第40話 迷い

「はっはっはっ」

「ふっふっふっ」



 公園に着いた後、俺達は横に並びながらランニングをしていた。少しずつ暑くなってきていたからか走っている内に身体は熱くなっていき、汗も出始めていた。


 チラリと隣を見ると、夕希さんも汗をかいており、首もとにじんわりと汗が浮かぶ様子は色っぽさがあり、俺は二つの意味でドキドキしていた。



「ふっふっふっ……大和君、一度休む?」

「あ……そ、そうですね。少し走りましたし、ちょっと休みましょうか」

「うん、わかった。それじゃあ……あそこの東屋で休もうか」

「はい」



 答えた後に俺達は東屋に向けて歩き始めた。そうして東屋に着いた後、俺達は隣同士で座りながら同時に一息ついた。



「……やっぱり久しぶりにしっかりと運動すると疲れるなあ」

「そうだと思います。だから少しずつ身体を慣らしていって、自分のペースでやっていくのがいいですよ。無理をしてもよくないですし、それで調子を崩してもよくないですから」

「うん、そうだね。なので、その辺の管理はお任せします、大和トレーナー」

「任されました」



 東屋に座りながら俺達は笑い合う。ここ最近、俺は少し朝香や陽海との距離が近くなっていたけれど、やっぱり俺は夕希さんの事を心から好きなんだと改めて自覚した。


 二人だってたしかに魅力的だし、二人との関係だって壊したいわけではない。だけど、二人からの愛も受け止めてその上で夕希さんからも愛されるというのは虫のいい話だし、不誠実ではあると思う。少し二人にも気持ちは傾きかけたけど、夕希さん一人を愛するのがやっぱり正しい道なんだろう。



「ねえ、大和君」



 不意に夕希さんから話しかけられる。考え事をしていたので少し体がびくりとすると、それを見た夕希さんはクスクス笑い始めた。



「もう、そんなにビックリすること? それとも私を放っておいて何か考え事でもしてたのかな?」

「まあ考え事はしてましたけど……夕希さんはどうしたんですか?」

「うん。あのさ、大和君から見て朝香ちゃんと陽海ちゃんはどんな存在?」

「どんな存在……」

「そう。大和君は二人の事をどう見てるの?」



 夕希さんは優しい眼差しを向けてくる。その眼差しに安心感を覚えながら俺は答えた。



「……正直な事を言うと、可愛い女の子達だとは思います。朝香はいつも元気でにこにこ笑ってるような奴で、しっかりと好意を伝えてくるような素直な奴です」

「うんうん、それじゃあ陽海ちゃんは?」

「陽海はいつも落ち着いていて知識も深い頼りになる奴で、朝香ほど積極的にはこないですけど、好意は言葉で伝えてくれるしっかり者です」

「ふふ、大和君にとって二人は魅力的な女の子なんだね」

「それは否定出来ないです。ここ最近も名前で呼び始めた事で距離感は近づいたと思いますから。でも、やっぱり夕希さんを好きな中で二人からの好意まで受けたままでいるというのは不誠実なのかなと思うんです。初めは二人からの想いを受け止めた上で夕希さんを選ぶために二人にはしっかりとそれを伝えるつもりだったのにいつの間にか二人の事も意識し始めてしまって……」

「まあそれも仕方ないよ。異性から好意を向けられたら意識し始めちゃうのもあるあるだから」



 夕希さんはそう言うが、やっぱり今の俺はよくないと思う。こんな状態では夕希さんを好きでいる事だって失礼なのかもしれないと思い始めたほどだった。


 そうして俯きながらどうしたらいいのだろうと思っていたその時だった。



「あれ……皆さんはもしかしてあの時の……」

「え……?」



 声がした方を向くと、そこにはジャージ姿の男女がいた。

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