マリナとアリシアのこぢんまりとしたお茶会
マルクベニア大陸の北部にあるライラン王国。その学園都市オルファンドにある王立エルゼコビナ魔法学園の敷地にある衛兵たちの詰め所の休憩室で、マリナはマグカップに注がれた紅茶をチビチビと飲んでいた。
そんな彼女の元に1人の少女が訪れる。アリシア・ラッチェル。平民出身のこの学園の1年生の生徒だ。
「マリナさん!遊びに来ましたよ!」
「いらっしゃい、アリシアさん」
アリシアはすごい女の子である。この王国では
マリナはアリシアの手に握られている小さな箱を見つめる。視線に気づいたアリシアは「えへへ」と笑いながら箱を開けた。
「今日はロールケーキを作ったんです」
「わあ!美味しそう!」
マリナはワクワクとした様子でそのロールケーキを見た。それからそそくさと食器棚へとむかい、棚から小皿を取り出す。ついでにケーキナイフとフォークも手に取った。
アリシアはマリナからケーキナイフを受け取って半分に切り分け、1個ずつ小皿に乗せた。その間にマリナはもう1つマグカップを持ち出してまだ温かい紅茶を注いだ。
2人はテーブルを挟んで向かい合うと一緒にロールケーキを食べる。
「う〜ん!美味しい!」
「お口にあったようでよかったです」
アリシアは嬉しそうに言う。
「さすがですね、アリシアさん。専属のパティシエになって欲しい!」
「それは魅力的な提案ですね」
それからロールケーキの感想をマリナがあれこれ言っていた。
しばらくして話が一段落する。するとアリシアがほんの少し表情に
「どうしたの?」
「いえ、その…。最近、ちょっと困りごとがあって…」
聞くところによるとアリシアは最近イジメにあっているようだった。エルゼコビナ魔法学校は貴族の子女が通う学園であり、平民の数は少ない。その中に放り込まれたアリシアは貴族の子女たちから目をつけられてしまったらしい。人気のいない校舎裏で囲まれて暴言を吐かれているとか。
しかしイジメの原因はかなり厄介なところにあった。
「どうもその方々は私が王太子殿下とお話ししているのが気に入られない様子で…」
「あー…」
このアリシアという名前の少女、どういうわけか王太子であるアーノルド・ライランと何かと交流を持っているようだった。そのことについて気に食わない生徒たちがアリシアに目をつけたのだとマリナは察した。
「アリシアさんが悪いとは言わないけど、王太子に近づくのはやめた方がいいですよ?後々いらんトラブルに巻き込まれるかもしれませんし」
マリナの脳裏に浮かぶのはこの学園で毎年恒例の婚約破棄騒動だった。婚約者以外の人物と恋仲に落ちてしまい、婚約者を
「ええ。分かってます。ただ、王太子殿下からお話をかけられてしまうと、お相手しないわけにもいきませんから…」
アリシアのいうところではどうやら近づいてくるのはアーノルドの方らしかった。「王太子に一目惚れされたか?」とマリナは心の中で思った。
「なるべく距離を取ろうとはしていますが、なかなか…」
「声をかけられる時はどんな話をしてるの?」
「普段の生活で何か困ったことはないかとか、勉強で困ってることはないかとか、そう言った話ですね」
それだけだとアリシアの様子を気にかけている風にしか見えないだろう。相手にしないというのは確かに難しそうだった。
「この間ターナ様からも注意を受けてしまいました。あまり殿下と一緒にいないようにと。私は別にそんなつもりはないんですけどね…」
これは非常にまずいのではないかとマリナは心の中で思う。春先に彼女が言った婚約破棄騒動の冗談がまさに起きつつあるのかもしれなかった。
「それなら、堂々とあまり気にかけてくださらなくても大丈夫って言ったら?ハッキリと伝えれば自重するかもしれないし」
アリシアはそれを聞いて「分かりました!」と元気よく答えた。
「結構気が楽になりました!マリナさんとお話しできてよかったです!」
アリシアはニコニコと立ち上がった。
「また遊びに来ますね!」
そして笑顔で手を振って休憩所を後にした。
「ああ、神様。あんなにいい子なんですから婚約破棄騒動の餌食にしないであげてください」
マリナはウルウルと目を潤ませながら祈るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます