カウンター


死肉を食べて死んだように生きていると

目の前の客がこぼす


確かになと心の中で相槌を打つ


この街で売られている肉も魚も鮮度が低く

ともすれば地元で腐っていると判断されるような

代物である


田舎から出てきた身としては

大いに共感できる話である


ベースをスープで割って

そっと麺をくぐらせる


具材をのせて

カウンターに並べる


ありがとうございます


この客達だけが器を受けとる時必ずお礼を言う

ありがたいなあと思うし


れんげにすくったスープに口をつけ

少しほっとしたようになるのをみると

この仕事を選んで良かったなと思う


自分はただのラーメン屋で

出来ることといえば

いつも変わらない味を提供することくらいだから


せめてものお礼と応援を

一杯にこめてカウンターに器を並べる


ぽつぽつと語り合う二人の客に

いつかの自分を重ねる


この歳になってもまだ

街の人間になったとは感じられないのだ


二人にとってはいかほどだろうか


世界は思うよりずっと広いが

世間は酷く狭い


街角に立ち尽くす若者たちに

道を示してやれる人生ではないけれど


どうか、どうか、

幸福を

せめて一息つける安らぎをと願っている


ありがとうございます

ごちそうさまでした

おいしかったです


毎度そう言ってくれる二人の

幸せを願っている


カウンターの向こう

家族でも親戚でもない見知らぬ二人のため


今日もまた

感謝と応援の一杯を作る




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