サウンドワーム
ライラン王国の学園都市オルファンド。そこに位置する王立エルゼコビナ魔法学園の守衛所で2人の衛兵が休憩をしていた。
「はぁ…。もうすぐ入学式かあ…」
マリナ・ハリフォン軍曹、15歳。彼女は机に突っ伏しながら気だるげに不平を漏らしていた。
「王太子の入学とかより一層警備を厳格にしないといけないじゃないですか。気が休まりませんよ」
「そう言うなマリナ。そう言うことがあっても抜かりがないように普段から1.7倍の給料をもらってるんだ。しっかり仕事をこなそう」
ルドルフ・ヤスパーニャ大尉、30歳。彼はマリナのために紅茶を入れながら彼女の口に答えた。
「仕事はいらないので給料だけください」
「そんな身勝手な…」
ルドルフが顔を引き攣らせながらマリナにティーカップを渡す。マリナは体を起こしてそれを受け取り、チビチビと飲み始めた。
「だってなんとなく今回の婚約破棄の主役、王子になりそうじゃありません?衛兵を巻き込む一大騒動とかこっちから願い下げですよ?」
「やめてくれ。そんな縁起の悪いこと言わないでくれ」
ルドルフは悪い想像を投げ飛ばすために頭をブンブンと振った。考えたくないがあり得ること。自分は関係ない、自分は関係ないと必死に自分に言い聞かせ始めた。
「そんな軽薄な男だったら王国も傾くかもしれませんね…。さらば私の1.7倍」
「だから縁起の悪いこと言うんじゃねえ!」
ルドルフは慌てたように怒鳴り、それから深々とため息を吐く。これ以上考えても心の健康に悪い。ルドルフは話題を変えることにした。
「おまえ自身は学校とかに興味ないのか?」
「学校ですか?通ってる間の収入はどうなるんですか?」
「出ないな…」
「給料出ないのに通うなんて時間の無駄じゃないですか」
マリナは呆れたように応える。
「いや。おまえくらいの年頃の子供だと学校通いたがるもんだぞ?通えば文官になったり商会に入ったりするのも夢じゃないし、運が良ければ貴族とかに見染められて結婚とかもできるんだぞ?」
「いやいや。そんなサクセスストーリーとかほんの一部でしょ?正直1.7倍を捨ててまでなりたいとは思いませんよ。それに例年の婚約破棄騒動とか聞いてると、あれの延長線上の世界にこれから入るのかって思えて気が休まりません」
マリナの正論にルドルフは
それから2人はのんびり紅茶を
「平和ですね…」
「だな…」
「サウンドワームが出たぞー!」
「「……」」
休憩中の2人の耳に害虫の名前が入った。
「休憩終わり!行くぞ!」
「うわーん!もう少し休みたかったよお!」
ルドルフにせっつかれ、マリナが泣き言を言いながら立ち上がった。ルドルフは剣をマリナは魔術師用ロッドを握り、いざ現場へ。
学園の西側に広がる森にはサウンドワームがボコボコと穴を開けていた。
「おかしい…。サウンドワームって砂漠に生息する生き物じゃ…」
「それは “サンド” ワームな」
「あれ?じゃあ “サウンド” って?」
「ギャビイイイイイイイイ」
突如うるさい鳴き声が鳴り響き、マリナとルドルフが耳元を押さえた。
「うっさー!?」
「音響攻撃かますから “サウンド” ワームなんだよ!」
「あれとどうやって戦えと!?耳栓とか持ってないですよ!?」
「前に結界魔法で一旦閉じ込めて、自分の音響攻撃に
「あれを結界魔法で閉じ込めるんですか!?体長10メートルくらいありますよね!?」
サウンドワームの大きさを見て、必要とされる結界の規模と魔力量を想像し、マリナは口をあんぐりとあけた。
「あ。でもいけそう」
「よし!マリナ!やれ!」
マリナはルドルフに言われるがままに結界魔法を発動させた。
「バリエーレ!」
巨大な結界を張り、サウンドワームをその結界の中に閉じ込める。急に張られた結界にサウンドワームは激突すると同時に音響攻撃が自身に跳ね返り、結果怯んでしまった。
「やりましたよ!」
「よし!その隙に!」
衛兵たちが一斉にサウンドワームへと向かう。
その衛兵たちの1人ボナード・アリアンベルドが我一番にと高々とジャンプして飛びかかった。
「一番槍はこの俺だー!」
ところがみんな失念していた。サウンドワームを怯ませるほどの固い結界である。内側から外へは出られない。それはすなわち、外から内にも入れないわけで……。
「ゲブッ」
「ボナードさん!?」
「「「「ボナード!?」」」」
ボナードはそのまま結界に激突して地面に落下した。
「マ、マリナ!結界解除し忘れてる!」
「ヤバっ!?」
マリナは慌てて結界を解除した。しかしその隙にサウンドワームが体勢を立て直して、起き上がった。そしてちょうど目の前に
それを食べた。
「ボナードさぁん!!!?」
「「「「ボナードぉ!!!?」」」」
そしてサウンドワームはそのままどっかへと去ってしまった……。
そのまま連れ去られたボナードは、後日ヨゼフ中隊によって無事救助され、医官のリュシィに引き
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