第21話 変化と不変

『いただきます』



 昼頃、俺達は馴染みのファミレスに来ていた。公園内を一時間くらいかけて歩いただけではあったけれど、それだけでもやっぱり腹は減るようで、ファミレスに着いた時にはしっかりと空腹になっていた。


 だから、俺はミックスグリルにライスやサラダをつけるみたいな比較的ガッツリしたメニューにしたけれど、夕希さんはトマトソースのパスタのようなあっさり目のメニューを選んだ。そしてゆっくりと食べていると、ふと視線を感じて顔を上げた。視線の先では夕希さんが頬杖をつきながら優しい目で俺を見ていた。



「どうしたんですか?」

「ううん、やっぱりしば君は変わらないなあって。ほら、泰希も一緒に連れてご飯を食べにいった時もあったでしょ? その時もしば君はそういうミックスグリルとかを選んでたし、好みっていうのは変わらないなあってね」

「つ、つい選んじゃうんですよね……」

「でも、いいんじゃないかな? さっき歩いてきた公園みたいに変わったものもあれば変わらないものもあるから。しば君だって好みは変わらないようだけど色々成長して変わったものはある。体格とか体力とか」

「夕希さんはどうですか?」

「私? 私かあ……」



 夕希さんは指先を自分の顎に当てた。その仕草は可愛らしかったけれど、どこかセクシーにも見えてドキドキしてしまった。そうして考え続けていたが、やがて夕希さんはクスリと笑ってからミックスグリルの中のポテトを一つ摘まんでそのまま口に運んだ。



「私も変わらないかも。こんな風にちょっともらっちゃうところも」

「たしかに小さい頃に連れてきてもらった時もこんな風にポテトを摘まんでましたね。熱くないところを器用に見つけて」

「そういうの得意なんだよね」



 夕希さんはクスリと笑ってからポテトの油がついた指をペロリと舐め、その仕草にも思わずドキリとしてしまう。こういうところが思春期の困ったところだ。好きな人の事を意識しすぎるあまり、その所作の一つ一つが色っぽく見えたり何かを連想してしまったりする。何とは言わないが。


 そしてそれが少し悔しかったので、俺はフォークでハンバーグを一口サイズに切ると、ふうふうとして冷ましてからそれを夕希さんに近づけた。



「夕希さん、あーん」

「えっ……あ、あはは……いきなりのあーんはなんだか照れるなあ」

「こっちがドキドキさせられっぱなしなのは癪なので。はい、あーん」

「あ、あーん……」



 夕希さんは照れ臭そうにハンバーグを食べると、それをゆっくりと咀嚼した。そして飲み込むと、嬉しそうな笑顔を浮かべた。



「なんだかいつも食べるよりも美味しく感じたかも」

「あれ……思ったよりもドキドキしてないですか?」

「ふふん、私の方がしば君よりも大人だからね。少し照れはしてもこのくらいなら慣れっこなんだよ」

「そ、そうですか……」



 もう少しドキドキしてくれると思っていたので俺は残念に感じた。少し夕希さんの顔が赤く見えるが、窓際に座っているから日が差してそう見えるだけなのだろう。



「やっぱり俺じゃまだまだか……」



 けれど、少しは照れさせられたのだ。それだけでも進歩だ。そう考える事にし、俺はまだ顔が少し赤い夕希さんと楽しく話す事に意識を向け、その後は話をしながら昼食を続けた。

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