第41話

第41話 迷宮の謎と試練 その1




 リディア、エレン、フェンの三人は、セバスを救うためにクレスタの街を出発した。エイルから渡された魔法のアミュレットは、彼らを導く重要なアイテムであった。アミュレットは淡い光を放ち、迷宮への道を示していた。




「セバスを救うためには、一刻も無駄にできないわ。」エレンが焦りと決意を込めて言った。




 リディアもそれに同意し、「そうだ、私たちの時間は限られている。急ごう。」と答えた。フェンもその言葉に頷き、三人はペースを上げて進んだ。




 数日後、彼らはついに迷宮の入口と思われる祠にたどり着いた。祠は古びた石造りで、不気味な雰囲気が漂っていた。アミュレットが淡い光を放ち、祠の扉を照らした。




「ここが…祠へ続く迷宮の入口か。」リディアが呟いた。




 エレンは緊張しながらも、「セバスがこの中にいるかもしれない。準備はいい?」と確認した。




 フェンも頷き、「にゃ、準備はできている。行こう、セバスを助けるために。」と意気込んだ。




 リディアはアミュレットを握りしめ、「さあ、行こう。」と祠の扉を押し開けた。扉が重々しい音を立てて開き、彼らは暗闇の中へと足を踏み入れた。




「これが…迷宮か…」リディアは周囲を見回しながら呟いた。壁が時折、自らの意思を持つかのように動き、目の前の通路を閉ざしたり、新たな道を開いたりしていたが、彼らはまだそれに気づいていなかった。




 エレンは緊張しながらも「この迷宮には、魔物の気配はまったくしませんね。」といい、フェンも力強く頷いた。




 道は複雑に絡み合い、迷路のように入り組んでいた。彼らは何度も立ち止まり、アミュレットの光に導かれて進んだ。ある場所では壁が突然動き、通路が閉ざされたかと思えば、別の場所では床が突然開いて落とし穴が現れた。




「注意して進もう。ここには何が待ち受けているかわからない。」リディアは警戒心を高めた。進むにつれて、彼らは同じ場所を何度も通っているような錯覚に陥った。壁が動いて道が変わるたびに、彼らは迷路の中で迷子になっているような感覚に襲われた。




 ある時、フェンが突然立ち止まった。「待つにゃ、リディア。木が…動いているにゃ?」フェンは指を差して言った。リディアとエレンはその方向を見たが、最初は何も異常に思わなかった。しかし、じっと見つめていると、確かに木がゆっくりと根を動かしながら移動しているのがわかった。




「これは…どういうことでしょうか?」エレンが驚いて声を上げた。「この迷宮は生きているんだ。」リディアは静かに言った。「私たちが進んだ後に、木が場所を変えている。迷宮そのものが私たちを惑わせようとしているんだ。」




 フェンは恐怖を感じながらも、「それじゃ、どうすれば良いにゃ…?」と不安げに尋ねた。リディアはアミュレットを握りしめ、「冷静に、アミュレットを信じて進むしかない。」と決意を新たにした。




 彼らは進む道が閉ざされるたびに新たな道を探し、動く壁や木々に翻弄されながらも前進した。しかし、迷路の先に見える祠らしき建物には一向に近づけない。視界の先には常に祠の姿が見えているのに、歩けば歩くほど遠ざかるような感覚に苛まれた。




「こんなに近くに見えるのに、どうして…」エレンが嘆くように言った。リディアは歯を食いしばり、「これは迷宮の罠だ。我々の心を挫こうとしている。だが、諦めるわけにはいかない。」と答えた。




 フェンも覚悟を決め、「にゃ、私たちがここで諦めたら、セバスはどうなるか…。何があっても進むにゃ。」と決意を示した。




 三人は再び歩を進めた。壁が動き、道が変わるたびに、彼らは立ち止まり、アミュレットの光を頼りに新たな道を見つけ出した。時には絶望的な気分に襲われることもあったが、リディアのリーダーシップと仲間たちの支え合いが彼らを支えていた。




 道中、彼らは様々な罠や幻覚に遭遇した。突然現れる幻影や、足元から出現するトラップ。フェンが注意深く周囲を観察し、危険を察知するたびに彼らは立ち止まり、新たな道を探し出した。結束力が試される瞬間だった。




 進んでいくうちに、小さな影が動くのを見つけた。それは妖精だった。妖精は翼を広げ、彼らの前に立ちふさがった。




 リディアたちはすぐに戦闘態勢に入った。すると、妖精が声を上げた。




「ここはお前たちが来る場所じゃない!帰れ!」妖精は鋭い声で叫んだ。




 リディアは冷静に、「私たちは仲間を救うために来たんだ。どうか道を教えてほしい」とお願いした。しかし、妖精は首を振り、「誰もこの迷宮を通ることはできない。特に外部の者は!このまま進めば、命を吸い取られてしまうぞ!」と警告した。




 リディアは再び説得を試みた。「それでも、私たちは行かなければならない。仲間が囚われているんだ。どうか協力してくれないか?」




 妖精はしばらくリディアの目を見つめ、その誠実さを感じ取ったのか、ため息をついて言った。「忠告はしたぞ。それでも進むなら、お前たちの責任だ。」と言って、翼を広げて飛び去った。




 リディアたちはその場に立ち尽くし、妖精の警告の重みを感じ取った。「この迷宮がどれだけ危険なのか…しっかりと肝に銘じて進もう。」リディアは決意を新たにし、再び歩を進めた。




 リディアたちは、巨大な三つの石の扉に行き当たった。迷宮の静寂を破るように、左の石の扉が低い声で話し始めた。




「おい、お前たち。どこへ行く?」




 続いて、真ん中の扉がエコーのように声を発した。「どこへ行く?どこへ行く?」




 最後に、右の扉が鋭く問いかけた。「お前たちは何者だ?進むのか?引き返すのか?」




 リディアたちは驚き、戸惑いながらも、リーダーであるリディアが一歩前に出て答えた。「私たちは仲間を救うためにここに来た。道を教えてほしい。」




 扉たちはしばらく沈黙した後、また話し始めた。左の扉が重い口を開いた。「久しぶりに話せてうれしいぞ。しかし、お前たちが選ぶべき道は一つしかない。」




 真ん中の扉も続けた。「一つは祠への近道だが障害が多い道、もう一つは祠への遠回りだが障害が少ない道、そしてもう一つは入口へ戻される道。」




 右の扉がさらに説明を加えた。「どの扉がどの道かを見極めるのはお前たち次第だ。選び間違えれば、時間と命を無駄にすることになるかもしれない。」




 リディアは一瞬考え込んだ。「あなたたちは正解の道を知っているのか?」




 扉たちは一斉に笑い始めた。左の扉が言った。「知るわけないだろう。扉なんだから。」




 真ん中の扉も笑いを続けた。「この奥の道のことはまったくわからない。我々はただの扉だ。」




 右の扉がさらに続けた。「開けろといった扉を開けるのが我々の仕事だ。」




 フェンが不安そうに耳を立てた。「リディア、どうするにゃ?」




 エレンも真剣な表情でリディアを見つめた。「私たちの命がかかっているわ。慎重に質問を考えましょう。」




 リディアは深呼吸をし、扉たちに向かって尋ねた。「正解の道を選ぶためには、何を基準にすればいいのか?」




 扉たちは重い沈黙の後、答えた。左の扉が「お前の心に問いかけろ。真実を知るのは自分自身だ。」




 真ん中の扉が「真実を見つけるのは難しいが、道は常にそこにある。」




 右の扉が「一歩一歩、確実に進むことが大切だ。」




 リディアは扉たちの言葉を心に留め、エレンとフェンに向かって言った。「私たちの心を信じて進もう。正解の道はきっと見つかる。」




 エレンは頷き、「リディア、あなたの決断を信じるわ。」と答えた。




 フェンもその言葉に同意し、「にゃ、私たちの心を信じるしかないにゃ。」と励ました。




 リディアは再び扉たちに向かって言った。「私たちは真ん中の扉を選ぶ。」




 扉たちは一瞬静かになり、そして真ん中の扉がゆっくりと開き始めた。「お前たちの選択が正しいことを願っている。」




 三人は決意を新たに、開いた扉の向こうへと足を踏み入れた。背後で扉が音を立てて閉じ、再び静寂が訪れた。




 迷宮の中で新たな試練が待ち受けていることを感じながら、リディアたちは一歩一歩進んでいった。

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