第22話 大和の褒め殺し

「うーん、これかな……いや、これもいいなあ」



 昼過ぎ、俺は夕希さんと少し離れたところにあるスポーツショップに来ていた。どうやらランニングウェアを買うというのは本気だったようで、店に来た瞬間にすぐさまランニングウェアやシューズがあるコーナーに向かい、さっきから色々な物を見ながら楽しそうにしていた。



「夕希さんって運動するイメージがあまりなかったですけど、もしかして本当は好きだったりします?」

「んー……そうでもないけど、こうしてしば君が一緒に出掛けてくれるし、ランニングにも付き合えたらもっと色々なしば君が見られるからね。それに……」

「それに?」

「見たいんでしょ? 私のランニングウェア姿」

「なっ……!」



 俺の頭の中に再びランニングウェアを着ている夕希さんの姿が浮かんだ。さっきのバテバテで汗まみれの夕希さんと違って、黒いタンクトップ型の上にカーキの下を着て、そして少しセクシーなポーズを取り始める想像の中の夕希さんの姿に俺は自分の中の興奮を抑えるので精いっぱいになってしまった。



「あれ……また想像しちゃった? それも午前よりも具体的に」

「そ、それは……」



 ドキマギする中、夕希さんはクスクス笑い、俺の耳に口を近づけてきた。



「しば君のエッチ」

「うっ……」



 吐息混じりのその一言で俺は体をビクリと震わせてしまった。その姿を見ると、夕希さんはまたクスクス笑った。



「やっぱりしば君は可愛いなあ。あ、これ可愛いし試着しよ。しば君、待っててね」

「は、はい……」



 夕希さんは俺が想像していたタンクトップ型の黒、カーキの下を持って試着室へ向かった。そしてカーテンが閉まった試着室から夕希さんの機嫌良さそうな鼻唄が聞こえる中、近くにいた女性の店員さんがふふふと笑いながら近づいてきた。



「もしかして彼女さん? 少し歳の差はあるように見えるけど」

「……違います、まだ」

「まだ、ね。でも、良いなあ……こんなにカッコいい子に好かれてる彼女もしっかりと愛せるあなたも」

「店員さんだってお綺麗じゃないですか。俺と歳が近そうに見えますし」

「ありがと。でも、好きな人がいるならその人を一番に褒めてあげるのが男の子よ。たぶんだけど、彼女は少し独占欲高そうだから余計ね」

「わかりました。アドバイス、ありがとうございます」

「どういたしまして」



 店員さんがウインクをしていたその時、試着室のカーテンが開き、俺が想像していた通りの夕希さんが現れた。



「わ……」

「ふふっ、どう? まだまだ二十代の子にも負けないでしょ?」

「負けないどころか……本当に綺麗で最高だと思います。腕や足もツヤもハリもあって目を奪われてしまいますし、眩しさすら感じます」

「お、良いねえ」

「健康的なエロさというのか……見ていて思わず唾を飲んでしまいますし、こんな人がそばにいるだけで自慢出来ちゃいます」

「そ、そっか……」

「それと──」



 その瞬間、店員さんの手が俺の肩に置かれた。 



「はい、ストップ。少年、褒めろとは言ったけど、そこまでやれとは言ってないよ?」

「え?」



 見ると、夕希さんは顔を赤くしながらモジモジしており、その姿は可愛さとエロさが混じった物だったが、おそらくやりすぎたのだろうとハッキリわかるものでもあった。



「あー……」

「少年。君は中々末恐ろしいね」

「あはは……夕希さん、それでいいですか?」

「え? あ、うん……着てみてやっぱりこれが気に入った、かな……」

「それじゃあそれで。店員さん、お会計をお願いします」

「はい」



 店員さんが答える中、夕希さんは驚いた様子を見せた。



「えっ、いいよ。流石に自分で払うから」

「いいんです、ここは俺に出させてください」

「しば君……うん、わかった。それじゃあ今回は払ってもらっちゃおうかな。ありがとう、しば君」

「どういたしまして」



 そして着替えと会計を終え、夕希さんが袋に入ったランニングウェアを嬉しそうに見ていると、店員さんがこそっと話しかけてきた。



「頑張って、カッコいい少年君」

「……ありがとうございます」



 店員さんにお礼を言った後、俺と夕希さんは並んで店を出た。

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