新たな物語の予感

 ライラン王国のあるマルクベニア大陸。その北端は魔族領ゼダボネアがある。そこに構える魔王城では魔王と幹部たちが会議をしていた。


「クールフよ。それは確かか?」


 魔王ウォッシュロイドはつい先程あがってきた報告について確認を取る。


「はい。占星術の結果、オルファンドの魔法学園に光の使い手が入学したと出ています」


 その言葉に幹部たち一同は顔をしかめた。


 光の使い手。それは光魔法を使いこなす人間につけられたある種の称号。時に人類と魔族との戦いの中に時々現れ、人類側にくみするもの。


 それがどうやら現れたらしい。


「その者の名は分かるか?」

「残念ながら…」


 ウォッシュロイドは深々とため息を吐く。


 先ほど名前が出てきたエルゼコビナ魔法学園。ライラン王国の学園都市オルファンドにある学園だ。その学園には将来有望な若者たちが集まり、成長し、国政を担ったり、騎士になったりする。しかし魔族たちが注目するのは、エルゼコビナ魔法学園から過去に勇者が4人も排出されていることである。


 今代こんだいの光の使い手がどのような存在になるかはわからないが、将来人類との戦いに現れて勇者として相対することになるかもしれない。


 ウォッシュロイドはしばしの間沈黙し、それからクールフに命じた。


「エルゼコビナに赴き、光の使い手が何者か調べ上げよ」

「御意」


 クールフは頭を下げて、その場を後にした。






 ゴブリンマジシャン・クールフ。ゴブリン族の魔法使いにして魔王軍の幹部。幹部になれるほどの実力があり、人類でも並の魔法使いでは倒すことは叶わない。


 彼が部下のゴブリンたちに招集命令をかけているところで、1匹のオークが近づいてきた。


 オークジェネラル・ゲオリゲル。魔王軍の幹部にしてクールフの友人だ。


「クールフ。大丈夫か?」

「何がだ?」

「いくらおまえが凄腕の魔法使いといえども相手は光の使い手だ。そう簡単にはいくまい。それに誰が使い手かまでは特定できなかったのであろう?見つけ出せるのか?」


 ゲオリゲルの言葉にクールフは「ふっ」と鼻を鳴らす。


「光の使い手ということは光の魔法属性が顕現していると言うことだ。この魔力探知器を使って光属性を示すものが現れれば、それが光の使い手だと予想がつく。あとは誰であるかさえ分かれば、魔王様も対策は立てられるだろう」


 ゲオリゲルは「そうか」と呟いた。


「ならもう何も言うまい。無事に帰ってこい」

「ああ。任務が終わったらこの間手に入れたワインでも飲もう」


 クールフはそのままゲオリゲルの元から立ち去った。


 魔王軍ゴブリン部隊。


 それがオルファンドへと近づいていた。

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