マリナとアリシアのお出かけ!

 ライラン王国の学園都市オルファンドにある王立エルゼコビナ魔法学園。7月の最初の休養日に、その学園に通う生徒アリシア・ラッチェルとその学園の衛兵マリナ・ハリフォンが一緒にお出かけをしていた。


 2人はオルファンドの街に出ると真っ先に洋服店へと入る。今着ている服以外に私服はなにも持ってないというマリナの言葉に驚いたアリシアが、手持ちの服を増やしてもらおうと思ったのだ。マリナは別にこれだけでもいいと思っていたが、それじゃあダメだとアリシアが聞かず、手を引っ張って連れられた。


 洋服店ではマリナを素材にしたファッションショーが始まった。流行りのスカートやワンピース、短パンなどを身につけて、アリシアにお披露目する。アリシアはマリナがお披露目するたびに店員と一緒に「かわいいです!」や「似合ってます!」と言ってばかりで、それ以外の言葉が全然出てこないものだから、お世辞だろうと思っていたが、何度も言われるとこそばゆくなり、目を逸らして顔を若干赤くしていた。


「どれも似合ってましたよ!」


 一通りお披露目を終え、アリシアがマリナに感想を言う。マリナは一言「ありがとう」と答えた。


 あとは購入だが、試した服を全部買うつもりはなかった。1着買うくらいでいいだろうと思っていた。しかし洋服についてあまりピンときていないマリナはどれに絞ればいいか分からずにいた。


「アリシアさんはこの中で一番どれが良かったと思います?」


 分からなかったらアリシアに聞こう。そのノリで彼女に尋ねる。


 アリシアは「そうですね」と一言置いて、しばらく並べられた洋服を見比べた。それから白のワンピースを指差した。


「これなんてどうでしょう?マリナさんの黒髪と対称的で綺麗に見えると思います」


 アリシアの助言に「分かりました」と言ってそれを1着購入した。


 洋服の購入を終えると、今度は雑貨店へと移った。アリシアは真剣な眼差しで品物を一つ一つ見定めながら、チラチラとマリナの顔を見た。マリナはその視線の意味が分からず、キョトンと首を傾げる。しばらくしてアリシアは白い花の髪飾りを取り出した。


「マリナさんの髪にはこれが似合いそうですね」


 アリシアはそう言ってその髪飾りを持って奥のカウンターへと向かった。会計を済ませて、マリナを連れて店の外に出るとすぐに先ほど買った髪飾りの入った包み紙をその場でマリナに手渡す。


「はい!お友達記念日のプレゼントです!」


 マリナは目を白黒させて、渡された包み紙を見た。


「そ、そんな、悪いですよ…」

「気にしないでください!私がやりたくてやっただけですから!」


 マリナは申し訳なさそうな顔をする。アリシアと遊びに行く最中、特に計画とか考えていなかったため、当然アリシアに何かプレゼントすることも考えてなどいなかったのだ。自分は何をお返しすればいいのかと困惑していると、アリシアは「ふふっ」と小さく笑った。


「お返しなんて今は考えなくていいですよ」


 考えを読まれたのかと思い、マリナはギョッとする。


「マリナさんはこう言ったオシャレに無頓着な方なんですよね?だったらまずはそのセンスを磨かないと。お返しはセンスが磨かれてからでどうですか?」

「で、でもそれだといつまで経ってもお返しできないよ…?」


 戸惑いながらそう言うと「別にいいですよ」との言葉が返ってくる。


「私がマリナさんのセンスを磨くのを手伝いますから安心してください!」


 フンッと鼻息を鳴らしてやる気満々に答える。「そこまでしてもらわなくてもいいのに」と困惑するマリナ。そんなマリナにアリシアが答えた。


「初めて会った時のこと覚えてますか?少し強引な男の人たちに囲まれてた私をアリシアさんが助けてくれたんです。アリシアさんにとっては大したことのない人たちだったかもしれませんが、私にとってはどうすればいいか分からなかった相手。そんな人たちから助けてもらって恩を感じないわけがありません。

 マリナさんは私にとってオルファンドで出会った初めての友達であり、同時に恩人なんです。私にできること、是非させてください」


 彼女のそんな眼差しにマリナは何も返せないでいた。呆然と固まったまま動かないでいると、アリシアはマリナの腕をとって引っ張り出す。


「まだまだ時間はありますよ!あっちこっち行きましょう!」


 それからアリシアに先導されるように、マリナはいろんな店に入った。普段、街に出る時は本屋と喫茶店くらいしか行かなかったものだから、洋服屋や下着屋、雑貨屋や魔道具店など、普段まったく寄らない店に寄って色々と新鮮だった。


「マリナさん、魔道具店に寄ったことなかったんですね。魔術師なので、そういう店の常連だと思ってました」

「私の場合、必要な魔道具はだいたい師団から供与されますから新しく買う必要がないんですよね。でも、こだわってみるのもありかもしれませんね…」


 指に嵌められた魔道具店で買ったばかりの指輪を見ながらそう答えた。マリナが今嵌めている指輪は魔法攻撃力を気持ち増加させる効果を持つものだった。


「本格的に買いまくれば私はもっと強くなるかもしれませんね」


 キラリと目が輝いた。


 そんなマリナの様子が、真新しいものに飛びつく子供を想像させるような様子なので、アリシアはクスクスと笑ってしまった。


「陽が傾いてきましたね」


 空を見上げれば夕焼けが目に映った。


「そうですね。帰りましょうか」


 マリナたちは学園へと歩き出した。


「すみません。そこのお嬢さんがた」


 途中でフードを被ったしわがれた声の老人に声をかけられ、2人して振り返る。


「もしかしておふたりはエルゼコビナ魔法学園の生徒さんですかな?」


 マリナとアリシアは顔を見合わせる。


「私はそうです」

「私は衛兵ですね」


 素直にそう答えると「そうですかそうですか」と喜んだように老人が笑った。


「探す手間が省けました」


 すると突然周りに大量のゴブリンが現れた。


「「え?」」


 マリナは虚を突かれ、そのままゴブリンたちに組み伏せられる。


「さあ、来るんだ!」


 フードを被った何者かはアリシアの腕を掴み、そのまま路地裏へと連れて行った。


「いや!やめて!助けて!」

「アリシアさん!アリシアさん!」


 マリナは組み伏せられたままうまく対抗することができず、助けを求めるアリシアの背中をまだ追うことしかできなかった。


 そしてアリシアは路地裏へと姿を消してしまった。

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