怪人!いなり仮面!
6月の末、1人の人物がライラン王国の学園都市オルファンドにあるエルゼコビナ魔法学園に現れた。
名前はエメラルド・アレイスター。
ライラン王国の若き宮廷魔導師である。
彼は、学園に訪れると早速、マリナを呼び出した。
「先生!」
マリナはエメラルドの姿を見るとパッと顔を明るくさせて抱きつく。
「久しぶりですね、マリナ。大きくなりましたね」
エメラルドはマリナの頭を優しく撫でた。
彼はマリナの魔法の師匠だ。金を稼ぐために冒険者になろうと孤児院を飛び出したマリナは、旅の途中で同じく仕事で旅に出ていたエメラルドと出会い、面倒を見てもらった。彼から一通り魔法を教わりものになったところを確認すると、エメラルドは「彼女の実力ならば」と学園の守衛になる推薦状を書いてくれたのである。
王国軍1.7倍の給料。それを手に入れるきっかけをくれたエメラルドだ。マリナが
「しっかりと任務に励めてますか?」
「はい!ちゃんと給料分の仕事をやってます!」
マリナはない胸をフンッと張って答えた。
「それは良かった。冒険者とかと違ってスリルとかないのでもしかするとあなたにとっては物足りない仕事なんじゃないかって心配だったんです」
「そんなことありませんよ!スリルよりもお給料です!今の仕事に不満なんてありません!」
「ハハッ、そうですか」
身も蓋もないことを臆面もなく言うマリナ。そんな彼女にエメラルドは愉快そうに笑った。
しばらく笑った後、エメラルドはほんの少しだけ真面目な顔になった。
「ところでマリナさん。あの剣については今もちゃんと持ってますか?」
「あの剣…?ああ、私が拾ったあの剣ですね!はい、使わずに保管してますよ!」
冒険者になろうと無一文で旅に出たマリナは、湖のそばで捨てられた剣を見つけて、それを旅のお供にしようとした。当時の体格では結局使いこなすことなどできなかったので、宝の持ち腐れとはなってしまったが、今でもちゃんと丁寧に保管している。
それを聞いたエメラルドは満足そうに頷き「なら良かったです」と言った。
「では、マリナさん。私は学園長にも話があるのでこれで失礼しますね」
エメラルドが立ち去るところをマリナは手を振りながら見送った。
「不審者が出たぞー!」
しかしエメラルドとの再会の余韻に浸ろうとするのも束の間。すぐさま異常を知らせる声がマリナの耳に入ってきた。
マリナは若干不機嫌になりながら守衛所から飛び出した。
マリナは守衛たちが一際集まっているところに向かう。そこにはすでにルドルフが居た。
「大尉。何があったんですか?」
マリナはルドルフに声をかける。しかしルドルフは信じられないものを見たかのように呆然で口を開いた。
「変態がいる…」
マリナは首を傾げ、ルドルフの視線の先を見た。すると彼女もまた信じられないものを見たかのように呆然と口を開いた。
「変態がいる…」
そこには。
海パンだけをはき。
プロレスマスクを被った。
そんな変態が1人立っていた。
「ふはははは!諸君!ごきげんよう!私はいなり仮面!今日はエルゼコビナ魔法学園の学生諸君に私のおいなりさんを見せにきた!」
いなり仮面!
東西南北あらゆる学園に姿を見せては海パンに潜むもっこりを清純な学生に見せようとするど変態である!
道徳的退廃とも言えるその活動に世界中が問題視し、国際指名手配にかけられている男!
それがエルゼコビナ魔法学園に現れた!
いなり仮面は自己紹介を終えると学園に向かって走り出した!
「まずい!絶対に入れるな!」
衛兵たちは慌てて剣を握り、いなり仮面に斬りかかる。しかしいなり仮面はスイスイと
「門を閉じろ!」
校門にいた衛兵が慌てて校門を閉じる。ガンッと大きな音が鳴り、誰も入れぬようにした。
「ふっ。この程度の壁、私の力を持ってすればどうってことない!」
いなり仮面は校門に手をかけ、よじ登りはじめた。
「まずい!引き摺り下ろせ!」
ルドルフが慌てて、いなり仮面の足を引っ張った。しかしいなり仮面は引き摺り下ろされることなく、腕の力だけでよじ登る。足を掴んだままのルドルフは地面から足が離れはじめた。
「なんつー力だッ!?」
「大尉!大丈夫ですか!?」
マリナが慌てて声をかけた。ルドルフに今のところ実害はない。しかしいなり仮面は腕力だけで校門の一番上の部分に手を置いていた。
開校以来一度も不審者の侵入を許さなかったエルゼコビナ魔法学園に初めて不審者が突破しようとしていた。
「まずい!このままじゃ侵入されちまう!マリナ!俺に気にせず魔法をぶつけろ!」
「私の1.7倍の邪魔をするなあー!」
マリナは迷うことなく雷撃魔法を放った。
雷撃魔法の直撃を受けルドルフは痺れて下へ落下する。
しかし同じく直撃を受けたはずのいなり仮面は落下することなく、そのままよじ登ってしまった。
校門の上に立ちいなり仮面は高笑いする。
「ふはははは!諸君!君たちでは力不足だ!」
いなり仮面はそう言って敷地内に入ろうとした。
「火炎ハンマー!」
大きな声が聞こえたと思えば、いなり仮面は校門から吹き飛ばされ、地面に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたいなり仮面はサッと地面に可憐に着地する。
「ふはははは!変態め!この俺がいる限りおまえが敷地に入ることはない!」
そこにいたのはヨゼフ中隊所属のボナードだった。
「ボナードさんが役に立った!?」
マリナは驚愕の声を上げた。
「ふっ。まさかこの私を阻む者がいようとは」
いなり仮面はスッと姿勢を正し、ボナードを見上げる。
「しかし君さえ倒せば済む話。君を倒して私のおいなりさんのお披露目会といこう!」
いなり仮面は再び走り出し、ボナードへと向かった。ボナードは魔法槌に魔力を込める。
「戦士の鉄槌!」
ボナードは大きく踏み出して、魔法槌を振り切ろうとした。
「あっ」
しかし彼が立つのは足場の悪い校門の上。
踏み出した先には何もなく、足を踏み外し、ボナードは前のめりになって倒れた。
ボナードの元へと近づいていたいなり仮面のちょうど腰の高さにボナードの顔が現れ、そのまま正面衝突した。そしてボナードが倒れ込む勢いのまま、2人は落下した。
「…そこは私のおいなりさんだ」
校門から弾き出されたいなり仮面はそのまま地面に打ち付けられると、重力の法則により、彼のおいなりさんにボナードの顔がめり込んだ。
文字通り急所に打撃を被ったいなり仮面はおいなりさんを押さえながら身悶えした。
「確保ーッ!」
衛兵たちは慌てていなり仮面を押さえ込んだ。
マリナはそれを見届けるとすぐさま校門の下で倒れ込んでいるルドルフの元へと駆け寄った。
「大丈夫ですか!大尉!」
感電して動けないままのルドルフは「体が動かん」と率直に伝える。
「生きてるんですね。なら良かった」
「あっちも捕まったようだな。なら良かった…」
マリナはルドルフに回復魔法をかけてあげた。
この日。国際指名手配のいなり仮面はオルファンド守備師団に身柄を拘束され逮捕された。
エルゼコビナ魔法学園に入り込もうとした道徳的退廃は見事撃ち倒されたのであった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます