マリナの逆襲4

 さらにしばらく歩くと部屋が現れた。中から何者かが現れる。


「おい、スローズ。騒がしいぞ。まだ任務中なんだから宴会は控えろとあれほど…」


 中から現れた一際大きいゴブリンは呆れたような声を出すも、目の前にまったく知らない人物が2人も現れてキョトンとした。


「え?誰?」

「あなたこそ誰ですか?」


 質問を質問で返すマリナ。


「俺はクールフだ」

「私はマリナです」

「俺はルドルフだ」


 しばらくの間、3人は沈黙する。


 目と目が合う…。


「まさか遺跡の前を守備していた部下を突破したのか!?」

「お酒飲んでましたよ?」

「あの馬鹿ども!だから任務中は酒飲むなと!」


 クールフは地団駄を踏んでキレていた。


「とりあえずアリシアさんを返してもらえませんか?」

「アリシア?ああ、あの娘か。返せと言われてすぐ返すと?」


 クールフはニヤリとほくそ笑む。


 そんなクールフに向けてマリナはロッドの先端を向けた。


「いいのか?ここは狭い遺跡の廊下。魔法を使えば遺跡は崩れておまえもおまえの友達も瓦礫の下に埋もれるぞ」

「それもそうですね…」


 マリナはロッドを下ろした。


「ここは俺に任せろ。マリナは隙を見て部屋に入れ」


 そう言ってルドルフは剣を構える。しかし突然カランと地面に何かが落ちる音がして、思わずその音のした方を見た。見ればロッドが落ちていた。どうやらマリナが手放したらしい。


 マリナはルドルフのことを放っておいて、ズンズンとクールフに近寄った。


「え?ちょっ、待っ」

「フンッ!」


 マリナはクールフのお腹目掛けてアッパーパンチをキメようとした。


「うおおおおおお!?何この子、強っ!?」


 咄嗟にお腹を防御したクールフだったが殴られた衝撃で軽く体が浮かんだ。


「とりゃあっ!」

「ヒィッ!?」


 マリナは今度は顔面目掛けて拳を投げ込む。クールフは咄嗟に顔を防御したが軽く後ろに飛ばされた。


「え?君魔術師だよね!?なんでそんなに強いの!?」

「元々は拳闘士志望でしたから!」


 マリナがフンッと鼻息を鳴らした。


 孤児院を飛び出して一攫千金を狙おうとしたマリナ。当時魔法の勉強をする機会などなく、剣を買う金もなかった彼女は村の外にいたチビスライムを殴って経験値を上げていたのである!


 途中で捨てられた剣を拾って戦士志望に転向し、エメラルドと出会って魔術を学んで魔術師になったが、今でも拳闘士の訓練は欠かさずやっている。


 クールフに向けてどんどん拳を繰り出すマリナを見てルドルフは「コイツこんなに強かったの?」と剣を構えたままポカンとした。


 クールフは飛んでくる拳を受け流しながら後退していく。しかし下がりすぎて壁に背中がぶつかった。


「フンッ!」


 ドゴーンッ!


 クールフの真横の壁に穴が空いた!


 石壁にもかかわらず!


「まだやりますか?」


 クールフは察した。この狭い廊下では戦えないと。


 クールフは体をワナワナと震わせ叫んだ。


「こ、こ、こ、これで勝ったと思うなよお!」


 そしてその場から姿を消したのだった。


「んな、三下みたいなセリフを…」

「他愛もない」


 マリナは鼻息を鳴らして部屋の中に入る。


「アリシアさん!無事!?」


 部屋に入るとアリシアは布団の上でスヤスヤと寝ていた。


「無事みたいだな」

「はい…」


 ひとまず無事そうで安心したマリナ。寝ているアリシアを起こさないようにとお姫様抱っこして部屋を後にした。


「やっぱ俺いらなくね?」


 なんとなく釈然としなかったルドルフもまたマリナたちの後を追いかけた。

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