魚を捌くから料理してくれない?


何年も連絡をとっていなかった幼馴染みから

メッセージが届く


何?

何で

もらった

いつ

今日


主語だの述語だの空いた年月だのとっぱらって

一句ずつ会話が進む


どこ

今着いた

…おかあか?

うん、おばちゃんにきいた

まあいいや上がって


オートロックを解錠して

さて何を作るかねと冷蔵庫に相談する


玄関のチャイムがなる


おじゃましまーす

うわ、でか

ね。

一人じゃ食べきれんわ

でしょ


抱え込んだ発泡スチロールからヒレが覗く


さばくっつったってなあ

半分は刺身にしよう

うん

もう半分は焼く

塩?

でもご飯もしたい全部食べたい


全部、とねだる幼馴染みのハイテンションに

覚えのある違和感を見つける


わかったわかった、全部ね

やったあ、持つべきものはあんただね


嬉しそうに悲しんでいるね、また

今度は誰に泣かされたんだろうか


狭いテーブルいっぱいに料理を並べて

いただきますをする


両の目いっぱいに涙をためて

美味しい美味しいと食べている


子供の頃に一度、それから学生のときに二度

こうして彼女を眺めたことがある


どうしようもなくて、どうにもならなくて

彼女は泣きながら私の料理を食べる


世界はずっと彼女に厳しい


お腹いっぱいになったところで

満足げにありがとうという


一緒に食べて、一緒に片付けて

一緒に休憩する


マグカップの温もりを両手に受け止めて

彼女は少し大丈夫になる


持つべきものはあんただね、と再び言う


あたしとだけいたらいいのに

嫌だよ

何で

あんたはそこにいてくれなきゃ困るの

何で

私があんたに会いに来なきゃいけないの

何だそれ

何ででも


ならずっと待っとくよ、と釘を刺す

いつでもここにいるんだから

ちゃんと会いに来なさい


わかったわかった


へらりと笑顔をくれる彼女の力に

私はなれない


出来るのはご飯を食べることと

変わらず迎えることだけ


子供の時からずっと

私たちは知っている


かえられないこと

かわれないこと


また来るね、と彼女が言うから

絶対だよ、と子供みたいに返事する


無言で抱き締めあって

何度目かのさよならをする


見送って、一人玄関に座り込む


死ぬこと以外に絶対はないよ、

と彼女が言ったことを思い出す


それでも、それでも絶対だよ

絶対だからね


両目から溢れそうになるのをぐっとこらえる


泣かない


絶対って言ったんだから




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