第56話 ルドとの再会

リディア達はいつものようにギルドで薬草採取のクエストを受理し、北の森へと向かった。森の入り口に差し掛かると、リディアは深呼吸をした。木々の香り、鳥のさえずり、そしてかすかな風の音。森の中はいつも以上に静かで、不気味さすら感じられた。




「今日もたくさん採取するにゃ」とフェンが元気よく声を上げる。


「そうね。でも、魔物にも注意を払わないと」とエレンが冷静に応じた。




 道中、ゴブリンやウルフが出現したが、リディアたちは順調に倒しながら薬草を採取していった。今日は仲間のルークやサクラがダンジョン遠征中のため、リディアたちは少人数での行動だった。




 森の奥へと進んでいくと、二人組の男が獣人の子供たちを捕らえている現場を発見した。




「何やってるんだ!」リディアは怒りの声を上げ、全力で走り出した。




「なんだお前ら、これを見たからには死んでもらうぞ」




 リディアは一瞬で二人組との間を詰め、手刀で彼らを気絶させた。彼の動きは鋭く、敵は全く反応できなかった。エレンとフェンはすぐに子供たちを助け出した。




「エレン、フェン、捕まっている子供たちを頼む」


「わかったにゃ」


「了解しました。回復魔法もかけておきますね」




 持っていたロープで黒づくめの二人組を縛り上げたリディアは、子供たちに優しく声をかけた。




「きみたち、ほかに痛いところはない?」


「…」




「君たち、名前を教えてくれないか?」


「…」




 フェンが話し始めると、1人の子供が恐る恐る顔を上げた。「僕たち、二人で果実を取りに森へ出て行ったんだ…」


「そ・それで果実を採取しているときに背後から襲われて…」


「わかったにゃ。集落はどっちかわかるかにゃ?」


「た・たぶん、あっちだと思う…」




「リディア、集落まで送っていくにゃ」


「わかった。でも、この二人を残しておくわけにはいかないから、エレンと二人で行ってきてくれ」




 エレンとフェンは子供たちを連れて集落の方向へと進んで行った。道中、エレンは回復魔法を使いながら、子供たちの心と体のケアを続けた。




 森を進んでいくと、やがて小さな集落が見えてきた。そこには、以前リディアたちが迷宮で助けたトラ型の獣人、ルドがいた。ルドは子供たちの姿を見るなり、驚きと喜びの表情を浮かべた。




「エレン、フェン!君たちが子供たちを救ってくれたのか!本当にありがとう!」 ルドは子供たちの姿を見るなり、驚きと喜びの表情を浮かべた。




「お久しぶりです、ルド。子供たちが無事でよかったです。リディアが捕まえた男たちはこれから街へつれていき衛兵へ引き渡します」


「感謝してもしきれない。本当にありがとう」




 ルドの案内で、エレンとフェンは集落の中に入り、暖かいお茶と食事を振る舞われた。集落の人々はみな、リディアたちの勇敢な行動に感謝し、感謝の言葉を口々に述べた。




「リディアたちのいる場所に戻るにゃ」


「そうだね。ルド、ありがとう。また何かあったら助けに来るから」




「ありがとう。気をつけて戻ってくれ」




 エレンとフェンは集落を後にし、再び森の中を進んでリディアの元へと戻った。




 一方、リディアは捕らえた二人組を監視しながら、エレンたちの帰還を待っていた。森の静寂の中で、仲間たちの無事を祈りつつ、警戒を怠らなかった。




 数時間後、エレンとフェンが集落から戻ってきた。「子供たちは無事に戻りました。ルドもとても感謝していました」




「ルド?ルドがいたのか?」


「そうにゃ。ルドにゃ。すごく感謝してたにゃ」




「よかった。じゃあ、この二人を街の衛兵に引き渡しに行こう」




 リディアたちは捕らえた二人組を連れて、慎重に森を抜け、クレストの街へと戻ることにした。日が傾き始め、森の中は薄暗くなっていたが、リディアたちは確かな足取りで歩を進めた。エレンとフェンが子供たちを無事に送り届けたことを考えると、その安心感が彼らの心を少し軽くしていた。




「リディア、このまま衛兵に引き渡しても大丈夫だよね?」


「大丈夫。私たちがしっかり説明すれば、きっと理解してくれるはず」




 街に近づくにつれて、リディアたちの足取りはますます軽快になった。クレストの街の門が見えたとき、彼らの心には安堵感が広がった。門の近くには数名の衛兵が立っており、リディアたちに気づくと不審そうな目を向けた。




「どうしたんだ?そいつら盗賊か?」


「私たちはギルドの冒険者です。この二人は森で獣人の子供たちを捕らえようとしていた犯人です」




 衛兵たちはリディアたちの話を聞き、捕らえられた二人を見て顔を見合わせた。彼らの態度にはまだ少しの疑念が残っていたが、リディアたちの真剣な表情としっかりとした説明に次第に納得していった。




「わかった。まずは身分証明書を見せてくれ。冒険者であることを確認したい」




 リディアは頷き、腰に下げていたポーチからギルドの冒険者証を取り出して見せた。エレンとフェンもそれぞれ自分の証明書を提示した。




「これが私たちの冒険者証です。ギルドでの登録も確認できます」


「うん、確かにギルドの証だな。そして、それぞれのレベルも記載されている」衛兵はしばらく冒険者証を確認し、その後、仲間の衛兵たちと軽く目配せを交わした。




「ありがとう。これで君たちがギルドの冒険者であることは確認できた。では、この二人を引き渡してくれ。詳しい話は隊長に聞かせてもらうことになる」




 リディアたちは捕らえた二人を衛兵に引き渡し、隊長の元へ案内された。隊長は威厳ある姿で迎え入れ、リディアたちの話を真剣に聞き始めた。




「なるほど。貴重な情報をありがとう。君たちの勇敢な行動に感謝する。これから我々が調査を進め、この件を徹底的に解明する」




 リディアは隊長の言葉に安堵の息をつき、仲間たちと顔を見合わせた。エレンもフェンも、ようやく任務が終わったという表情を浮かべていた。




「これで少しは街の平和が保たれるだろう。リディア、本当にお疲れ様」


「みんなのおかげでうまくいったよ。ありがとう」




 リディアたちはその後、ギルドに戻り、今回のクエストの報告を行った。受付嬢は彼らの活躍に深く感謝し、報酬を手渡した。




「皆さん、本当にご苦労様でした。あなたたちのような勇敢な冒険者がいてくれるおかげで、この街の平和が守られています」




 リディアたちは感謝の言葉を受け取りながら、ギルドを後にした。外にはまだ夜の気配が漂っていたが、彼らの心には新たな希望が宿っていた。




「さて、次の冒険に備えてしっかり休もうか」


「そうだね。次もまた一緒に頑張ろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る