呪いの友だち追加
中室咲太郎
プロローグ
私は、コタツに入りゴロゴロしながらパソコンをカタカタと課題の作品を進めていた。
大学で小説を専攻しているのなんか、自分の通う学校くらいだろうと優越感に口角を上げ「ニヤニヤ顔」が暗くなった画面に写り、ブスな顔に嫌気がさした瞬間スマホから「ピコンッ!」とスマホの通知音が聞こえた。
私は、パソコンをソファーへ軽く投げ置くと、慌てて座り直しテーブルの上のスマホを手に取る。そして、すぐにロック画面の1番上の通知を見た。
推しているグループのメンバー1人がインスタライブを開始したというお知らせだ。
ロックを解除し、通知画面からインスタグラムのアプリを開き自動で彼のライブ画面に切り替わる。コメント欄に「リナ丸さんが視聴し始めた」がものすごい勢いで流れていく。
まだ始まって5分くらいしか経ってないのに、もう10万人も視聴している。皆、暇かよと思いながらも、その中に自分もいることはしっかりと認識しているのだ。
私は、画面の中の彼にほくそ笑みながら、コメント欄に「こんばんは!」と打ち込み送った。
彼は、座椅子の上にあぐらをかき、ニコッと笑いながら優しい口調で「皆こんばんは!」と言うと、左手で小さく画面の向こうから我々に手を振っている。画面の向こうの我々は、届かなくても無意識に手を振りかえし、コメントに「可愛い」が何個も流れていく。
私は、ものすごい勢いで流れていくコメントをぼんやり追いながら、彼のことを優しく眺めた。
彼は、いつものようにワイングラスにビールを注ぐと、持っていたスマホをテーブルの上に伏せて置く。そして、ワイングラスをそっと持つとニコッと笑いながら「皆も、飲み物を持って」と合図をしてきた。
私は、麦茶が飲みかけで汗のかいたコップを水滴などお構い無しに軽く握る。
春先でまだまだ寒いと言うのに、麦茶に氷を入れたことで、暖房の効いた部屋ではコップに水滴が付いた。
私は、右手にスマホ、左手にコップを持ち、多分乾杯するだけだろうと予想を立てながら、彼の様子を見る。1分くらいは経っただろうか……「うん?!」何も起きない。多分だけど、カメラ用のスマホでコメント読んでる。
彼は、コメントに返事をしながら楽しそうに話しているようだ。
ボケていたコメント欄が鮮明に見えてきたその時「飲み物持たせて何?」というコメントが流れた。それに彼はふと我に返ったようで「ごめんごめん」と可愛い笑顔で謝る。
「それじゃあ、始めよう。皆も飲み物持って……」
彼は、泡の無くなったビールをニコニコしながら見ると、画面に向かって「カンパーイ」と言いながらワイングラスを「カンッ」とスマホに軽く当てたあと、グビっと一口飲んだ。そして、テーブルの上のスマホを手に取るとまたコメントを読み始める。
私もコップを持った手を軽く上にあげて、小さな声で「乾杯……」と言いながらお茶を一口飲んんだ。
コメントには、ジョッキにビールの入った絵文字が何個も流れていくのが、視界の端にぼんやりと見えても、それだけははっきりわかった。それは、彼も同じようで、視界に入るたびに乾杯の動きをしてくれる。多分、彼はファンのコメント全に答えたいようだ。ただ、全てのコメントに答えられるわけがない。無理せずに読める分だけで十分ファンは楽しめるのだ。
私は、リアルタイムに動く彼に、可愛さが込み上げ「ニコッ」と微笑みながら、心の中でキュンキュンでいっぱいだった。ただ、急にインライをして、どうしたのか……少し、気になる。まっ、可愛い姿が見れるから嬉しいんだけどね。
彼は、前髪をかき上げると一口ビールを飲み「美味しい」とこちらに向かってにっこり笑顔で、ワイングラスをこちらに見せてきた。そして、テーブルにワイングラスをそっと置くと、下を向いてスマホの画面を見る。画面をみながら、時折コメントを読み返事をしてくれた。
彼が、2本目の缶ビールを開け、ワイングラスに注いでいる。ほんのり赤い顔が、髪の毛をサラッとかき分ける度に見え隠れし、普段の様子が垣間見れるのがファンには堪らないのだ。そんなファンの中に、私も含まれている。
ふと、彼が画面に顔を近づけ「酒で顔赤くない……恥ずかしっ」と苦笑しながら座椅子に深く座り直した。その行動に、私含めた視聴者さんのほとんどが、可愛いと思ったであろう。これは、インスタライブをしていなければ見られなかった、彼のレアな一面である。
男性とは思えない中世的な顔が、彼のプライベートな行動をより可愛く見せているか……さすが、アイドルだ。そう、私は思った。
インスタライブが始まって50分を過ぎたあたりで、突如画面中央に『都市伝説検証します!』のテロップが表示された。
何が始まるのかと、コメントがざわついているのが、ぼんやりとしか見えてなくてもわかる。それに、今まで彼が配信中に企画をやることがなかったので、どうしたのか……酔っ払っているに違いない。
私は、コメントに「酔っ払ってますか?」と打ち込み送信してみる。たまたま、彼がコメントを見ている時に送信したようで、甘い声で「酔っ払って、ないよ……」と返事が返ってきた。多分、私のコメントに対しての返事だよねと、ものすごい勢いで流れていく中から、自分のを彼が読んだということが嬉しかった。
配信を見ている誰しもが、シラフで謎の企画をやろうとしていることに驚いていることであろう。そんな中、私だけがワクワクしてるのは、素で変なことをするのが彼だからである。ただ、彼が都市伝説に興味があったなんて、知らなかった。時々、心ノ介くんが本当かのように喋るくらいだ。これは、メンバーにやらされたに違いない。嫌がらずにやるところ、仲がいい。
皆「都市伝説何やるの?」コメントで聞いているが、彼はニヤニヤと笑いながら「もうそろそろ教えるね」と一言。彼は、とっても楽しそうだ。
私は、都市伝説系が苦手なので、見るのをはばかられるが彼の姿を余すところなく脳に収めておきたいので、少し勇気をだして見ることにした。ただ、薄目でぼんやりと……。
彼がLINE画面に何かを打ち込み始めた。
『FutureReincarnation』
彼が友だち追加画面をこちらに向けて、英語で打ち込まれた文章を検索した。
1件だけがヒットした。そのアイコンは、亀の背中にスマホが乗っている画像だ。名前は「もしもしぼく浦島太郎」となっている。
見ている誰しもが、何も起きないやつだと思っているに違いない。多分、私だけがBOTチャットだと思っている。何も起きない訳じゃないと思う。
私は、少し怖いと思った。変なサイトへ誘導されて情報抜き取られるとか……アイドルだから絶対にやめて欲しいものだ。
呪いの友だち追加 中室咲太郎 @Saku_105U
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