第12話
青年は左目から涙を落とし、悲痛な叫び声を上げる。
「デルフィヌス。この辺りで有名な犯罪者だって聞いたよ。それからずっと追ってたんだ。何度も逃げられたが、今日こそデルフィヌスを見つけてやる!」
青年が、そう喚き声を出す。だが、「やる」の「る」、その「R」までが発音されたあたりで、急にぴたりと、動きと呼吸を止めた。理人と陽希も呆然と立ち尽くす。
青年の後頭部に、デルフィヌスが立っていた。
本当に、何の音も表情もなく、そこに立っている。そして、その手には銃。銃口はぴったりと青年の後頭部に当てられている。
青年が、ゆっくりと眼球だけ後ろに振り返った。
「……デルフィヌスか」
デルフィヌスが、引き金に指を掛ける音が、理人にも聞こえた。
「待……待てよ! 待ってくれ!」
そのまま銃が火を噴くかと思い、理人は目を閉じたが、青年の言葉に、デルフィヌスは指を止めたようだ。相変わらず表情どころか、瞬きすらしていないが。
青年の唇がみるみる青くなって、閊えながら声を絞り出す。
「デルフィヌス。俺は、自分がただの鬼畜にならないように、ちゃんと標的について調べている。お前の過去も調べたんだよ。学芸会なんて些細なことで、お前の同級生はいじめられて、自殺した。そのきっかけがデルフィヌス、お前のせいってことにされた。だが、俺はね、デルフィヌスはちっとも悪くなんてなかったって思う。そう! 一番悪いのは虐めたやつらだ。お前は、一番大切なものを失って、更にその責任をなすりつけられてる。この部屋だって、その時自殺しちゃった友達の部屋に、ちょっと似ているじゃないか。弔いなんだろ? そんな辛い過去があったから、こんな最低の職に就いちゃったんだろ?」
デルフィヌスは、未だ眉の一つも動かさない。銃口はずっと青年の後頭部にある。
「俺は一度だってデルフィヌスを絶対に殺そうと思ってない。今日も探していたのは、デルフィヌス、お前を見つけて対話しようと思ったからじゃないか。俺は、デルフィヌスの気持ちが分かるよ。苦しいよな。俺も家族の中で俺だけが生き残って、俺が犯人なんじゃないかとか、色々疑われて、親戚は関わり合いになりたくないって俺を捨てた。俺たち分かり合えるんじゃないか」
青年の必死の訴えに、理人はじっと聞き入ってしまった。
その演説が終わると、遂にデルフィヌスの唇が、驚くほどゆっくりと開く。そして、喉が上下し、声が、出た。
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