愛は皆独り善がりなのに

なぜいつも相手に綻びを見つけようとするの?


かさついた肌に申し訳程度についた爪先に

彼女のルージュとお揃いの赤が塗られる


みっしり生えた睫毛を鬱陶しそうに瞬かせ

返事のしない私を睨み付ける


口を挟まないでと言ったじゃない


鼻を鳴らして遊びに戻る


赤にパールやラメが散りばめられる

彼女が玄関を出たらとける魔法


見慣れぬきらめきを西日にすかす


まだ終わってないんだけど


黙って両手を差し出す


あぶった針に赤い糸が通される


一針ずつ私の瞳を覗き込んで満足そうにする


赤い糸って痛いね


そうだよ、だから忘れないの

憶えててね 最後まで


いいよ




だから私

あなたの縫い目の通りにタトゥーをいれたの


二度と消せない赤い糸を西日にすかす


爪先に魔法はかからなくなっても

あなたのくれた痛みを常に憶えてる


無意味に脱力して

毛羽だった畳に頬擦りする


隙間にパール


あなたがいた証拠はこれで四つ目


糸屑とパールとタトゥー


これから消えていく香水の甘さ


全部憶えてるのに

忘れないでよ





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