第11話
その最初の見開き、生徒たちが並んでいる「はず」の頁で、もう理人は息を呑んでしまった。
殆どの写真が、黒のサインペンで、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされているのだ。
残っているのは、一枚の写真だけだった。デルフィヌスが、自分の写真だけ綺麗な状態にしてあるのかと思ったが、今のメイクの分を差し引いてどう見積もっても、この写真はデルフィヌスではない。
陽希も、「どうしちゃったんだろう、これ」、と声を震わせた。
その時だ。ドアが激しく叩かれる音がして、理人も陽希も振り返る。激しいノックと思いきや、すぐドアが破壊された。
壊れたドアの向こうに、陽希より明るめの金髪に、黒いピアスを両耳に一つずつ着けた青年が、鬼のような形相で立っている。その青年の手には、バールが握られていた。
「だ……っ、誰、え?」
陽希が声を引っ繰り返しつつ、体は素早く異常事態を察知し、理人の前に立ってくれる。理人はフリーズ状態になっていた。頭は動いているのに、こういう事態に直面した途端、いつも体が動かなくなってしまうのは、本当に悔しい。
「デルフィヌスは何処だ」
その言葉を聞いた時、理人は、この意味不明だった事態の殆どを理解した。目の前にいる青年は、「殺人犯のみを狙った連続殺人鬼」。今、理人たち「探偵社アネモネ」が追っている、その人。そして、彼はデルフィヌスの命を狙っている。あのアルネブが出した写真は、この連続殺人鬼がデルフィヌスをつけているシーンを切り取ったものだったのだろう、と。
彼が、理人と陽希をすぐに始末する気がないようだったので、理人もやっと半歩前に出ることが出来た。
「もう、誰も殺さないでください。貴方に人を殺して欲しくないんです」
「お前は誰なんだよ。関係ないだろ。それともお前も人殺しか?」
青年の全身から、怨嗟が黒い炎となって見えるようだった。理人は首を左右に振る。陽希が、変わらず二人の間に立ってくれているから、倒れずにいられた。陽希の横顔を見る。身を切られるように悲しそうだった。
「俺の家族は、悪党に殺されたんだ。親父と、おふくろと、妹と俺、いたって普通の、幸せな家族だったのに。悪党さえいなければ、依頼する人だって諦めて、皆で折り合いをつけて生きていこうと考えたかもしれない。俺だけじゃない。悪党たちに人生を狂わされた人は少なくない。全部、全部悪党たちのせいなんだ。俺たちは大事なものを殺されてるのに、どうして殺しちゃいけない。どうして分かってくれないんだよ」
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