アリシアとの談笑

 6月のある日、マリナとルドルフが守衛所でお茶の準備をしているとアリシアが訪ねてきた。


「こんにちはマリナさん!差し入れを持ってきましたよ!」


 アリシアは手に持っている箱をマリナに手渡す。開けてみれば中にはクッキーがたくさん入っていた。どうやら学園の食堂を借りて作ったらしい。


「食べていいんですか?」

「もちろんですよ!」


 アリシアはニコニコとそう答える。お茶請けにちょうどいいと思い、マリナは快く受け取った。


「もし良かったら一緒に食べるか?」


 ルドルフがそう提案する。アリシアは「邪魔になりませんか?」と慌てるが、「休憩中だから気にするな」と返した。


「コイツは同じ年頃の友達がいなくてな。せっかくだから話し相手になってやってくれ」

「なんですか!まるで私がぼっちみたいなこと言わないでください!」

「実際そうだろ」


 ルドルフの言葉にマリナがムキーッと憤慨する。その様子を見てアリシアはクスクスと笑った。


「そういうことでしたらご一緒させてください」

「ねえ、ちょっと待って。そういうことでしたらって、私は別にぼっちなんかじゃないんですからね!」


 マリナの言葉にアリシアはクスクスと笑うだけだった。


 ルドルフは湧き上がったお湯を使って茶葉の入ったポッドに注ぎ、しばらく蒸らした。それからマグカップを3つ取り出して、それぞれに注いだ。


「熱いから気をつけろよ」


 マリナとアリシアはマグカップを受け取って同時に口をつけた。


「「あつッ!」」

「今言ったばっかだろ…」


 ルドルフは呆れたようにいう。


「アリシアさんは学校、どうです?楽しいですか?」


 マリナが気になったことを聞いてみた。


「はい!楽しいですよ!いろんな勉強ができて幸せです!」


 アリシアはニコニコと答える。


「王太子殿下たちにも色々とサポートしてもらえて大変助かってます!ただ…、他に友達が作れないんですよね…」


 アリシアの表情は曇った。


「周りは貴族の方々ばかりで、平民の私は浮いてしまって…。困ったことがあった時、王太子殿下や他の貴族のご子息から声をかけられて、色々とサポートしてもらってるんですけど、そうすると色目を使ってると言われるんですよね。そんなつもりないのに…」


 マリナはそんなアリシアを心配そうに見た。


「それは辛いですね…。嫌なことが続くようなら学校辞めちゃったほうがいいかもですね」

「おいコラ」


 ルドルフがマリナの頭にチョップをかました。


「痛い!?」

「普通はそこで「辞めたら?」って言わないだろ」

「だってこういう時、なんて声かければいいかわからないんですもん!」


 そう抗議するマリナにルドルフは鼻で笑った。


「やっぱ友達いないやつのコミュ力なんてそんなもんか」

「やりますか?大尉、やりますか?その喧嘩買いますよ!表出てください!」


 マリナとルドルフの掛け合いを見てマリナは一瞬キョトンとなるが、それからクスクスと笑った。


「楽しそうですね」


 その言葉にマリナとルドルフが一斉に振り返る。


「そういえばマリナさんはどうして守衛やってるんですか?」

「私?そりゃあお金になるからですよ」


 マリナはない胸を張ってそう答える。


「学校に通いたいとかは思わないんですか?」

「思わないですね。学校通ってる間はお給料出ないみたいですし」


 そんなマリナを見てアリシアは「もったいないなあ」と漏らした。


「学校楽しいですよ?知らないことをたくさん学べて、世界って広かったんだなあって痛感できます」

「そうなんだあ」


 マリナはしかしあまり学校に通うことに関心はなかった。


「マリナさんも通っていれば友達になれたかもしれないのに…」


 アリシアは小さくため息を吐く。その様子を見たルドルフは「こういう奴なんだ」とフォローした。


「もしマリナと仲良くなりたいんだったらいつでも遊びに来てくれ。仕事中は無理でも休憩中なら相手になるぞ」

「ちょっと待ってください。私を無視して勝手に決めないでください」

「なんだ?話し相手にならないのか?」

「……なります」


 マリナのその言葉にアリシアはパッと明るくなった。


「ありがとうございます!」


 アリシアはそう言ってから立ち上がる。


「そろそろ次の授業があるので、私はこの辺で失礼しますね。また遊びに来ます」


 そしてニコニコと微笑みながら守衛所を後にした。


「良かったな。友達ができそうで。これでぼっち引退だ」

「ぼっちぼっち言わないでください!」


 マリナはルドルフに抗議した。そんな彼女の抗議をルドルフは聞き流し、立ち上がる。


「さて、そろそろ休憩は終わりだ。持ち場に戻るぞ」

「はーい」


 ふとルドルフが思い出したように口を開いた。


「そういえばあの子の名前ってアリシア・ラッチェルだったっけ?」

「そういえばそうでしたね」

「どっかで聞いたことあるんだよなあ…?」


 ルドルフは頭をひねるがその名前の心当たりを思い出せずにいた。結局何も思い出せず、まあいいかと思って、そのまま守衛所から出る。


 今日もマリナたちは学園の平和のために巡回に勤しむのだった。

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