第39話 想いの近さ

「少しずつ暑くなってきたな……」



 週末、少し気温が高い中を俺は動きやすい格好で歩いていた。目的地は秋田家であり、今日はようやく夕希さんとランニングが出来る日なのだ。



「そういえば、あのランニングウェアで来てくれるんだよな……」



 俺はあの日に買ったランニングウェアを思い出す。似合っているのはその通りだ。けど、やっぱりスタイルがいい夕希さんのランニングウェア姿というのは中々刺激的だし、照れてしまうだろうなというのは容易に想像出来た。


 だけど、俺だって男だ。ただ照れたり見惚れたりするだけじゃなく、何か気の効いた言葉の一つだってかけるべきなんだ。



「とりあえず休憩中に飲むためのドリンクや汗を拭く用のタオルはある。財布に携帯もあるし、一通りは大丈夫だよな」



 ショルダーバッグの中身を確認し、俺は一息つく。友達のお姉さんとランニングをするだけなので、そこまで緊張する事も本当はないんだろう。けれど、やっぱり夕希さんは俺にとって昔から好きな人だ。だからこそこのランニングも普通のランニングとは違って色々考えてしまうし、緊張もしてしまう。これはやはり仕方ない事なんだろう。



「朝香とか陽海の事も更に意識していったら同じようになるのかな……」



 俺はここ数日の出来事を思い出す。天鷲から名前で呼ばれた事をきっかけに俺も天鷲を朝香、白鷹を陽海と呼ぶようになったのだが、名前で呼ぶようになったからかより距離が近づいたように感じ、二人から向けられる好意もより強く感じるようになっていた。


 二人も同様なのか少し照れながらも嬉しそうに呼ぶようになってくれ、その恥じらいや嬉しそうな様子に俺は少しずつドキドキさせられるようにもなっていた。やはりそれだけ二人も魅力的な女の子なのだ。



「はあ……ほんと俺って情けないよな」

「そうかな? しば君はいつでもかっこよくて頼りになると思うよ?」

「え?」



 声がした方を見ると、そこには俺を覗き込むランニングウェア姿の夕希さんがいた。



「ゆ、夕希さん!? あれ、いつの間にか着いてる……!」

「そうだよ。そろそろかなと思って外に出てみたらしば君が何か考えてて、声をかけようとしたら俯きながらため息をついてるもんだからどうしたのかと思ったよ」

「すみません……」

「もしかして、仲のいい女の子の事? たしか朝香ちゃんと陽海ちゃんだったかな?」

「ど、どうしてわかったんですか!?」

「泰希からも話は聞いてたしね。でも、そっかあ……大和君は私と一緒の時でも他の女の子の事を考えちゃうんだあ……」

「ちょ、夕希さん!」



 夕希さんは俺の姿を見てクスクス笑う。



「ふふ、焦っちゃって可愛いなあ」

「もう、夕希さん……」

「ところで、どうかな? 似合ってる?」



 夕希さんはセクシーなポーズを取る。財布や携帯が入ってると思われるポーチを腰につけていて、ペットボトルホルダーもついているようで一本ペットボトルが収まっていた。



「はい、ほんとに似合ってます。とても色っぽいですし、こんなに似合ってる夕希さんを他の男に見せたくないくらいです」

「お、おー……そ、そっかあ」



 夕希さんは照れたように頬をかき始め、俺達はしばらく俯きながら向かい合っていた。すると、ガラガラっという音が上から聞こえてきた。



「おーい、ラブラブカップル~!早くいったらどうだー?」



 泰希がニヤニヤしながらこちらを見ており、俺達は顔を見合わせてから笑いあった。



「行きましょうか」

「うん」



 そして泰希に見送られながら俺達は歩き始めた。

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