狂い始める歯車

 学園都市オルファンドから東へ数キロ離れた場所。そこには人類がついうっかりその存在を忘れてしまった遺跡が存在している。


 そこにゴブリンマジシャン・クールフがオルファンドへの偵察について色々と計画を練っているところだった。


 そう。


 彼はのである。


 だから部下のスローズが人間の女の子をオルファンドからさらったのを知った時にはそれはもう顔を真っ青にさせたのであった!


「偵察だけしておけと言っただろ!」

「はい!偵察して、魔道具が反応した人物がこの娘だったので質問してみたところ、エルゼコビナ魔法学園の生徒だと分かったので連れてきました!」

「偵察だけしておけって言うのは、偵察以外はするなと言う意味だバカタレ!」


 クールフは頭を抱えた。長期間の偵察を予定して計画を練っていたのに、ここにきて誘拐と来た。計画が立てられる前に完全にポシャったのである。


 確かにスローズが言う通り連れてきた少女は光属性の人物であると魔道具が示しているので、高い確率で光の使い手であると言える。


 だが、このタイミングで誘拐してしまうと、当然ながら学園や街が総出で捜索をするに決まっているわけで、自分たちの潜入がモロにバレてしまうのである。聞けば、この少女の隣には別の少女もいたらしく、その別の少女を無力化して連れてきたとのこと。


「ちなみに目撃者は消したのか?」

「いえ。命奪うのは可哀想だと思ったので」

「バカもん!そこはちゃんと消しておけよ!せめて一緒に連れてこいよ!」


 クールフは頭を抱えた。確実に衛兵たちに通報されているであろうから、ゴブリンがやってきたことが向こうにバレてしまうだろう。確実に学園の衛兵対ゴブリンの戦いが勃発する。


 クールフは連れてきた少女を見る。彼女は気を失ってるようで、小さな寝息を立てていた。


「連れてくる最中うるさかったので睡眠魔法をかけておきました!」

「お前は優秀なのか優秀でないのかどっちなんだ…」


 クールフは呆れるしかなかった。とはいえ連れてきてしまったものなら仕方がない。とりあえずこの少女を奥の部屋で寝かせてあげるしかない。


「こうなっては仕方あるまい。いいかおまえら。これから人間どもがこの娘を探しに斥候せっこうを送り込むだろう。わずかな異変も見落とすなよ」


 クールフは見張りを命じると部下のゴブリンたちはキーキーと言いながら返事をした。


「見張り中は酒を飲むなよ」


 それだけ言い残して、クールフは誘拐された少女を抱えて遺跡の奥へと向かった。


 それを見送ったスローズ。


「では、我々は任務の成功を祝って酒盛りといこう!」


 ゴブリンたちはキーキーと盛り上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る