪、婚約破棄の件は受けた……はぁ、俺を捨てたんだ、せいぜい幸せにな?」
「うん、ごめんね、こうちゃん……その、お腹とか触る?」
「死んでもごめんだ、他の男と作ったガキなんて、お前そういうとこ空気読め、昔っからだぞ? じゃあ用件は終わりだな、さっさと出てけ!!」
やはり危なげで心配になる。そしてキレて殴らなかった俺を褒めて欲しい。正直なところ今すぐにでも泣きそうだ。
「そっか、寂しくなるね……村で会って話すのも、ダメ?」
「だから、お前も三家の人間なら今回、問題を起こしてんだから今度は俺と不倫扱いされて村の中で何言われるか分かるだろ、少しは学習しろ!!」
「は~い、うん……最後に、こうちゃんにお説教してもらって決心が付いた!! これで頑張れるよ!!」
その後、俺は皐雪を玄関まで送ってから部屋に戻った。久しぶりに戻った部屋には親友の鉄雄が居た。なぜか涙が止まらなかった。
◇
「おい!! コウ、お前いきなり泣くなよ!!」
「だっでぇ、さゆがぁ……俺ぇ……なんでだよぉ……」
「限界だったか、よく頑張ったよお前は」
俺の部屋に居たのは村長の息子の滝沢鉄雄、俺の親友だ。さっき俺を止めようと口パクしていた奴で熱い抱擁を交わされたが俺は別な事を思った。
「抱き着かれるなら、ざゆが良かったよぉ~」
「慰めてる親友に言うことか……ったく、それなら無理にでも抱けば良かったろ」
「お腹の赤ちゃんがかわいぞおだろおお」
あいつ妊娠してるし体は今が一番大事な時だと言うと鉄雄は呆れていた。
「お前、ほんとに……はぁ、改めてアイツに腹立って来た」
「俺だってぇ、腹は立ちまくってるよぉ……」
「ああ、だが今回、サイアクだぞ?」
「何がだよ~」
俺を引きはがすと奴はベッドに腰かけて隣を指した。そこは皐雪と俺の位置だと思ったが次の鉄雄の言葉で涙が引っ込み冷静になった。
「岩古はお前を恐れてる、正確には山田の家を怖がってるって話だ」
「あ? マジ話かよ」
「ああ、松さま、いや松のババアだけど、お前の提案した村の近代化に猛反対して、お前の親父さんに辞めるよう圧力をかけた」
そもそも俺が何で皐雪や鉄雄らと同じ地元の大学ではなく一人暮らしをしてまで都会の大学へ行ったかというと村のためだ。俺の山田家は渉外と外部との交流つまりは外の技術を取り入れ発展させるのが役割だ。
「そんなことしてもデメリットしかねえぞ?」
そもそも村役場すらない小さな村だ。人口も村の資産も多く無い。だからこそ外部との関係を重要視して俺は都会の大学へ行かされた。そこで村を盛り立てるためのアイディアを父に送り承認されたはずだった。
「それだよ……お前が、いや山田家でネット関係のインフラ整備しようってなったら猛反発だ、んで俺の母親に聞いたら出て来た話がよ……」
鉄雄の母親とは先ほど村長を黙らせた夢さん。つまり、あの松ババアの娘だ。
◇
「出て来た話が?」
「お前が村長になって村のバランスを破壊し岩古村を滅ぼそうと考えてるんだとよ? だから、お前を大学卒業まで追放する気らしい」
「は? 俺を?」
追放って……都会で読んだ小説も有ったが、まさか自分の身に降りかかるとは思わなかった。
「お前と皐雪が結婚すれば山田と遠野の家の結びつきが強くなる。しかも遠野は後継者がいなくて権限が弱くなり均衡が崩れるらしいぜ?」
「得意の占いか?」
俺がバカにして言うと鉄雄もニヤリと笑って答えた。
「違うだろ? そもそもあれは手段で言い訳だ……分かってるだろ?」
「ああ、さすがにな……それに文句も言えない大人たちもな」
つまり岩古家の占いなんて当たらないしデタラメの迷信だ。本来は村の方針を決める論拠にすらならない。だが村の権力者相手に「お前らのやってることは全てデタラメだ!!お見通しだ!!」とドラマみたいには言えないのだ。
「なんか全部が嫌になって来た……」
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